バイオテック・ローレライ

瀬良ニウム

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十六話

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ユキやグッドナイトが驚いている隙に、ラビはユキの髪をキュッと二つに結ぶ。

仕上がりに、ラビとエイミーは手をパチンと合わせた。

「どう?カードの通りの見た目になったでしょ。地味だけどそこは仕方ないわね。目立ったら意味ないし・・・・このレンズ、高かったのよ。仕入れるの」


ちらりとエイミーがメロウを見ると、メロウは二度頭を下げて見せた。

「もちろん、後ほど振り込ませていただきます。お二人には、本当に感謝しかありませんから」

その言葉に、ラビは首を振る。


「まだだよ、メロウ!西の大地から出られたら、振り込んで。それまでは、アリガトウもしちゃダメ!」


そうよ、とエイミーが続けた。

「姿形が変わっても、気づく人はいるわ。あなたなら大丈夫だと思うけれど、気を抜かずに、細心の注意を払ってね」



「マスター、わたし・・・・」


ユキがふと、グッドナイトを見つめる。

グッドナイトはユキの両手をぎゅっと握りしめた。


「行くんだ。彼の話が本当なら、もうすぐここへ政府の役人達や軍人が来るだろう。その前に逃げるんだ。俺だって、まだ彼の全てを信用して訳じゃない。けれど、このエイミーがここまで協力している奴ならきっとおまえを助けてくれる」


その言葉と真剣な眼差しに、ユキは小さく頷くほか無かった。

「さあ、自分の部屋で必要な荷物を詰めておいで。服も着替えて、首筋の隠れるものにするといい」

グッドナイトに促され、ユキは席を立つともうひとつ奥へと続く扉から出て行った。
俯いたままのグッドナイトの頭に、エイミーが優しく触れる。


「よく決断したわね。自分の娘のように守って、可愛がってきたんでしょう」


言葉のひとつひとつが、しんとした部屋に響く。



「俺は」


ふいにグッドナイトが顔を上げた。


「メロウ、まだ君を本当に信用している訳ではない。少しは話してくれないか?いったいどういった経緯でエイミー達を知り、ここを突き止めた?目的は、本当にユキを政府に渡さないよう逃がすためか?」


メロウは少しグッドナイトから視線を外すとスーツケースをトン、とテーブルの上へ置いた。


「ゆっくり語るのは無理ですが、時間の許す限りで」


そう言うとケースを少し開き、中から数枚の紙を取り出し三人に見えるよう並べた。


一枚は、女性の顔写真が一緒に留められていた。

【西の大地国《グレート・フィールド》 国家直属機関 外務室 事務次官 アニー・ロドリゲス】

「これは、政府の役人じゃないか。それもかなりの重役だが」


写真の女性は、長い栗毛色の髪を後れ毛などないくらいきつく後ろに束ね、目の端が吊り上がった厳しそうな顔をこちらへ向けている。

ワインレッドの軍服は政府の軍隊や各機関の中でも特に位の高い者が身に着けられ、彼女の場合はさらに、功績によって増える左胸のバッヂがいくつもぶら下がっていた。


「アニーはわたしの姉です」


メロウの声に力は無く、むしろ悲しみのような音が混ざっていた。

「政府の役人が姉・・・・?」


グッドナイトは全くもって納得できない様子でいる。
政府からユキを逃がそうとしている者の家族が、機関の役人。

彼女のプロフィールの下には、警備隊に所属してから事務次官へと昇り詰めるまでの功績がありありと書かれている。


「どういうことだ?姉に引き渡すのではなく、逃がす・・・・?」


メロウはもう一枚の紙を指さした。

文章がびっしりと書かれているが、そのほとんどが黒く塗りつぶされている。


「これは?」


グッドナイトは手に取って読もうとしたが、重要そうな箇所は何一つ読めそうになかった。


「すみません。いつもなら黒塗りも解除して打ち出すのですが、あいにく時間が無く」


メロウは溜息まじりに話を続けた。


「彼女は姉ですが、今はわたし自身も彼女から追われる身です。ハッキングや違法行為も辞さない私立探偵なんて、それだけで政府からは追われるのですが。今回はそれだけではありません。彼女はローレライの真偽を確証に変え、ユキさんを政府の兵器に利用しようとしている奴らの指揮を執っています。人を利用して他の国家を脅かし、ましてや戦争の道具にしようだなんて・・・・身内として本当に情けなく思いますよ」


「じゃあ、おまえは・・・・」

グッドナイトの言葉を遮るように、メロウは力強く答える。


「はい。わたしは、ユキさんを守り、姉を止めたいのです。彼女は・・・・この国は間違っている」

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