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最終話:幸せ色の瞳

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 ミナスガイエス帝国とウートレイド王国は、和平条約と相互不可侵条約を結んだ。
 両国間における対等の条約であったが、周辺国からはウートレイドが帝国を退却させた、帝国の覇道主義を放棄させたと受け取られ、ウートレイドの勢威は大いに上がった。

 帝国に王宮の間取り図を融通したウートレイドの側妃マリリンは、離宮から出ることを禁止された。
 その子エグバートとアメリアの王位継承権は剥奪されたが、王太子クインシーやその婚約者パルフェとの関係が良かったため、他者から後ろ指を指されることなく勉学に励んだ。

 一年後、アナスタシウス聖火教大司教とジョセフィン夫人との間に第一子が生まれた。
 聖女パルフェの浮遊魔法による高い高いにキャッキャと喜ぶ様子が目撃されている。

 エインズワース公爵家次女ユージェニーとスイフト男爵家三男マイクとの婚約が発表された。
 家格の違いから逆玉と呼ばれ、一時期大いに波紋を呼んだ。
 しかしマイク自身の成績の良さ、ユージェニーと仲が良いこと、聖女パルフェの側近で数種の魔法の使い手であることが知られると、社交界でも納得された。

 またスピアーズ伯爵家嫡男ダドリーとゲラシウス筆頭枢機卿の娘サブリナが婚約を結んだ。
 ラウンズベリー侯爵家の血筋で聖女パルフェと仲の良いサブリナを迎えることは、大変意欲的だと評価されている。
 『よかったである、これで安心である』と誰かが言った。

          ◇

 ――――――――――さらに一年後、ミナスガイエス帝国の首都ラトルバにて。クインシー殿下視点。

 ボクは聖女様と結婚した。
 学院高等部を卒業してすぐ結婚というのはよくあるケースだ。
 違うのは今、帝国にいること。

「聖女さまあ!」
「ありがとう!」

 帝都ラトルバの大通りで結婚パレードをしているのだ。
 何故って?
 パルフェは帝国で大人気だから(パルフェって、まだ言い慣れないな)。

          ◇

 二年前のワイバーン大襲来で帝都ラトルバを救ったパルフェは、帝国でスーパーヒロイン扱いされるようになった。
 その後ミナスガイエス帝国は、これまでの覇道主義から平和方針への大転換を遂げる。
 軍事費が削減されると税金が安くなり、これも聖女パルフェの恩恵だと、その人気は不動のものとなった。

『帝都の下町料理は美味しいんだよ。各地からものが入るからだな。王都コロネリアも見習わなきゃいけないねえ』
『商業地区を併設するという、例の双子都市構想ですか?』
『そうそう、実現したいねえ。それより貿易を活発化して商人を育てるのが先かしらん? せっかく帝国と仲良くなったしな』

 帝都の下町歩きを楽しんでいるかと思えば、ウートレイドの商業活発化に思いを馳せているパルフェはすごい。
 その足で皇帝カールハインツ陛下の住まう宮殿に入っていくのはもっとビックリした。

『陛下、こんにちはー』
『おお、聖女パルフェか』
『こちらはあたしの婚約者のクインシー殿下だよ』
『そうか。可愛いパルフェを奪っていく痴れ者め』

 パルフェは皇帝陛下にも可愛がられている。
 痴れ者呼ばわりされて睨まれるのには苦笑いだが。

 たまたま軍制改革の件で来ていたヴォルフガング大将と面識を得ることができた。
 大将曰く、聖女人気にあやかることは帝国としても都合がいいそうで。

『どうしても王族貴族と平民の間には溝があるものです。平民出身の聖女が王子様の婚約者という構図は理想なのですな』
『そうかもしれません』
『おまけに今でも聖女殿は普通に下町に出かけるでしょう?』

 大将は笑っていた。
 今ではそんなことないけど、ウートレイドでは最初、平民出身ということでパルフェを忌避していた貴族もいた。
 帝国では貴族と平民を繋ぐ存在として見てくれるんだな。
 パルフェも居心地がいいわけだ。

