結局運命ってなんなの?

ume-gummy

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あれから大分経って、俺は近くの工場でパートとして働いている。
やっぱりオメガが正社員になるには色々と大変らしい。
特に俺なんか底辺の高卒だし。

だけど俺、孝一兄ちゃんと付き合ってから変わったと思う。
前向きに考えられるようになったし、兄ちゃんが待っていてくれると思えば寂しくなんか無い。
兄ちゃんは約束通り、俺一筋でいてくれている。
だから、そろそろ良いかなって思う。
俺ももうすぐ20歳だし、次の発情期ヒートには兄ちゃんと・・・

あああ・・・どうやって誘えば良いか解らない!
高校で有名だった『エッチで可愛いオメガちゃん』はどこ行った!?
まぁ、その称号も今となっては黒歴史でしかないけれど、時々覚えていて誘ってくる奴がいるんだよな。
もう見た目も派手じゃないし、兄ちゃんの匂いだって少しは付いてるだろうに。




マフラーに顔を半分埋めて、悶々と考えを巡らせているうちに家の前まで来ていた。
冬の夜が来るのは早い。
まだ夕刻なのに、辺りはうす暗くなっていた。

俺はドアノブに手を掛けて鍵を差し込む。
「柏木君。」
声を掛けられて、俺は振り向いた。
そこには白い息を吐いた俺と同じ位の年の男がいた。
彼は多分アルファだ。

「えっと・・・」
「僕、中学で同級生だった山下。
同じクラスになった事はないけど、僕、柏木の事は知ってたよ。」
「そう。で、何?」
「交差点の所でたまたま見かけて、つい声を掛けちゃった。」

俺は目を眇めて見てしまう。
最近、こういう奴が多いのだ。
特に大学に進んだアルファ。
自分に自信が付いたのか、昔なじみのオメガに繋ぎを取ろうとする。

「あの・・・僕、中学の頃、君の事良いなって思ってて。
良かったら」「お断り。」
「ねぇ君、オメガだよね。
少し匂いはするけれど、まだ相手はいないでしょ?
こう見えても僕はアルファなんだ。」
山下の目がほの暗くなり俺を捕らえる。
ヤバイ、逃げないと。

グイッと手を引かれ、自転車の置いてある方へ引っ張られる。
この家の周りは古いコンクリートの塀がぐるっと囲んでいて、押し倒されたら外から見えない。
俺は声を上げようとしたが、恐怖で声が出なかった。
とにかく必死で手足をバタつかせると大きな音がして自転車が倒れた。

「や、やだ」
両手を地面に押さえつけられ、体の上に圧し掛かられた。
「ねぇ僕とも遊ぼうよ?
柏木君、高校で結構遊んでたんでしょ?」
なんなんだ、これ。
俺は山下を跳ね除けようとしたが、全く力が入らない。
「良かったら、僕のものにしてあげる。」
「や・・・だ、にいちゃ・・・」
蹴り上げた足が空を切る。

「こら!何してるの!?警察呼ぶわよ!」
どのくらい経っただろうか、女の人の声で我に返った。
「おばさん・・・」
それは孝一兄ちゃんのお母さんだった。
おばさんを見ると山下は一目散に逃げていった。

「奏ちゃん、もう大丈夫よ。」
「ありがとう・・・でも、どうして・・・」
「あのね、洗濯物を取り込むのを忘れちゃって。
ベランダに出たら大きい音がして、なんとなく人が揉めてるのが見えたの。」

孝一兄ちゃんのお母さんはオメガだ。
兄ちゃんに似てなくて可愛くて、結構おっちょこちょいで、洗濯物を取り込み忘れるなんてしょっちゅうである。
今回はそのお陰で助かったんだけれど・・・

「奏ちゃん、家に来なさいよ。」
「え?」
「孝一と付き合ってるんでしょ?
いずれ結婚するなら、もううちの子になっちゃえばいいのよ~」
「で、でも・・・」
結婚って・・・兄ちゃんの早とちりは母ゆずりなのだろか。
俺は遠い目になった。
「うちに来れば、もうこんな怖い目に合わないようにするわよ?」
「うう・・・」
「とりあえず、今日は家に泊まりなさいね。」
「・・・はい。」






「奏!」
「お、おかえり兄ちゃん。」
動揺する兄ちゃんにおばさんが説明してくれた。
それが余計に兄ちゃんを動揺させてるんだけれど。
「誰だその男は。殺す。」
「兄ちゃん!明日おばさんと一緒に警察に届けに行くから!」
「俺も行く。」

