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十九話
しおりを挟む恐る恐る、ユキが頷いた。
グッドナイトも立ち上がると、ユキをぎゅっと抱きしめた。
「ひとまず、やつらはオイルタウンからネオン街を調査しながら抜けてくるわ。このブラックタウンへは一時間ほどで到着するでしょうね。その辺のやつらには根回しをしておいたから、それくらいは時間が稼げる。その隙に、わたしたちはやつらと逆ルートでネオン街へ戻る。メロウとユキちゃんには、わたしたちの店の地下から港へ向かってもらうわ」
エイミーのテキパキとした言葉を聞きながら、メロウは机の上をサッと片付けスーツケースを持った。
コートを羽織ると、ポケットから懐中時計のようなものを取り出し、ダイヤルをひねる。
時計がパアっと光り、メロウの姿が足元から変わっていく。
おおよそブラックタウンでは見かけない服装だったメロウが、細身の黒いデニムに茶色い革のジャンパーという、グレートフィールドの都市部でもよく見かけるような青年となった。
金茶の紙は濃い栗色に変わり、スーツケースはアンティーク調のトランクへと姿を変えた。
「わたしもOKです。ラグラ、行きましょう」
メロウがカードの名でユキを呼ぶと、ユキはハッとしてラビを見つめた。
ラビは戸惑うユキを少し笑い、大丈夫!と耳元で囁く。
一度ぎゅっと唇を結び、ユキは少し強めに返事をした。
「はい、行きます!リ、リンドバーグさん」
ふ、と笑うとメロウは「ロシュで」と言い、グッドナイトに目を移す。
「表から出るのは危険です。裏口へ案内していただいても?」
グッドナイトがちらりとユキを見ると、ユキはさっと体を避け自分の部屋へ三人を促した。
「裏口は、普段見えないようにしてあります。わたしの部屋にあるので、どうぞ」
こじんまりとした小さな部屋は、素朴な木の床の上にベッドとチェストがあるだけだった。
部屋の一番奥にベッドがあり、その壁に窓がある。
ベッドの横には小さいチェストと大きめのチェストが並んで置かれ、他は一面白壁だ。
「扉なんて無いよ?」
キョロキョロと見まわすラビを、メロウは意外そうに見つめた。
「ラビでも分からないとは。さすが元博士ですね」
グッドナイトが三人を押しのけ部屋へ入ると、ベッド横の小さなチェストの、一番下にある取手を引き出した。
ブウンという低い音と共に、何もなかった大きなチェスト横の白壁に灰色の戸が現れる。
「わあお!」
ラビが声を上げて喜ぶ。
メロウも感心したように頷いている。
「ボロのようでボロではない、全てミスターグッドナイトが造ったのですね」
その言葉にグッドナイトはムッとした様子で睨み返した。
「ボロではない!アンティークとか、レトロ調とか・・・・言い方があるだろう!」
ぶつぶつと文句を言いながら、扉についていた小さい四角に手のひらをつける。
扉に文字が現れ、《コード:認証》と出て勢いよく扉が開いた。
「さあ、四人とも急ぐんだ」
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