バイオテック・ローレライ

瀬良ニウム

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第九話

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「・・・このカフェより少し離れた所にある、オイルタウンと呼ばれる場所はご存知ですか?」


グッドナイトは首を縦に振った。


「もちろんだ。この寂れた地区の中でも、一番荒れている小さい住宅街だ。あそこに住んでるのは他の場所に住めない貧乏人か、孤児や、訳ありの奴らばかりだよ。工場が昔近くにあってな、その名残か油で真っ黒な建物しかないのが呼び名の所以だ」


メロウは、その通りです、と言わんばかりに少し口端を上げた。


「彼女は、そこの住人ですよ。その場所で情報屋をやって稼いでいるみたいです。政府もあなた方を探す為、金額を上げて様々な所から有益な情報を仕入れようとしていたようですね」



カウンターの椅子に座り、メモ書きの隣りにカバンから取り出した別の紙を置く。


そこには、幼い頃のユキと思われる少女の写真と共に、情報の内容と金額が書かれていた。


居住地・本人を見つけた場合 500万
目撃情報・写真等 200万
その他の情報 要検討



「これは、昔ユキの自宅に飾られていた家族写真だ・・・ご丁寧に切り取りやがって」


グッドナイトは悔しそうに紙を握りつぶした。



「そういった界隈でばら撒かれていたビラのひとつです。他にも脱走犯や行方不明になった科学者など沢山の依頼がある中で、そのひとつだけは異質でした。何をしたとも、なぜ探しているかも書かれていません。そして報酬の額も桁違いです」



メロウの言葉に、グッドナイトはもう一度紙を伸ばして隅々まで読み始めた。


確かに、犯罪者や参考人として追っている、といったような内容は一切書かれていない。


「タイニー・ベスは、カフェに彼女がいると確信を持って来ていた訳ではないようです。あくまでも、様々な依頼の情報収集をするために色々な方と話をしていた、と。ですが偶然にも前日に手帳を店で落とし、その日は朝探しに来ていたとの事でした」


鍵をかけ忘れていたのか、とグッドナイトは俯きながら自分自身の頭を掻きむしる。
その横で、ユキは恐る恐るメロウを見た。


「あの・・・・」


美しい鈴の音のような声で問いかける。


「なぜ、貴方はそこまで知っているのですか?」


ユキの問いかけに、グッドナイトもハッとして顔を上げた。

「それは・・・・」


メロウは気まずそうに語尾を濁す。
そして口に手を当てると、ふーっと息を漏らした。


「彼女自身から聞きました」


ガタッと音が鳴ったかと思うと、グッドナイトは咄嗟にメロウに詰め寄った。


「お、おまえも仲間なのか!?ユキを売るつもりで、ここへ!?その為にそんなに調べてきたのか!?」


メロウのシャツの襟ぐりを掴むと、大きく自分に引き寄せる。
刹那、メロウはまるで細身の青年とは思えないような力で首元にかけられた手をクイと捻ってはずした。


「違います。正確には、彼女を捕らえ、聞き出した、と言うのが正しいですね」


グッドナイトはその力に驚きつつ、後ろへよろよろと数歩下がる。



「タイニー・ベスには、北の大地付近の海へと船で流れていただきました。北の大地は今、他国との交流を絶ってますから。不審者として捕まれば帰って来られないでしょう」



襟元を両手で直し、グッドナイトの手をそっと握った。


「手荒な真似をして申し訳ない」


グッドナイトはカウンターの椅子に力無く座り、首を振る。


「い、いや、手荒な真似をしたのは俺の方だ。すまなかった。でも、教えてくれないか」



メロウを見上げ、ふと目元を緩めた。


「なぜ君は、こんなにもユキの事や俺の事を調べ上げ、情報屋を消そうとする?俺たちを売る訳でないのなら、君にそこまでする理由も、利益もないだろう?」
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