25 / 34
戦場
しおりを挟むその日は良い天気だった。
なだらかな緑の丘の下、眼下の草原にルナリの兵士がちらほらと集まっているのが見える。
数は見るからに少なく100人くらいだろうか。
こちらが不穏な動きをしているのを察知して、慌てて人を集めたのだろうとは思うが、それにしては人が少なすぎる。
だが、こちらの数も約300人。
戦況によってはシュトリームの祖父である辺境伯から援軍が来る予定であるが、本格的に軍を投入されたら負けてしまいそうな数だ。
しかし、ここにいる者は自派閥の筆頭である第二騎士団騎士団長エイム直属の者ばかりで、よく訓練されており信用できる。
それに、こちらには荒事に慣れているアルバ達冒険者がいるし、村の一つや二つ簡単に手に入れられるだろうとシュトリームは思っていた。
すっと一段高い場所へ立ち、エアトベーレン第2王子シュトリーム・ドゥ・エアトベーレンは兵たちを見回す。
一番前にはアルバ。
その後ろには他の冒険者たちが続く。
中には竜族程ではないが希少な種族もいて、それだけでも向こうをけん制するには十分だろうとシュトリームはほくそ笑んだ。
そしてこの戦いで中心となる第二騎士団の者が騎士団長エイムの指示で散開する。
兵士たちは皆、緊張した面持ちでシュトリームの動きを見詰めていた。
「皆の者。
ここまでの協力に感謝する」
皆が静まった所で、シュトリームが徐に手を上げてから話し出した。
「しかし、本当の闘いはここからである。
エアトベーレン王国、いや国民の為、この戦い負けるわけにはいかぬ!
今だに奴隷制度を強いている野蛮なルナリを我らの手で開放し、エアトベーレン王国共々繫栄させようではないか!」
「おーーーーっ!!!」
「手始めに周辺の村を占領する。
エイム、手筈通りに」
「はっ」
「それでは良い知らせを期待しているぞ!」
シュトリームの激励に兵士や騎士たちが一斉に雄たけびを上げると、地響きの様に地を揺らした。
******
アルバは眼下の村を目指して戦場を駆けた。
さっさと予定通りに村を占領すれば、この戦いに早々に片が付き、無駄な争いも避けられると思ったのだ。
長剣を構え、丘を駆け下り、草原を疾走する。
人族よりもずっと体が大きく、魔力を放出して威圧している限りは誰も寄っては来ない。
おかげで非戦闘員である村人はさっさと逃げて行ったのでアルバはホッとした。
出来れば人を傷付けたくはない。
それが以前、聖女と旅をした時のポリシーであったし、今もそれが正しいとアルバは思っているからだ。
しかし、中には勇敢な者もいてアルバに向かって来る。
大抵は上手く躱して、武器を叩き落としてやるか、遠くへ投げ飛ばしてやれば戦意を喪失したが中々しぶとい者もいて、その時は仕方なく太く固い尻尾で殴りつけてやれば、足か腕の一本くらい簡単に折って動けなくする事が出来た。
しかし、その時は油断してしまった。
その者は隠密のスキル持ちだったらしく、他に気を取られていたアルバはそれに気づかなかった。
一瞬の隙を突いて、背後からアルバの肩に槍を突き刺してきたのだ。
竜族の固い皮膚に然程のダメージは無かったが、アルバは反射的に相手を切ってしまう。
「うわあぁぁ!!!」
よく見れば相手は年端も行っていない少年だった。
両腕を一度に切られてパニックになっている。
少年が身体を捩って地面を転がると、被っていた兜が脱げ落ち、その顔が露になった。
「サシャ……?」
少年の髪は赤褐色、目はエメラルドの様な緑色だった。
アルバは少年がサシャと重なり動揺し、慌ててに少年に駆け寄ると、腰に帯びていたポーションを開けて少年の腕に振りかける。
「バカ、何やってるんだ!」
声を掛けられた方を見ると、馬上からフロンが叫んでいて、魔法でこちらに来る攻撃から辺りを守っていた。
「しかし、サシャが!」
「よく見ろ! そいつはサシャじゃない!
サシャ、サシャってお前は何なんだよ!」
フロンはアルバの腕を引っ張って立たせ、無理やり後方へと下がらせた。
*****
「アルバ、大丈夫か?」
「……ああ」
アルバはフロンによって天幕に押し込められていた。
サシャによく似た少年を切ってしまってから、アルバは動悸が止まらない。
地面に蹲り、今にも吐きそうに顔を顰めた。
「全く、そんなにあの子が良い訳?
どこが良いの? それこそコーディアルや俺の方が役に立つし可愛くない?」
フロンから水を渡されたが、アルバは俯いたままゆるく頭を振る。
するとフロンはアルバの正面に膝をついて覗き込んできた。
「ねえ……俺が慰めてあげようか?
アルバが男の方がいいなんて知らなかったから今まで遠慮してたけど……」
太腿にフロンの手が這った瞬間、アルバは反射的にその手を弾く。
「サシャ以外は御免だ!」
珍しく大声で叫んだアルバに、フロンはびっくりしたらしく肩を跳ねさせたが、暫くするとゆっくり立ち上がった。
「冗談。
とにかく頼むよ、結果が出せなかったら、その大切なサシャも危ないんでしょ?」
そう言い残すと立ち去ってしまった。
今、アルバはとてもサシャに会いたかった。
実際それほど離れていない場所にサシャはいる。
だが会ってしまったら激しく取り乱してしまいそうで怖かった。
0
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる