【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

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最終章

アルベロの実(終)

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 「魔王さま! 大変です!」
 次の日の朝早く、部屋の扉が叩かれた。

 僕はびっくりして飛び起きようとしたが腰が立たない。
 すると、僕を抱きかかえて眠っていたフィオが起き上がり、裸の身体にガウンだけを巻き付けて対応に出た。
 
 改めて見ると、フィオは身体つきも格好良い。
 全体に筋肉がしっかり付いていて、背中だって広い。
 力仕事を好んでするだけあって、首も太いし、腰もがっしりしていて、お尻だってきゅっと締まっている。
 昔はぽっちゃりして可愛かったのに、いつの間にこんなに男らしくなったんだろう。
 
 他に聞かれたくないのだろうか、小さな声で侍従に対応しているフィオの背中を見ていたら、また後ろが濡れてきた。
 こんなんじゃダメなのに……。
 恥ずかしくなって、頭から布団を被った。


「はい、分かりました。直ぐに支度して行きます」
 暫くすると、フィオが扉を閉めて戻ってきた。
 寝ぐせの跳ねた、もさもさの前髪の下の目は困っているようだ。

「どうした?」
「うん、アルベロに実が生ったから見に来て欲しいって」
「はぁ?」

 僕はフィオに抱えられて風呂場に連れて行かれ、慌てて一緒にシャワーを浴びた。
 もっといちゃ付きたかったのに、何とも忙しい朝だ。
 用意が終わっても腰が痛むので、フィオに支えられてアルベロの教会まで行く。
 騒ぎを聞きつけたらしく、扉の前には既に何人も集まっていたので、教会の管理者に解錠してもらって共に中へ入った。

 
 
 地下から床を突き破って伸びた樹のアルベロは、今日も朝日を浴びてキラキラと輝いている。
 普段、ここは立ち入り禁止で、限られた者しか入れなくしてあるので、初めて樹のアルベロを見る者も多いようだ。
 神々しいその姿を見て、ひれ伏している者もいた。

「実が生っていると聞いたが……」
 世話係の魔族に声を掛けると、葉と葉の間を手で示された。
 
 最初は良く分からなかったが、よく見ると、葉と同じ緑色の実がいくつも生っている。
 よく見てみようと思い、手を伸ばすと、それは勝手に掌に落ちてきた。

 柔らかい、緑の実を割ってみる。
 簡単に割れたその中には、実よりひと回り小さい魔石。
 それは虹色に輝いていた。

『おめでとう』
『おめでとう』
『おめでとう』

 どこかから、鈴の音のような声が響いて来る。
 アルベロの葉が擦れて、そんな風に聞こえるみたいだ。

 僕はフィオの顔を見たが、反応がない。
 どうやらフィオにはこの声が聞こえていないようだ。
 辺りを見回すと、人間は反応が無いが魔族の血を引いている者は聞こえているらしく、不思議そうに首を傾げている。
 
「何かおめでたい事でもあったのですかね? アルベロ様の血縁の御結婚とか」
「え? 」
 世話係の言葉に思い当たる節がある。

 ……これは、アレだ。
 僕とフィオが肉体的に結ばれた事を祝っているのだ。
 多分、魔族では書類上の結婚など意味をなさなくて、身体の関係を持ってこその結婚なのだろう。
 
 じわじわと顔に熱が集まって来た。
 でも、どうやって知ったんだ?
 困惑していると「おはよー」と言って、起き掛けにしか見えないローズがドームの中へ入って来た。

「あら、魔王さま処女喪「うわぁーーーーーーー!」

 そうだ、ローズは鏡があれば、その鏡に映る範囲が見られると言う能力がある。
 アルベロも何かしら能力で僕たちの事を知ったのだろう。

「ローズ、僕たちのプライベートを勝手に公表するのは止めてもらおうか」
「えー、でもぉ。あ、フィオじゃない久しぶり! フィオはね、私とエッチした時、私の事『ジル』って呼んだのよ。ひどいのよ」
「え、そ、そう……そうかも……」

 フィオを見ると、目が泳いでいる。
 こんな時に何を言っているのかと思い、ローズを見たら、悪戯そうに笑っていた。
「だから、安心して。フィオは魔王さまが一番好きよ」
 じゃあね、と言ってローズは行ってしまった。

 もしかして僕たちは気を使われたのだろうか?
 呆然としていると、眠そうな顔のガリエナがやってきた。
「何の騒ぎなの? なんでアルベロは実を付けてるわけ? 」
 詳しく説明する訳にもいかずに、僕は苦笑いで誤魔化す。

「あの……魔王さま。おめでとうございます? 」
「あ、ああ。 はい……」
 次に、よく分かっていなそうなダグラスに声を掛けられて、僕の声は裏返った。

「やっぱり、何かあったんじゃないの? 教えてよ」
「いや、お前には教えない。フィオには、後で教えるから」
「ずっるい、仲間外れにしないでよ! 」
「何の騒ぎですか? 」

 そこへランベルトもやってきた。
 事情を説明してやると、素直なランベルトは「良く分からないけれど、今日は良い日みたいなので、毎年祝日とかにしたらどうですか? 」と言ってきた。
 そんな恥ずかしい事できるか。
 
 そのうちミネアやリトス、ペトラもやって来て、賑やかになった。
 皆に採取した魔石を見せて、魔石の使い道について話し合ったり、新しい魔道具について相談したりする。


 ――ああ、楽しいな。
 皆、笑っているじゃないか。
 心がふわりと温かくなる。


 
 僕は魔王になった。
 けれど、不幸にはならなかった。

 ゲームはもうお終い。
 これから僕は現実を生きて行くのだから。


 
 
 *******
 
 これで、このお話の本編は終わりです。
 が、まだ他の人視点とかを書きたいので、できたらそのうちアップします。

 ここまでお付き合いありがとうございました。
 評価、感想など頂けたら嬉しいです。
 
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