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第四話
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メロウは話を続ける。
「落雷の直後、ラボを含めた周囲の電源は全て落ちました。当然、彼女に繋いでいたコードも、生命を維持するために施していたその全てが、機能を失ったのです。これは・・・絶望でしかない」
マスターはそっと瞼を閉じ、うつむいた。
「しかしそこに、本当に魔法としか言いようのない奇跡が起こります」
メロウは立ち上がり、店内をコツコツと歩きながらガラス張りの窓の前に立つと、そっと手のひらを押し当てた。
「蘇生、したのです。落雷によって、その場に居た全員が彼女の完全なる死を覚悟していたとき、彼女は目を開けた」
彼は店内へと振り返り、両腕を広げた。
「そしてその奇跡と言う魔法によって、彼女は特殊な能力を授かりました。ローレライの生まれた瞬間です!」
額につつ、と汗を流し、目は見開いている。
その先に映るマスターは、静かにメロウを見つめ返した。
「その後、彼女は数ヶ月かけてリハビリをし、誰が見ても以前となんら変わりのない姿へ戻りました。まして、身体の半分が機械だなんて、誰も思わない」
マスターへ目をやりながら、メロウは自分が掛けていたイスへと戻った。
「このリハビリを行なっていた数ヶ月、彼女の家周辺に住んでいた人たちはとある歌を耳にしています。曲名はおろか、その旋律さえも今まで聴いたことのないものだったそうですが・・・不思議なことに、心が洗われるような、とても癒される歌だったらしいのです」
カウンターに並べた紙を整理しつつ、メロウの口調は興奮から穏やかさを取り戻す。
「彼女が事故に遭う前に家から聴こえてきた歌声もとても美しいものだったようですが、ただ美しいだけでなく、その後の歌は本当に人々に癒しを与えました・・・心だけでなく、物理的にも」
メロウは視線を紙に落とすと、ふふ、と微笑んだ。
「その歌声を聴いた人たちに実際話を聞きました。そのうち数人が、歌を聴いた直後に、怪我や病気が良くなった、もしくは、完全に治癒したそうです」
嬉しそうに語るメロウに、マスターは少し怪訝な顔で彼を見た。
「それが、彼女の歌声によるものだという証拠は無いのだろう」
その一言に、彼はピクリと眉を動かす。
「・・・そうですね。この時まではまだ、偶然が重なっただけかもしれませんし、もしこれだけであれば、ローレライという呼び名はその地域だけで彼女を指す言葉として終わったでしょう」
声音が低くなり、メロウはそっと拳を握り締めた。
「きみは・・・・」
マスターの言葉を遮るように、彼は続けた。
「その癒しの歌声が少し噂されるようになった直後、彼女には事故よりも本当の悲劇が起こりました・・・そしてその悲劇が起こってしまったからこそ、彼女の異名は、西の大地中へと広まっていったのです」
「落雷の直後、ラボを含めた周囲の電源は全て落ちました。当然、彼女に繋いでいたコードも、生命を維持するために施していたその全てが、機能を失ったのです。これは・・・絶望でしかない」
マスターはそっと瞼を閉じ、うつむいた。
「しかしそこに、本当に魔法としか言いようのない奇跡が起こります」
メロウは立ち上がり、店内をコツコツと歩きながらガラス張りの窓の前に立つと、そっと手のひらを押し当てた。
「蘇生、したのです。落雷によって、その場に居た全員が彼女の完全なる死を覚悟していたとき、彼女は目を開けた」
彼は店内へと振り返り、両腕を広げた。
「そしてその奇跡と言う魔法によって、彼女は特殊な能力を授かりました。ローレライの生まれた瞬間です!」
額につつ、と汗を流し、目は見開いている。
その先に映るマスターは、静かにメロウを見つめ返した。
「その後、彼女は数ヶ月かけてリハビリをし、誰が見ても以前となんら変わりのない姿へ戻りました。まして、身体の半分が機械だなんて、誰も思わない」
マスターへ目をやりながら、メロウは自分が掛けていたイスへと戻った。
「このリハビリを行なっていた数ヶ月、彼女の家周辺に住んでいた人たちはとある歌を耳にしています。曲名はおろか、その旋律さえも今まで聴いたことのないものだったそうですが・・・不思議なことに、心が洗われるような、とても癒される歌だったらしいのです」
カウンターに並べた紙を整理しつつ、メロウの口調は興奮から穏やかさを取り戻す。
「彼女が事故に遭う前に家から聴こえてきた歌声もとても美しいものだったようですが、ただ美しいだけでなく、その後の歌は本当に人々に癒しを与えました・・・心だけでなく、物理的にも」
メロウは視線を紙に落とすと、ふふ、と微笑んだ。
「その歌声を聴いた人たちに実際話を聞きました。そのうち数人が、歌を聴いた直後に、怪我や病気が良くなった、もしくは、完全に治癒したそうです」
嬉しそうに語るメロウに、マスターは少し怪訝な顔で彼を見た。
「それが、彼女の歌声によるものだという証拠は無いのだろう」
その一言に、彼はピクリと眉を動かす。
「・・・そうですね。この時まではまだ、偶然が重なっただけかもしれませんし、もしこれだけであれば、ローレライという呼び名はその地域だけで彼女を指す言葉として終わったでしょう」
声音が低くなり、メロウはそっと拳を握り締めた。
「きみは・・・・」
マスターの言葉を遮るように、彼は続けた。
「その癒しの歌声が少し噂されるようになった直後、彼女には事故よりも本当の悲劇が起こりました・・・そしてその悲劇が起こってしまったからこそ、彼女の異名は、西の大地中へと広まっていったのです」
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