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第71話:文化祭四日目、剣術大会

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 ――――――――――文化祭四日目、武道場にて。スイフト男爵子息マイク視点。

 今日は武道場で剣術大会が行われる日だ。
 ゲラシウス様も興味があるらしく、従者枠を使って観戦しに来ている。

「血沸き肉躍るである」
「ゲラシウスのおっちゃんでもそーなのかー。おっちゃん見てて血沸きは想像できないな。肉躍るはわかるけど」

 また聖女パルフェが失礼なこと言ってる。
 ゲラシウス様は、有り体に言えば太っていらっしゃるのだ。
 その辺を指して肉躍るって言ってるんだろうけど。

「騎士団長の令息が参加していると聞いたのだが」
「トリスタン君だね。あたし達と同じクラスなんだ。クインシー殿下の護衛騎士って感じのポジションだよ」
「優勝候補筆頭と言われてますね」
「何、そうなのか? 一年生で優勝候補に挙げられるとは、見上げたものである」

 剣術大会ではある程度の魔法使用が認められている。
 剣術クラブへは聖女パルフェが時々魔法の指導に行ってるけど、トリスタンの身体強化魔法ほど有効な魔法を持ってる人はいないと思う。
 でも先輩達の中には、隠し技として魔法を使ってくる人はいるかもしれないな。

「お、早速トリスタン君登場じゃん。向かって右の赤いスカーフの方ね」
「ふむ、楽しみである」

 選手は審判や観客からわかりやすいように、一方が赤、他方が白のスカーフを付けているのだ。

「ま、でもこれは楽しみな展開にならない。数秒で結着だね」
「そうであるか?」
「うん。相手も一年生なんだ」

 相手はダドリーの取り巻きカークだ。
 これは剣の腕だけでも全く勝負にならない。

「始め!」
「まいった!」
「うおー、一秒持たなかったな」

 いきなり飛び込んで喉元に剣先を突きつけたトリスタン。
 強い。
 観客はやんややんやの大喝采だ。

「トリスタン君の身体強化魔法、随分動きがシャープになったなあ。強化倍率は変えてないみたいだけど」
「聖女様なら勝てるんだろう?」
「そりゃまあ。トリスタン君がいくら強いって言ったって、魔法に関しては素人同然だぞ? 何でもアリならあたしが負けるわけないじゃん」
「小娘の魔法はデタラメであるからな。剣術大会には出場せぬのであるか?」
「こーゆーのは騎士候補生の見せ場だわ。あたしが出てっていい場所じゃないわ」

 聖女パルフェは意外とこういうとこを気にする。
 皆に役割を振ろうとするというか。

「おっ、次の試合始まるね」

          ◇

「身体強化魔法って無敵じゃないか?」

 準決勝で剣術クラブ部長が水魔法の盾を初披露したが、トリスタンはその盾ごと見事に叩き割ったのだ。
 一年生で一回戦に勝ったのもトリスタンだけなのに、決勝に進出か。
 本職の騎士でも勝てないらしいから順当だけど。

「水魔法の盾では身体強化魔法を防げないであるか?」
「そんなことはないよ。でも今の対戦で言えば練度の差だろうね。あるいは部長さんが盾の魔法じゃ防げないかもと考えちゃうと防げない」

 ここでもイメージの問題か。
 魔法は自信を持って使わないといけないことがよくわかる。
 ネガティブな人に魔法は向いてない。
 オレはできるオレはできる。

「ま、でも身体強化魔法が強いのは事実だね。それ以上に使い勝手がいいよ。ゲラシウスのおっちゃん、持ち魔法属性が火なんでしょ? 身体強化魔法覚えりゃいいのに」
「もちろん興味はあるである。しかし面倒なのは嫌いである」
「潔いねえ」

 聖女パルフェは笑ってるけど、ゲラシウス様は覚える気がないらしい。

『……』

 ん? 帝国語?
 斜め前のフードを被った人達だ。
 あっ、聖女パルフェが黙ってろって顔してる。
 随分前から気付いていたみたい。

『……』

 ボソボソ喋ってるし、オレの帝国語ヒヤリング力じゃ聞き取れないな。
 しかし今日は一般公開日じゃないので、生徒と家族、従者くらいしか見物人はいないはず。
 関係者には見えないから、特別に許可された招待客だろうか?

