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同じだった
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(リアム視点)
すぐに馬車に乗り、俺は屋敷へ戻った。しかしミレイユがいない。
「ミレイユはどこに行った」
通りかかったマリンに声をかける。
「エクトル王子と王宮に行かれましたよ」
「……一緒に行かなかったのか?」
「付き人は不要、と言われましたので」
「だからって、もしミレイユになにかあったらどうするんだ!」
「まさか。エクトル王子はミレイユ様を大切にしております。なにかあるわけございません」
「……すぐに迎えに行く」
門に止まったままの馬車に引き返す俺を見てか、後ろからマリンのため息が聞こえる。
ミレイユ、早く会いたい。さっきから胸騒ぎが止まらないんだ。ミレイユ、ミレイユ。
馬車の中で両手を握り合わせ、ミレイユになにもないことを願った。
ふと自分の手のひらを見ると、治りかけの切り傷があった。……エクトル王子がミレイユにあげた薔薇を掴んだときに、切った傷だ。それを見て、俺は昨夜のミレイユを思い出した。
雷の光が部屋を一瞬照らした時、俺は見てしまったのだ。
この傷を撫でるミレイユの顔が、恍惚としていたことを。
愛しそうに俺の傷を眺めるミレイユを見て、俺は思った。
ミレイユは俺と同じ人間だ。
彼女は狂っている。普通の愛など求めていない。
だから俺は、ありのまますべてをミレイユにぶつけても大丈夫。むしろ彼女は、それを望んでいる。
思った通り、ミレイユはどんな俺でも愛してくれるんだ。
さあミレイユ、お互い婚約ごっこは終わりにしよう。
邪魔者がいなくなれば、やっと俺たちはふたりだけの世界に行けるんだ。遠回りしたけど、この期間も俺たちは愛し合えていた。
王宮に着き、ミレイユを迎えにいく。エクトル王子と取込み中だから待て、と言われたが、そんなことは無視してずかずかと乗り込んだ。
エクトル王子に手を引かれ、ミレイユがやって来る。ああミレイユ、俺がいなくて怖かったろう。ちゃんと婚約破棄はできただろうか。できたなら、帰ったらたくさん褒めてあげよう。
ミレイユの姿をたった数時間ぶりに見ただけで、幸福感に満ちていた。でも、よく見ると何かひどい違和感を感じる。
「それじゃあまたね? ミレイユ」
「は、はい…」
エクトル王子の雰囲気がいつもとちがう――が、ミレイユもおかしい。
どうしたんだ? なぜそんな目でエクトル王子を見ている?
この短時間でなにがあったんだ。エクトル王子は一体ミレイユになにをした。
この俺が、性懲りも無く焦っている。手にじんわりと、嫌な汗をかいているのがわかる。
「早くこっちへ来い、ミレイユ」
ミレイユを自分の方へ引き寄せ、逃げるようにその場を去った。
馬車は向い合せでなく、隣に座った。この方が近くで顔を見れるからだ。
ミレイユの顔が火照っている。どうしてかはわからない。ただ火照らせた原因が、俺以外であることは確かだった。
そこでやっと、俺はミレイユが今朝とちがう服を着ていることに気づいた。
首のつまった服を着ていたのに、今は首元が露わになっている。
よく見ると、俺がつけた所有の証の上に、きつく立てられたであろう痛々しい爪痕があった。
……エクトル王子、やはり気づいたか。
「どうしたんだ、これ。……服はどうした」
「あ、破れちゃって……」
「エクトル王子にやられたのか」
「……」
「……痛そうだ。俺がすぐに治してやる」
俺は傷を癒すように、ミレイユの首にある爪痕に舌を這わせた。ぴくん、とミレイユの敏感な体が反応する。それがうれしくて、何度も傷を舐め上げた。
忘れてくれ。あいつにつけられた傷を。俺以外に触られた感触を。
ミレイユは、俺に与えられる快楽しか知らなくていい。
「馬車の中ですよ……。お兄様」
「応急処置だ。恥ずかしがることじゃない。……それとも、ミレイユは傷あとが好きなのか?」
「……え?」
「昨日も、俺の傷を見てうれしそうだったじゃないか」
「な、なにを言って」
「俺はさ、ぜんぶわかってるよ。ミレイユのこと」
それから俺は、屋敷につくなり自分の部屋にミレイユを連れ込み、背後から思い切り抱きしめた。
エクトル王子の感触を忘れさせたくて、もう二度と、ミレイユがあの目を俺以外に向けないように。全身を俺でいっぱいにするように、きつくきつく抱きしめた。
「……ミレイユって、俺と同じだな」
「お兄様と私が、同じ?」
「そう。お互いを見つめる目つきも同じ。それと――普通の愛じゃ満足できない、歪んだもの同士だ」
俺たちは、ふたりとも歪んでいる。
だから、俺たちは俺たち以外で満足することはない。
最初から、俺とミレイユが結ばれることは決まっていたんだ。
そうだよな? ミレイユ。俺は君を愛してる。
