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魔石

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 アルバが手を開くと、そこには赤い魔石が乗っていた。

 この世界には魔石と言うものがあって、それは全ての生物が持っている身体の核である。
 人も、竜族も獣も魔物も皆、身体の中にそれがあり、不思議な事に加護が付いているものもあるのだ。
 鑑定さえできれば、その魔石の主がどのような者か、どんな加護があるのかや生まれつきのスキルなども分かるため、身元判定などにも利用されている。

 魔石の大きさは体の大きさや魔力量にに見合ったサイズで、人に関しては心が綺麗な者の魔石ほど光り輝いていると言われている。
 魔物などのものの輝きは魔物本来の強さに反映され、美しい物や珍しい物は観賞用にされたり、加護がある物はアクセサリーに加工され高値で取引されていた。

 今、アルバが差し出したものは松ぼっくりくらいの大きさがあって、赤く暗く輝いていた。
 サシャが見た感じでは加護は付いていない。
「これを、キマイラの魔石だ。
 売ればなかなかの値段になるだろう」
「アルバ、ダメだよ!」
「いいんだ。俺はいくつも持っているし、今日のお礼にお前にやろうと思っていた」
「でも!」
 サシャが止めようとすると、横からさっと手が出て来て、伯母が魔石を持っていった。

「これは……サシャ、良い人と知り合えて良かったじゃないか」
 伯母はまじまじと魔石を眺めた後、にやりと嫌らしく笑った。
「では、ここからサシャの事は俺に任せてもらおうか」
「ああ、ではよろしくお願いしますよ。
 じゃあね、サシャ。 元気でやるんだよ」
 そう言うと、伯母はさっさと家を出て行ってしまった。


 それを見送り、サシャは再びドアに閂を掛ける。
 そのまま立ち竦んでいると、アルバが近寄ってきた。

「サシャ、差し出がましい真似をしただろうか」
 アルバが聞くと、サシャはふるふると横に頭を振った。
「ううん。 アルバこそ、せっかく家に来てくれたのに嫌な思いさせてごめんね。
 でも、庇ってもらって嬉しかった。 ありがとう」
「気にするな」
「うん」

 アルバは俯いたままのサシャを抱き上げた。
 びっくりしたサシャはアルバの首にしがみ付く。
「考えたんだが、一緒に寝るのではダメなのか?」
「えと、ベッド狭いし、それに……」
「今日はしなくても平気だろう?」
「うん」
 真っ赤になったサシャに「可愛いな」とアルバが小さい声で言った。
 アルバは聞こえないと思ったのかもしれないが、サシャにはそれがしっかり聞こえていて、ますますいたたまれなくなってしまった。

 アルバはそのままベッドまでサシャを運んで寝かせると、アイテムボックスから角が邪魔にならないように眠れる枕を出した。
 横になる前にサシャの額にキスしてやる。
「うっわ!」
「おやすみ、サシャ。 竜族は子供が眠る時はこうするんだが」
「オレは子供じゃないし」
「知ってる。 お前は強くて優しい男だ。」
 トントンとリズミカルに背を叩かれて、サシャは直ぐに眠くなってきたらしい。
「……どうせならアルバみたいになりたかった。
 そうすればオレも父さんを探しに連れて行ってもらえたのに……」
 サシャは譫言のように話していたが、暫くするとストンと眠りに落ちてしまった。


 すぅ、すぅ、と小さな寝息を立てて眠る姿を見て、こうするのは二度目だな。とアルバは思った。
 昨夜は眠ると言うより気絶していたが。
 安らかに眠るサシャの、そばかすが残る白い頬に指を滑らせてから唇をふにっと押してみる。

(それにしても、あの伯母の態度)
 アルバは先程の事を思い出していた。
 サシャは伯母に面倒を見てもらったと恩を感じているようだったが、アルバにはそうは思えなかった。
(あのタイプの人間が、自分の利益無しに人の面倒を見るだろうか?
 何か隠しているに違いないが……まぁ、これからは俺がサシャの面倒を見るから下手に関わらない方が良いだろう)

 暫くするともぞもぞとサシャが動き、アルバの胸に顔を埋めた。
 サシャは常に明るく振舞っていたが、きっと寂しかったに違いない。
 甘えたいから胸に執着してくるのではないかと思った。

(しかし、甘えてくるサシャを見ると何とも言えない気持ちになるな)
 守りたい以外にもこのまま何処かに閉じ込めてしまいたいとか、ずっと抱き続けたいとか。
「……不味いな」
 反応しそうになってしまうので、アルバは違う事を考えようと思った。

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