オレと竜族の事情~淫紋ってどうやって消すんですか?~

ume-gummy

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発情

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 シリスを出た後も旅慣れたアルバが一緒だったおかげで、旅は順調だった。
 アルバは旅が初めてのサシャが困らないように手配してくれたり、細々と世話を焼いてくれたりと、思った以上にまめな性格だった。
 それに竜族と言う、いかにも強い相手に向かってくる者はまずいない。
 その連れに手を出すなんて愚か者もいなかったので、かなり安全な道中であった。


 そんなある日、立ち寄った食堂で下世話な者が竜族というのは男性体しか存在せず、里から出て来ている者は『番』と呼ばれる、生涯を捧げられる女性を探しているのだと教えてくれた。
 それ以来、サシャはいずれ現れるだろうアルバの『番』に申し訳ないと思っている。
 こんな事になって、結果的にアルバを穢してしまったのだ。
 いや、穢し続けている。
 そこからは早く呪いを解きたい一心でひたすら歩いた。

 でも、サシャはアルバと旅をするのは楽しかった。
 初めて見る他の街並み、他所の国の人、種族、食べ物も、空の色だって全てが目新しい。
 こんな経験ができるのはアルバのおかげだと、サシャは感謝しかなかった。


  *****


「あそこが王都かぁ、凄いね!」

 丘の上にある街からは、遠目に王の住む城が夕日を反射して赤く輝いているのが見えた。
「王都までもう少しだ」
「……そっか」
 サシャは王都で訪れるであろうアルバとの別れを思い、一瞬切なくなったが、直ぐに切り替えて明るく振舞った。

 辺りが薄暗くなってきても、《ラス》と言う名のこの街は人が多く活気があり、沢山の店が開いている。
 ここでもサシャには何もかもが珍しく、あれこれアルバに尋ねていると、すれ違った女性が生暖かい目で見て行った。
 だって、何もかもが村とも、今まで通って来た町とも違うのだから仕方がないとサシャがふてくされると、それを見たアルバも苦笑していた。


 村を出て約三週間、二人はやっとこの《エアトベーレン王国》の一つ前の街ラスに着いた。
 予定より少し遅れてしまっているのはサシャの身体がアルバより小さい事と体力の無さに加えて道中に2回、発情してしまったので少し余計に時間が掛かってしまった。
 その分、旅費も掛かってしまったし、肩代わりしてくれたアルバには迷惑をかけっぱなしだ。
 一生懸命遅れを取り戻そうとサシャも頑張って歩いたのだが、無理だった。

 アルバに魔石を換金するから気にするなと言われても、気にならない訳がない。
(絶対にあんな屑魔石じゃ足りてない。
 アルバはいいと言ってるけど、ちゃんとお礼したい。
 それこそ冒険者にでもなって、早く働かなくちゃ)

 勿論、魔石鑑定士になる夢もある。
 アルバに褒められてからずっとなりたいとは思っているけれど、それよりも先に先立つものをどうにかしないと気が気じゃないとサシャは思った。
 と、頭の中でこれからの事を考えていると、突然アルバに肩を組まれた。
「疲れたのか? 今日はもう休んで、明日は王都に入ろう」と、アルバはサシャに向かって微笑んだ。
 それを見てサシャはドキリとする。
 最近、アルバはこうやって優しくサシャに笑いかけてくれる事が多くなった。
 その度にサシャはアルバの特別になれたような気がして胸が高鳴る。

「どうした?」
 サシャが見惚れていると、アルバが顔を覗いて来た。
 アルバの金色の瞳が少し緑掛かっている。
 それは何か不安がっている時の色だと、サシャは最近知ったのだ。
 アルバはぶっきらぼうで口下手なところがあるけれど、その瞳はそうでは無かった。
 よく見ると感情によって少しづつ色が変わっている。
 こんな事に気付いたのは自分だけだろうか?と、サシャが我ながら呆れている時だった。

 急にアルバの匂いを強く感じたのだ。

(これって……?)
 ぶわりと身体が熱くなる。
 足がガクガク震え、汗が吹き出し、下半身が重くなった。

 ―― 発情だ。

 下腹部の淫紋が服の上から分かるくらい明るく輝いている。
(不味い、こんな街中で)
 サシャは輝き続ける淫紋を隠すようにアルバにしがみついたがもう遅い。

「ア、ルバ」
「ねえ君、大丈夫?」
「こっちに休める場所があるよ」
「君、可愛いね」
「何かいい匂いがする」
 傍にアルバがいるにも関わらず、サシャは男たちに囲まれていた。
 中には腕や身体に触れて来る者もいる。
 アルバが咄嗟にサシャを高く抱きかかえたが、回りの男たちはどんどん増えて行き、中の一人が急に服を掴んできた。
「止めて!」
 思わずサシャか叫ぶと、それを皮切りに男たちはサシャをアルバの腕から引きずり下ろそうと揉みくちゃにしてきた。
 男たちの目にはアルバなど見えておらず、サシャだけを捉えて、ギラギラとしている。

「ひっ!」
 サシャはそれを見て恐怖を覚え、アルバにしがみついた。
 すると、もっとアルバの匂いを感じてますます蕩けてしまう。
 と、『キーン』と高い、耳鳴りの様な音が鳴り響いて、サシャに触っていた人が弾かれた。
 アルバが結界を張ったのだ。

「うわっ!」
「何だ?」
 アルバは人々が怯んだ隙に地面を蹴ると、サシャを抱えたまま高く飛び上がった。
 近くの石造りの建物の屋根へ飛び上がり、屋根から屋根へと飛び移り、あっという間に街外れの宿屋の前に着いた。

 そしてアルバはそこへ飛び込み、ちょうど近くにいた年配の女性従業員を捕まえ、大急ぎで部屋を取ったのだった。

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