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第101話:文化祭始動

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 ――――――――――二学期始業直後。学院高等部教室にて。スピアーズ伯爵家子息ダドリー視点。

「文化祭では我らの力を見せ付けてやろうではないか!」

 ホームルームの時間に声を張り上げる。
 二学期が始まった。
 学院高等部の二学期と言えば文化祭だ。
 去年は始動が遅かったので、クラスの出し物では魔物肉料理屋を行った。
 言わば苦肉の策であったが、評価が良かったのは重畳ではあった。

 今年は去年の轍は踏まない。
 二学期開始早々から始めれば、準備は万全となるはずだ。

『ダドリー、去年の指導力は大したものだった。今年も君がクラスをまとめてくれ』
『はい、お任せを!』

 クインシー殿下から今年も文化祭リーダーの指名を賜った。
 去年の実績が評価されているのだろう。
 殿下御自身がクラスを率いてもよいのに、大変名誉なことだ。
 今年は成績優秀者の集まる一組ということもある。
 ぜひとも殿下の期待に応え、昨年以上の評価を得なければならない。

「皆も同じ気持ちだと思うが、積極的に高い評価を狙っていきたい。こんな出し物がやりたいという意見があったら挙って発言してくれ」

 誰も手を挙げない。
 去年の魔物肉を提供する店の評価が良かったのは皆が知っている。
 あれ以上と考えてしまうと確かに難しい。
 
 変に煽らない方がよかったな。
 発言が止まってしまうと議論も何もない。
 チラッと視線を向けると、それに応えたように平民チビ聖女が挙手した。
 頼るのは悔しいが、撃てば響くように状況を打開してくれるのはいつもあの平民だ。

「去年の一組で魔物肉は評判良かったけど?」
「私も食べさせてもらった。安くてすごく美味しかった。正直飲食店であれ以上のものは考えられない」
「うちのクラスにはパルフェさんがいます。魔物肉店でいいのでは?」
「去年一組だった立場から。魔物肉の斬新さと売り上げ寄付のインパクトが高評価に繋がったと思います。ただ、同じことをして去年以上の評価は難しいのかと」

 殿下まで議論に加わってくれた。
 正論だ。
 私も感じていたことだが、同じことをして去年以上の評価はあり得ない。

「魔物肉店の評価は良かったですよ。新しいサービスを提供できれば、より一層の評価も期待できるのでは?」
「うーん、去年の三日目一般開放日はてんてこ舞いだった。あれ考えると、新しいサービスは難しいんじゃないかな」

 昨年一組だった面々が頷いている。
 平民の高速煮立てがあったから、時間のロスなく提供できたようなものだ。
 確かにあれ以上は難しい気がする。

「魔物肉屋は候補として残しておこう。他に意見ないかな? とりあえず評価は考えなくていいから、じゃんじゃん考えてみようか」
「去年どこか先輩方のクラスのやっていた、芸術の小路というのがあったんだ。格調高くていいなと思ったな」
「ああ、絵とか詩とかを配置して歩かせるやつな。自分もいいと感じた。アレンジできないか?」
「あれ天気に左右されるでしょう? 雨が降ると庭が使えなくなるから、教室の展示だけになってしまうんですよ」
「そういえばそうか」
「去年の二組の大喜利面白かったですよ」
「うん、面白かった。評価に繋がんなかったのは多分演者が少なかったからだよね? そこどうにかできればイケそう」

 活発な議論になってきた。

「各自がいろんな芸を披露するとか?」
「各自の芸の披露の後、メインで大喜利を持ってくるとか」
「パルフェさんの浮遊芸の後に大喜利があっても印象がなあ」
「そうだ。焦点ぼやけると印象がよくない」
「ダドリー、まだ講堂は空きがあるんだろう?」
「もちろん。先ほど確認してきたが、まだ講堂使用を申請しているクラスは一つもない」
「おお、ダドリー君そつがないなあ」

 褒めなくていい。
 ……いや、褒めてもいいが。

「講堂を使用した出し物は大体高評価なんだよなあ」
「となると劇?」
「脚本なら僕が書くけど」
「うーん」

 劇に消極的になるのはわかる。
 一組は成績優秀者の集まりだ。
 自然次期領主として尻を叩かれる男子が多い。
 劇を推すのは大体女子だからな。
 ん、モアナ嬢?

