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修道院入り

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 ガタゴト。
 王都郊外ともなると道もあんまりよろしくないですから、馬車だと揺れますね。
 腰が少し痛いです。
 しかし馬車で送ってもらえただけ恵まれています。
 窓越しに外を眺めます。

 わたくしはペネロピー。
 昨日まではアンダーセン公爵家の娘で、トバイアス王太子殿下の婚約者でした。

『ペネロピー・アンダーセン。貴様を婚約破棄する!』

 本当に唐突でした。
 三日前の夜会でエスコートしてもらえなかったので変だな、とは思ったのです。
 トバイアス殿下とピンク髪の聖女ゾーイ様がこれほど急速に親しくなっていること。
 そしてトバイアス殿下が強硬な手段に出たこと。
 ともに予想外でした。

 そこからはよくある話です。
 覚えのない罪状を並べ立てられ、婚約破棄が決定。
 お父様も泣く泣くわたくしを修道院に送らざるを得ませんでした。

 悔しいか、ですか?
 特別そんなことはありません。
 トバイアス殿下とは完全な政略で、特にトバイアス殿下に思慕の情などありませんでしたから。
 また対応が後手に回ったのは、わたくしとアンダーセン公爵家の力不足のせいです。
 敗北者に未来がないのが貴族の世界ですが、自分に恥ずるところはありません。
 感情に流されず、敗北を事実として客観的に見られる自分を誇りに思います。

 ああ、行く手に見えてきましたね。
 あれが泣く子も黙る……。

「聖トラノアナ女子矯正修道院ですか」

 真偽はわかりませんが、ここに放り込まれて還俗した修道女はいないと聞きます。
 辛酸という言葉はトラノアナのためにあるとか、闇よりもなお暗き場所とか言われています。
 脱走者がいないのは、不埒な企てを考えた瞬間消されるからとも。
 王都に比較的近い場所にありながら、正しい実態はほとんど知られていない謎の機関です。

「でも……」

 普通の修道院に見えますね?
 外見ではですが。
 もっと高い壁や鉄条網で囲まれているのかと、勝手に想像していました。

「お嬢様、到着です」
「ありがとう。でもわたくしはもう、お嬢様ではないのですよ」
「お嬢様……」

 御者の手を取って馬車を降ります。
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