オレと竜族の事情~淫紋ってどうやって消すんですか?~

ume-gummy

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 その日、アルバは一人で王都の街中を歩いていた。
 サシャはと言うと誘拐騒動があって以降、外へは殆ど出ずに宿の部屋に籠っている。
 しかも先日の話し合い以来、碌に話が出来る雰囲気でなくてアルバは一人で来てしまった。
(確かに必要以上に手を掛けて面倒を見てしまった俺に負い目を感じる気持ちは分かる、仕方がない。
 だが、俺は好きでやったのだ。 そこは分かって欲しかった)と、アルバはため息を吐いた。

 人通りの多い場所へ出ると、遠巻きにだが、アルバは視線を感じた。
 サシャと一緒の時はサシャの事ばかり気にしていてで気にならなかったが、やはり一人だと他人の視線が気になる。
 まだ目的地に着いていないのに、アルバは早くも帰りたくなっていた。

 途中、横道に入り、ひと気のない複雑な路地裏を数回曲がる。
 行き止まりに辿り着き、壁に描かれた一見魔法陣には見えない文様に魔力を流して名を名乗ると壁が消えて、代わりに大きな門が現れた。

 その門が勝手に開いてアルバを招き入れる。
 中に入ると、今度は勝手に門が閉じた。


 門の中には広大な敷地があり、離れた場所に貴族が住んでいそうな白く大きな建物が建っていた。
 手入れの行き届いた前庭には広いプールまである。
 その側の椅子に目的の人物が座っていた。

「ドナ」
「アルバ、久しぶり」
 アルバに目を向けた長い金髪に白磁の肌と森の色の瞳を持つ年齢不詳の青年エルフ――ドナはアルバが里から出てきた頃に世話になった人物だった。

 実はアルバの母はダークエルフである。
 顔立ちと肌や髪の色、魔力の多さが竜族でもずば抜けているのは母譲りらしい。
 だが能力が竜族寄りで結界のような補助魔法くらいしか使えないので宝の持ち腐れでもあるが。

 ちなみにアルバの母は竜族の父に見初められて『番』となり、今は竜族の里で暮らしている。
 とにかくお互いが好きな夫婦なので、サシャの心配など杞憂に過ぎず、今頃アルバ抜きで仲良くしているだろう。
 もしかしたら弟か妹が出来ているかもしれない。

 と、そんなアルバの母と兄妹同然に育ったのがドナであった。
 今は10年以上務めた王都の冒険者ギルドの代表を辞め、妻と共にこの家に隠れるように暮らしている。

 ドナは職業柄顔が広く、持っている情報も桁違いな人物だ。
 アルバは両親から、困った時はドナを頼るようにと常々言われていた。
 もう新米の冒険者ではないので頼る事は無いと思って忘れていたが、サシャの事もあって久しぶりに思い出したのだ。
 いや、変な意地を見せずに最初から頼っておけば良かったのだ。
「何か困った事でもあったのか?」
 アルバが頷いて、勧められるままに向かいのベンチに座るとドナは魔法で飲み物を出した。
 ドナはエルフの魔法使い、大抵の事は魔法で出来る。

「ええ、ちょっと面倒事に巻き込まれてしまって」
 アルバはそこでドナに自分の『番』にしたい人物が現れた事、サキュバスの呪いが解ける人物を紹介して欲しい事、サシャが攫われた事を話した。

「そうか……ついにお前もか。
 大人になったなぁ」
 話を聞いてドナは感慨深そうだ。
「竜族の掟なんかは私には分からんが、戻らないなら住む所くらいは面倒を見てやろう」
「すみません」
「で、サキュバスの呪いねぇ。
 研究すれば解けると思うがね、詳しいのはうちのシェリーかな。
 けど、シェリー一人じゃそっちの研究とどっこいどっこいになるんじゃないかね」

 シェリーとはドナの妻である。
 彼女は魔術を付与した服を作っていて魔法陣にも詳しいらしい。
 ドナが引退しても王都で暮らしているのは彼女の仕事の為だった。
「奥様は?」
「仕事。 そうだ、そのうちシェリーにその子用の服を作ってもらっておくよ」
「そんな、申し訳ないです」
「いいの、いいの。 お祝いね」
 ケラケラと笑ってから、ドナは真面目な顔になって世間話を始めた

「ところでエアトベーレンこの国の事を聞いたか?」
「いいえ?」
「どうやら隣国に乗りこむつもりだぞ。
 ルナリ王国は長く王が臥せっていただろう?
 先日、亡くなってな。
 今は跡継ぎ問題で揉めているらしい」
「そこへ攻め込むつもりですか」
「ああ。 B級までの冒険者も召集されるかもしれない」
「俺はこの国の者ではないから……」
「それはそうなんだが、お前はA級の中でも飛び抜けて強い。
 無理にでも連れて行かれるかもしれないぞ。
 もしかしたらサシャって子が攫われたのも関係があるのかもしれない」
「なら、その前に王都を出ます」
 コクリと首を縦に振ってから、ドナは小さな黄色い魔石が埋め込まれたブローチを出してきた。

「これは通信用の魔道具だ。 何かあったら連絡をくれ」
 アルバはそれを受け取ると胸の部分に付ける。
 そこでふと、サシャが以前に魔石を鑑定して見せた事を思い出した。

「そうだ、サシャは魔石鑑定の素質があります。
 どこか働ける場所があったら紹介してください」
「それは凄いね。
 分かったよ、探しておく」

 それからいくつか報告をして、アルバは急いでドナの元を後にした。

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