「せっかくクインシー殿下とパルフェが婚約したのに、それを生かさないのにゃ?」
「どういう意味だい?」
「クインシー殿下とパルフェの恋愛劇なら皆が注目するのにゃ」
「「「「「「「「それだっ!」」」」」」」」

 全員が食い付いた。
 クインシー殿下も満更でもなさそう。
 これが実現するならなら、話題性バッチリだ!

「王子と聖女の恋愛劇だ!」
「ええ? 恥ずかしいなあ」
「我慢するにゃ。王族とは庶民に娯楽を提供するものなのだにゃ」
「その通りだ!」
「じゃあ、殿下とパルフェさんが主役だな?」
「ちょっと待って! 事実に基づくと脚本の構想が膨らまない!」
「いいよ、事実なんかどうでも。見世物なんだから、観客に楽しんでもらうものじゃなきゃいけない。実際の人物とは関係ありませんと、注意書き入れとこう」
「却って臭わせる感じなのがいいと思う」

 方向性は決まった。
 アルジャーノン先生も安心して見てくれている。

「パルフェ様の魔法があれば、見たこともないような演出になりますわ!」
「任せて。ド派手な特殊効果にしたる」
「これは間違いなく注目されるなあ」
「テーマがテーマだもんな」
「脚本大丈夫か。プレッシャーかかるんじゃないの?」
「好き勝手書かせてもらうから全然問題ないよ。一つお願いがあるんだけど」

 脚本作家からお願い?
 何だろう?

「でき上がった脚本は、文芸クラブから販売してもいいかな?」

 ハハッ、メチャクチャ売れそう。

「ちゃっかりしてやがるぜ!」
「まーでも脚本書くのも重労働だもんな。それくらいの旨みがないとやってられんわ。殿下、どうだろ?」

 クインシー殿下?
 皆がギョッとする。
 そうか、これはウートレイド次期国王の創作ロマンスになるんだ。
 好き勝手書いては不敬罪になる?
 全員改めてそのことに気付いたか、クラスが静まり返る。
 
「販売については構わないです。ただ脚本は……」

 殿下の見解はどうか?
 皆が固唾を呑む。
 ニコと笑顔を見せて殿下が言葉を続ける。

「……演じる側から言わせてもらうと、ウケない劇では困りますね。ボクが滑ったみたいに思われると大変迷惑です」
「そうだそうだ! 思いっきりエンタメに寄せろ! 無礼講だ!」

 主役二人の許しが出た。
 よかった、平民聖女はいつものこととして、やはり殿下はノリを理解しておられる。

「一世一代の脚本を書いて見せます! ついては諸君にもう一つお願いがあります!」
「何だろ?」
「タイトルを決めてください!」

 当惑。
 タイトルこそ作家の決めるものではないのだろうか?
 こんなの全員で決めてたら、放課後の時間がなくなるんだが。

「タイトルから得られるイメージもあるので……」
「イメージは大切だね。要するにお客さんがワクワクドキドキしちゃう、思わせぶりなタイトルならいいんでしょ? じゃあ『第一王子と辺境聖女の波乱万丈ロマンス』なんてどうかな?」
「それでいい!」
「異議なし!」
「そのタイトルいただきます!」

 一発で決まった。
 なるほど、このタイトルならどうしたって観客はクインシー殿下と平民聖女の婚約を連想する。
 しかも本人が演じるのだから、大反響間違いなしだ。
 絶対にヒットする!

「留学生が二人いるってのもうちのクラスの特徴だよ。ラインハルト君とモアナちゃんにもいい役振ってやってね」
「わかってますよ!」
「では私はすぐに講堂の使用許可を申請しておく。次回の話し合いは脚本が完成し次第だな。本日は解散」
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