そんな話をしていると、おじさんと兄ちゃんの弟の健二も帰って来た。
この家はおばさん以外アルファで、おじさんは会社勤め、健二は俺と一つ下で今は大学に行っているそうだ。

「何?ついに兄さんと結婚するの?」
「俺は何も聞いていないが。」
「それともお試しで同棲とか?」
「布団出したか?」
健二とおじさんが口々に聞いてくる。
この家の人は騒々しいな・・・面白いけれど。
「もう、慌てないの~
奏ちゃんは暫く家に泊まって、本当に家の子になっても良いのか決めてもらうのよ。ね?」
トライアルってやつね。猫みたいだね。と言って健二は笑っていたけれど、おばさんも兄ちゃんもさっきの事は言わないでくれて、正直助かった。

次の日、おばさんと兄ちゃんと3人で警察に行ってから、これからの事を話し合った。
どうやら兄ちゃんが俺といずれ結婚すると皆に言っていたそうで、兄ちゃん家では俺が住めるように少しづつだけれど準備されていたそうだ。
おじさんも健二も協力的らしく、後は俺の気持ち次第だそう。
皆、気が早いな。
でも、あんな事があって、急に兄ちゃん家に転がり込む事になっちゃったけれど、俺は結婚どうこうよりも先に兄ちゃんにちゃんと返事してなかった事を思いだした。



でも答えは決まっている。
だから、発情期ヒートが来る時、兄ちゃんに俺の家へ来てもらった。
俺が結婚したら、母さんと二人で住んだこの家も手放す事になるだろう。
その時は俺は苦しい思い出が多いこの家を出て、楽しかった頃のお母さんの思い出だけを持って行こう。
兄ちゃんにそう言ったら、優しく抱きしめられた。

兄ちゃんから良い匂いがする・・・
そう感じた時、俺の発情が始まった。
初めて他の人を自分の部屋へ招く。
俺はベッドへと兄ちゃんを誘って「兄ちゃん大好き。」って子供の時からずっと告げていなかった言葉を口にした。
「奏・・・愛してるよ。」
お互いに何度もそう言って、服も脱がせ合って、たくさんキスをした。

まだ理性が残っている時に「後ろは好きな人に取って置いたんだよ。」って言ったら兄ちゃんは凄く嬉しそうだった。
兄ちゃんは本当に初めてだったらしくて「上手くできなかったらごめん。」なんて言われたけれど、俺だってそれが嬉しかった。
それから兄ちゃんじゃなくて名前で呼んで欲しいって言われて、恥ずかしかったけれど、俺は初めて「孝一」って名前で呼んだ。

俺は初めて抱かれる方になったのだけど、それは抱く方とは全く違う良さがあった。
相手が孝一だったからかな。
どこを触られても気持ちよくて、いくらしても足りなくて、奥に出された時は気持ち良すぎて毎回、気絶するほどだった。
孝一から俺の事が大好きって気持ちが伝わってきて、とにかく幸せだったな。
最後は発情期が終わるのが惜しくなるくらいだった。



理性を取り戻してから孝一に「結婚しても良いよ。」って伝えた。
最初の話とか中出しOKって言った時点で気付いてたと思ったのに、孝一は泣くほど喜んだ。
孝一は頭は良いけれど人の気持ちを察せない。
こういうのはちゃんと言わないとダメなんだな。
だから次は項を噛んで欲しいってはっきり伝えた。

「それは・・・俺と番になってくれるって事だよな。
番になったらアルファは別に変わらないが、オメガは番に捕らわれるぞ。」
「構わないよ、俺は孝一が良い。
孝一は俺をお母さんみたいにしないでしょ?」
だって俺は向こうの家族にも受け入れられてるし、最悪な事にはならないと思う。
なにより、もう『運命』とか考えられない。
孝一しかいないなんて考えちゃう辺り、俺も変わったもんだ。

「ね、孝一は俺の事愛してるんでしょ?俺ももう孝一の事愛してるよ。」
そう伝えてキスをすると、孝一はもっと深いキスを返してくれた。

・・・ああ、俺は幸せだ。



あれだけ振り回された、『運命』だったけれど、それがどんなものなのかは一生解らなかった。

でも、俺と孝一は努力の甲斐あって、一生添い遂げられた本当の意味での『運命』になれたのだった。


                          <終>
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