『我が国ももっと早く聖女パルフェのことを知っておればな。孫の誰かの妃としたのだが』
『アハハ。学院を卒業する二年後にはボクと婚姻の予定です』
『二年後か……結婚パレードをラトルバでも披露してもらうわけにはいかんか?』
『えっ?』
『いいよ』

 皇帝陛下の申し出に意表を突かれた。
 それ以上にパルフェの即答にも。
 考えてみれば帝国は聖女人気に乗っかれるし、ウートレイドも帝国と友好ムードを醸し出すことができる。
 名案かもしれない。

 ちょっと後になってのことだが、カールハインツ陛下に相談されたことがある。

『ラインハルト・ローゼンクランツのことだが』
『ラインハルト君? 元気でやってるよ。カッコいいから学院でもメッチャモテる』
『ラインハルトと釣り合いの取れる娘はおらぬか?』
『ウートレイドから婚約者をって意味だよね?』
『うむ』

 意外と難問だと感じた。
 ラインハルトはローゼンクランツ公爵家の嫡孫だ。
 家格から言えば少なくとも伯爵家以上の令嬢が妥当だが、国際的な架け橋になる象徴的な存在になる。
 となればもう少し高位で才能のある令嬢が適当だと思う。
 でも侯爵家以上の年回りの合う令嬢なんて、ただでさえ少ないしな?
 まだ婚約していなくてかつ生家を継がない、帝国に嫁いでもいいという条件を満たすとなると……。

『ちょうどいい子がいるよ。アメリアちゃん』
『あっ!』

 思わず声を上げてしまった。
 そうだ、アメリアがいる。

『どのような娘だ?』
『クインシー殿下の腹違いの妹でさ……』

 パルフェが説明する。
 弟エグバートは、側妃マリリンの実家イーストン伯爵家を継ぐことがほぼ決定している。
 しかしアメリアの行く末は決まっていないのだ。
 エグバートやアメリアが白眼視されることはないとはいえ、側妃マリリンの罪から王家に遠慮してアメリアに縁談は来にくいだろう。

『とゆーわけなんだ。歳はラインハルト君の四つ下。真面目で可愛い子であることは保証する』
『なるほど、王女か。いいではないか』
『王位継承権はないんだけどね』

 アメリアに王位継承権がないことは、ウートレイドにとってはこの際プラス条件だ。
 代替わりで帝国にガタガタ口を出される可能性がない。

『公爵に命じて、正式にウートレイド王家に申し入れさせよう』
『じゃ、こっちも王様に話しておくね。それからラインハルト君にアメリアちゃんを会わせとく』

 四つ違いだと高等部と初等部で別れてしまう。
 当時ラインハルトがアメリアに会ったことはなかった。
 今では婚約者として帝国語を教え教わる仲だ。

          ◇

 そして今日に至る。
 パルフェは沿道の声援に応え、ブンブンと手を振っている。
 とても嬉しそうだ。

 パルフェと初めて会ったのは四年前、ボクがまだ盲目だった時だ。
 このまま生かされていくだけなのだなと思っていたボクの運命が、リザレクションによって劇的に変わった。

 その黒髪のいつもニコニコしている少女は、当時の笑顔と変わらぬままボクの妃となった。
 幸せだなあ。

「さて、宮殿に着いたぞ」

 ふと現実に立ち戻った。
 パルフェが聞いてくる。

「どしたの殿下。色々あったこと思い出してた?」
「色々、そうだね」

 パルフェがいつものようにニコニコしている。
 ボクも微笑みを返した。
 パルフェがボクのことを『クインシー』と呼んでくれるのはいつのことだろう?

「最後だ、いくぞお! 天の神よ、地にあまねく祝福を!」

 帝国では初披露の祝福だ。
 豪雨のように降る光に群がる人々が驚き、そして大歓声を上げた。

「聖女様おめでとう!」
「お幸せに!」
「胴上げだ!」

 ボクとパルフェが胴上げされる。
 民との距離が近いって、こんなにも素敵なことなんだな。
 胴上げされてる最中にパルフェと目が合った。
 『頑張りまっしょい』というメッセージが込められた、幸せ色の瞳だった。



 ――――――――――おしまい。
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みんなの感想(1件)

チーフちゃん

面白いです。聖女の天真爛漫さも大好きです。

解除

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