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メイドはモフモフを欲している3

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 フェリクスとティータイムを楽しんだあと、私は仕事がないから休んでていいと言われ、用意してもらった自分の部屋に戻っていた。
 使用人部屋なので、屋敷より広くはないが、ひとりで過ごすならむしろこのくらいで十分だ。ふかふかしたベッドもあるし。
 ごろんとベッドに寝転ぶと、いつの間にか私はそのまま眠りについてしまった。

「……ん」

 眠ってしまい、どれくらい経っただろうか。
 くすぐったい感覚がして、私は目を覚ました。
 ――なんだろう。この感覚、なにかに舐められているような。

 目を開けた私の視界に飛び込んできたのは……大きな黒い犬だった。
 鼻先で、私の頬をつついてくる。

「……か、かわいいーーっ!」

 私の目は一瞬にしてハートになる。
 モッフモフの毛並みをおもわず撫でると、犬……いや、ワンちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。……やばい、キュン死にしそうだわ。城でこんなかわいいペットを飼っていたなんて、教えてくれてもいいじゃない!

 でも、どうやって私の部屋に入ったんだろう。私、扉をちゃんと閉め切れていなかったのかしら。……今はそんなことどうでもいいか。とにかく、目の前のワンちゃんのモフモフに埋もれたい。

 ルヴォルツにいるときも、何度か犬を飼いたいとおねだりをしたことがあった。でも、お父様がアレルギーでその願いは叶わなかったのよね。

「シャルムでこんな素敵な出会いがあるなんてっ! 今日は最高の一日よ!」

 ワンちゃんを抱き締め、頬をすりよせる。すると、ワンちゃんがぺろぺろと優しく私の頬や鼻先を舐めてきた。

「ひゃっ……もう、くすぐったいってば……ふふっ!」

 そんな感じでしばらく犬とじゃれ合っていると――

「おいリアーヌ! お前、これ頭痛薬じゃなくて胃薬じゃねぇか!」

 バンッ! と部屋の扉が開いた。そして、薬を片手にご立腹のギルバート様があった――が、すぐにギルバート様は驚きの顔を見せる。

「……お前、なにやってんだ?」
「なにって……昼寝からの起床?」
「それはわかってる。……いや、つーか、お前に言ったんじゃない」
「ん? ……どういうことですか?」
「なにやってんだよ、フェリクス」
「……はい!?」

 ギルバート様がそう言うと、目の前がぼんっと白い煙に包まれる。そして――ワンちゃんは、フェリクスに姿を変えた。しかも、服をなにも纏っていない姿だ。

「……いいところだったんだがな。フッ。残念だ」
「きゃ、きゃああああっ!」

 私の絶叫が、屋敷中に響いた。

 ――ギルバート様がフェリクスをつまみ出し、フェリクスがきちんといつものスーツに着替え終えると、ギルバート陛下とフェリクス様がまた私の部屋に集まった。

「すまない。驚かせたようだな」
「……驚いたわよ。まさか、フェリクスだったなんて……そ、それに、はだ、裸だしっ……」

 思い出すだけで顔が赤くなる。

「おいフェリクス、今回のはお前が悪い」
「俺は獣化がとける前に戻るつもりだった。ギルが勝手にネタバラししたのが悪い」
「はぁっ!? 俺のせいかよ……」
「どっちも悪いです! 認めてください!」
「俺は悪くないだろ! 大体な、お前も買い出しもろくにできない挙げ句昼寝なんかしやがって――」
「まぁまぁ落ち着け。ギル、リアーヌ」
「なんでお前は部外者みたいなツラしてんだよ!」

 ツッコミどころがありすぎるのか、ギルバート様は叫びすぎてゼェハァしている。
 
「バレてしまったからには仕方ない。しばらく隠して楽しもうと思ったんだがな」

 そして、フェリクスが改めて、自分のことについて話し始めた。

 フェリクスは、魔法使いよりももっと前に絶滅したといわれていた魔族と魔法使いのハーフらしい。魔法使いといえば魔法が使える人間のことたが、魔族は少しちがい、妖怪や、異形の形をした怪物もおり、邪悪なものが多かったという。

 人々や魔法使いから嫌われ、退治されてきたが、ある日狼に獣化する能力を持つ人型の魔族が、魔法使いと恋に落ちた。その魔族は悪さもせず、獣化ができること以外は普通の人間と変わらなかったという。

 ふたりは事情を知っている魔法使いたちに匿われながら、魔族は周りにバレないよう人間として生きていたとか。

 魔法使いと魔族の間に生まれる子供は魔族の血が濃く、魔法は使えないが、狼に獣化する力を持って生まれる。
 その後も、魔族の血を引く子供は、その力を受け継ぐようになっていた。
 邪悪さを持っていないことが判断され、魔法使いがシャルムに移住したときに、魔族の生き残りもシャルムに来ることを許可されたという。……ワンちゃんじゃなくて、狼だったのか。

「俺の父親が魔族の血を引いていてな。俺も、獣化の能力を得たということだ。ちなみにギルとの関係は幼い頃からの親友みたいなものだ」
「……だからさっき、特殊っていっていたのね」

 たしかに、だいぶ特殊だったわ。魔法だけじゃなく獣化できる人までいるなんて。シャルムでは私の想像を超えることばかりだけど、今回のは不意打ちに大きな爆弾を落とされたような気分。もっとふつうに教えてくれたらよかったのに、フェリクスったら……。

「フェリクス、人間をからかって遊ぶな」
「そんなつもりはない。しかし、さすが人間だ。なかなかのたらしこみっぷりだったぞ」
「た、たらしこみって、私、なにもしてないじゃない!」

 フェリクスが突然誤解されるようなことを言い出すから、私は慌てて言い返す。
 しかしフェリクスは、そんな私をおもしろがるように笑い、私に近づくと耳元に唇を寄せた。

「――お前に撫でられるのは、とても気持ちがいい」

 フェリクス特有の色気のある低い声でそう囁かれ、私は顔から火が出そうなほど赤くなる。

 ――フェリクスは人間に色仕掛けする魔族だわ! 気を付けないと……!

 私の中で、優しく頼れるフェリクスは要注意人物になった。

 そしてその後、私はギルバート様から薬のことでお叱りを受け、ニーナに泣きついて城まで頭痛薬を持って来てもらったのだった。

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