「いよいよ決勝かー。あの覆面さん決勝まで来たじゃん」

 正統派の騎士剣術じゃなくて勝ち上がっている人がいるのだ。
 決勝でのトリスタンの相手だ。

「トリッキーな戦い方をするである」
「影の教育を受けている人かな?」
「そうかもしれぬであるな。本来こうした目立つ場には出てこぬものであるが」

 短めの剣とダガーの二刀流で、ダガーを逆手に持ち身体の前に出す独特のスタイルだ。
 大剣を正眼に構えるトリスタンとは対照的。

「始め!」

 二人とも動かない。
 これは意外だな。
 トリスタンは積極的に攻めるタイプだし、影の男も素早い身のこなしで勝ち上がってきたのに。

「あの影の人も魔法使うんだよね」
「そうなの?」

 今までの戦いでそうは感じなかったけど。
 感知魔法ってこの距離でも届くのかな?

「トリスタン君もそれを察して飛び込めないんじゃないかな。一方で影の人も動かないとこ見ると、身体強化魔法使ったトリスタン君にスピードで勝てないと考えてるんじゃないの?」
「となると動くのはトリスタンであるか?」
「多分ね」

 ジワジワとトリスタンがにじり寄っているように見えるが、影の男も間合いを取っている。
 距離は縮まってないな。
 トリスタンがダッシュ、少し距離を詰めた。

「風魔法みたいだな」
「影の男が使ってるのがであるか?」
「そうそう。空気の密度のメッチャ濃いところを作って、トリスタン君の動きを制限してるんじゃないかと思う」
「ふうん、そういう魔法の使い方もできるんだな」
「トリスタン君が感知魔法を使えれば相手の打つ手も読めるんだけどね。もっとも読んだと思わせておいて裏をかく手もある」
「難しい」
「まー剣術勝負であっても魔法使えりゃ色んな手があるってことだよ。多くの魔法を知ってりゃそれだけやれることも多い」

 その通りだ。
 やはり自分の持ち属性に拘らず、様々な魔法を使えるのがいい。
 オレは戦いに魔法を使おうってのではないけど、でも将来宮廷魔道士っていう手もあるんだよな。
 それだと戦いに使える魔法が欲しい。
 自分の持ち属性からして、まずは水の盾か?

「動いた。あの距離なら……」
「バランス崩した!」

 トリスタンが一気に間合いを詰めたがよろけている!
 しかし横薙ぎ一閃!

「一本! 勝負あり!」
「おー、届いた。やるなトリスタン君」

 トリスタンの横薙ぎが影の男の横面に入った。
 文句なし。

「いやー、見どころがあったね。いい勝負でした」
「面白かったである。今日は魔物肉屋はやってないのであろう?」
「あ、ごめんね。昨日までだったんだ」
「ふむ、吾輩は帰るである」
「じゃねー」

 前の帝国語を話す怪しいフード達もいなくなった。
 誰だったんだろう?

「聖女様、斜め前に帝国語を話す連中がいただろう?」
「いたねえ」
「オレじゃ何話してるかわからなかったんだ」
「あれ、マイク君気になってたのか。話の内容からすると、帝国の偉い人とそのお付きの人みたいだよ」

 一般に帝国と通称されるミナスガイエス帝国。
 北の軍事大国だ。
 人口では世界最大の国なので、東のネスカワンほどじゃないがウートレイド王国ともそれなりに交流がある。
 ウートレイドで外国語と言うと、まず帝国語を指すくらいだ。

「国に招待されて、お忍びで見に来たのかな?」
「やつらは何て言ってたんだい?」
「一番印象に残ったのは、ウートレイドは魔道の国だと聞いていたが、ヒヨコがこの程度なら親鳥も知れているっていう発言かな。帝国っぽい言い回しだね」

 騎士のレベルなのか魔法のレベルのことなのか。
 バカにされていることはわかる。

「さて、お昼御飯食べようよ」
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