――頼むから、俺以外誰も、好きにならないでくれ。
すぐに馬車に乗り、俺は屋敷へ戻った。しかしミレイユがいない。
「ミレイユはどこに行った」
通りかかったマリンに声をかける。
「エクトル王子と王宮に行かれましたよ」
「……一緒に行かなかったのか?」
「付き人は不要、と言われましたので」
「だからって、もしミレイユになにかあったらどうするんだ!」
「まさか。エクトル王子はミレイユ様を大切にしております。なにかあるわけございません」
「……すぐに迎えに行く」
門に止まったままの馬車に引き返す俺を見てか、後ろからマリンのため息が聞こえる。
ミレイユ、早く会いたい。さっきから胸騒ぎが止まらないんだ。ミレイユ、ミレイユ。
馬車の中で両手を握り合わせ、ミレイユになにもないことを願った。
ふと自分の手のひらを見ると、治りかけの切り傷があった。……エクトル王子がミレイユにあげた薔薇を掴んだときに、切った傷だ。それを見て、俺は昨夜のミレイユを思い出した。
雷の光が部屋を一瞬照らした時、俺は見てしまったのだ。
この傷を撫でるミレイユの顔が、恍惚としていたことを。
愛しそうに俺の傷を眺めるミレイユを見て、俺は思った。
ミレイユは俺と同じ人間だ。
彼女は狂っている。普通の愛など求めていない。
だから俺は、ありのまますべてをミレイユにぶつけても大丈夫。むしろ彼女は、それを望んでいる。
思った通り、ミレイユはどんな俺でも愛してくれるんだ。
さあミレイユ、お互い婚約ごっこは終わりにしよう。
邪魔者がいなくなれば、やっと俺たちはふたりだけの世界に行けるんだ。遠回りしたけど、この期間も俺たちは愛し合えていた。
王宮に着き、ミレイユを迎えにいく。エクトル王子と取込み中だから待て、と言われたが、そんなことは無視してずかずかと乗り込んだ。
エクトル王子に手を引かれ、ミレイユがやって来る。ああミレイユ、俺がいなくて怖かったろう。ちゃんと婚約破棄はできただろうか。できたなら、帰ったらたくさん褒めてあげよう。
ミレイユの姿をたった数時間ぶりに見ただけで、幸福感に満ちていた。でも、よく見ると何かひどい違和感を感じる。
「それじゃあまたね? ミレイユ」
「は、はい…」
エクトル王子の雰囲気がいつもとちがう――が、ミレイユもおかしい。
どうしたんだ? なぜそんな目でエクトル王子を見ている?
この短時間でなにがあったんだ。エクトル王子は一体ミレイユになにをした。
この俺が、性懲りも無く焦っている。手にじんわりと、嫌な汗をかいているのがわかる。
「早くこっちへ来い、ミレイユ」
ミレイユを自分の方へ引き寄せ、逃げるようにその場を去った。
馬車は向い合せでなく、隣に座った。この方が近くで顔を見れるからだ。
ミレイユの顔が火照っている。どうしてかはわからない。ただ火照らせた原因が、俺以外であることは確かだった。
そこでやっと、俺はミレイユが今朝とちがう服を着ていることに気づいた。
首のつまった服を着ていたのに、今は首元が露わになっている。
よく見ると、俺がつけた所有の証の上に、きつく立てられたであろう痛々しい爪痕があった。
……エクトル王子、やはり気づいたか。
「どうしたんだ、これ。……服はどうした」
「あ、破れちゃって……」
「エクトル王子にやられたのか」
「……」
「……痛そうだ。俺がすぐに治してやる」
俺は傷を癒すように、ミレイユの首にある爪痕に舌を這わせた。ぴくん、とミレイユの敏感な体が反応する。それがうれしくて、何度も傷を舐め上げた。
忘れてくれ。あいつにつけられた傷を。俺以外に触られた感触を。
ミレイユは、俺に与えられる快楽しか知らなくていい。
「馬車の中ですよ……。お兄様」
「応急処置だ。恥ずかしがることじゃない。……それとも、ミレイユは傷あとが好きなのか?」
「……え?」
「昨日も、俺の傷を見てうれしそうだったじゃないか」
「な、なにを言って」
「俺はさ、ぜんぶわかってるよ。ミレイユのこと」
それから俺は、屋敷につくなり自分の部屋にミレイユを連れ込み、背後から思い切り抱きしめた。
エクトル王子の感触を忘れさせたくて、もう二度と、ミレイユがあの目を俺以外に向けないように。全身を俺でいっぱいにするように、きつくきつく抱きしめた。
「……ミレイユって、俺と同じだな」
「お兄様と私が、同じ?」
「そう。お互いを見つめる目つきも同じ。それと――普通の愛じゃ満足できない、歪んだもの同士だ」
俺たちは、ふたりとも歪んでいる。
だから、俺たちは俺たち以外で満足することはない。
最初から、俺とミレイユが結ばれることは決まっていたんだ。
そうだよな? ミレイユ。俺は君を愛してる。
――頼むから、俺以外誰も、好きにならないでくれ。
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