バイオテック・ローレライ

瀬良ニウム

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第八話

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メロウは、グッドナイトと語りながら並べた書類を片付け始めた。


その間から、スルリと何か抜け落ちる。


並べられていた紙とは少し違った素材の一回り小さいそれは、ヒラヒラと舞うようにカウンターの中へ入った。


足元に落ちた紙を、グッドナイトが拾い上げて目を向ける。
そしてハッとしたようにメロウを見ると、真剣な眼差しで向かい合う彼と目があった。


「お、おい・・・これは?」


問いかけに、メロウは小さく頷く。


その紙には、急いでペンを走らせたような字でカフェ・スローの名と所在地が書かれていた。
そしてその下には、タイニー・ベスという名前が添えられている。


「・・・その名の女性に、覚えがありますか?」

メロウの一言に、グッドナイトはゴグリと唾を飲み込んだ。


「タイニー・ベスという名の女はうちの常連客だ・・・昔からこの辺りに住んでいると言っていた、ごく普通の、中年の・・・・」

言い終える前に、メロウはカウンターに両手をつき、グイとグッドナイトへ顔を突き出した。


「このメモ書きは、わたしがとある政府の上層部の人間から拝借してきたモノです。このメモ書きさえ無ければ、わたしもカフェ自体へ辿り着く事ができたかどうか・・・・」


政府、という言葉にグッドナイトは唇をキュっと結んだ。


灯台下暗し、そう踏んでここへ戻ってきたものの、もし居場所が明るみになればきっと彼女は捕まってしまう。
そしてその能力さえも、知られる事となる。


「いずれ、ここへは政府の警備隊や軍が踏み込んで来るはずです。貴方達は、そのタイニー・ベスという名の女性によって政府へと売られたのです」


そこまでメロウがはっきりと言い切ると、店の奥からガシャンと大きな物音がした。
カウンター横には細い木製の扉があり、そのすぐ裏から、それは聞こえてきた。

「ずっと・・・そこで聴いていたのですね」


メロウは扉を見つめる。
グッドナイトがゆっくりと扉を開けると、足元には水と割れたグラスが散乱していた。

「は・・・・」

そしてそのすぐ後ろに立っていた少女に、メロウは吐息をもらした。


白銀の腰元まで伸びた輝く髪に、透き通る程の白い肌。
深い海の底のような瞳と、薄桃のような色をした口。
それは首から右肩まである幾何学模様のような痣ですら、芸術的に見せる程の美しさだった。


「ユキ!怪我はないか?」


グッドナイトの声に、ユキ、と呼ばれた少女は首を振る。


「わたし、わたし・・・・」


不安の混じった声が、鈴が揺れているような、美しい声音で店内に響く。

狼狽えるグッドナイトの両腕に手を掛け、ユキはぐっと掴んだ。


「わたし、お店に誰も居ないと思って、一度この扉を開けてしまったの!いつも、開けないようにと言われていたのに・・・あの時は、マスターが買い物から帰って来たのだとばかり思って・・・・」


グッドナイトは、慌てふためくユキを優しく抱きしめる。


「大丈夫!大丈夫だ・・・・」


そのままちらりと後ろへ顔を向け、メロウへ向けて話し始めた。


「ほんの、二週間ほど前の話だ。ここはいつも8時くらいに店を開けるんで、その前に俺は買い出しへ行くんだ。でもその日は市場のオヤジと話し込んじまって、少し帰りが遅くなった。帰ったら店の戸の鍵が開いてたから、変だとは思ったんだが・・・・」


メロウが代わりに続ける。

「その間に入り込んでいたのが、このタイニー・ベスだったと・・・そしてそれを知らず、貴女がその扉を開けて彼女に姿を見られてしまったんですね」


グッドナイトから少し離れつつ、ユキは頷いた。


「あの時は、マスターじゃなかった事に驚いてすぐに扉を閉めてしまって・・・・」


ふーっと長い息を吐きながら、グッドナイトは近くにあった短い箒とチリトリで散らばったグラスの破片を集める。


「まさかあの女が、こそこそ嗅ぎ回ってたとはな・・・3日に一度くらい店に来て、コーヒー飲みながらほかの奴らと他愛もない会話して行くだけの、普通の客だったのにな」



集まったガラスをゴミ箱へ捨てると、そのままカウンターを出てメロウの横へと並んだ。


「おまえさん、この女がどうゆう素性かも知ってるのか?」


グッドナイトは低い声で、カウンターにメモ書きを置いて指さした。
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