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最終章
戦闘
しおりを挟む「よく来たな。お前たちの相手は僕がする。どこからでも掛かって来い」
僕はゆったりと玉座に腰掛けて、相手を見た。
魔術師が二人、騎士が三人。
後ろにも大勢の兵士がいる。
魔術師は見た事がある、前にここへ来た時に魔術を教えた者たちだ。
ペトラとも元同僚なのだろうな、などと思っていると、玉座の後ろに隠れているフィオが矢をつがえる気配がした。
「ディガッタ様、お久しぶりです」
魔術師が一人、前へ歩み出て話し出した。
「その名で呼ぶのは止めてもらおうか。僕はもう家や国とは縁がない『魔王ジルヴァーノ』だ」
自分で言っておいて自恥ずかしいが、もうそう呼んでもらうしかない。
動揺を悟られない様にゆっくりと足を組みなおし、室内を汚染しないくらい少量の瘴気を発生させた。
「……そうですか。貴方ほどの魔術師が魔王になるなんて嘘かと思いましたが、本当なのですね」
魔術師はがっかりした顔でこちらを見たが、その目には敵意が宿っているので僕は身構えた。
「では手加減はいりませんね」
魔術師は突然、水流を起こして辺りを渦で巻いた。
僕の周りにも渦が巻いたが、結界があるので一滴の水も入らない。
向こうからの攻撃は通さないが、こちらからの攻撃は通すように結界を調整してあるのだ。
しかし、チカっと光が反射して、結界を破壊する魔装具がどこかから投げられた。
「まかせて! 」
それが結界へと刺さる前に、フィオが矢で弾く。
「上手いな」
「久しぶりだけれど上手くできたよ」
僕が褒めると、フィオは再び矢をつがえながら嬉しそうに笑った。
「じゃあ、僕も」
前方の結界を厚くする。
そのまま水流を押し返し、相手側に押し返すと、もう一人が張っている結界に僕の結界が当たって空気の歪む感じがした。
片手でそれを固定し、もう片方で風を起こす。
レイピアもないし、魔王になった事で魔力の制御がますます難しくなっていた為に、半開きになっていた正面の扉が何人かの騎士と一緒に外へ吹っ飛んだ。
「やり過ぎた」
言いながら、結界を両手で押す。
すると向こうの結界が推し負けて消えた。
続けて向こうが雷を打ち込んできたが、僕はそれも結界で弾く。
うん。
繊細な調整は苦手だが、今なら父と同じくらい、いやそれ以上に頑丈な結界が張れているぞ、きっと。
しかし、騎士も隙を見つけて切り込んでくるので油断はできない。
しかし向こうは数だけは多い。
魔力の切れた魔術師が退出すると、また魔力を回復した魔術師がやって来た。
騎士もどんどん入れ替わる。
フィオも弓で援護してくれるし、バルコニーの結界を修復し終えたので、ダグラスが戻って来て加勢してくれたが、とにかくキリがない。
ガリエナもバルコニーで魔術を使っているみたいだが、防御以上の効果はでていないようだ。
そのうち他の扉を守っている者の方へ行く兵士もいて、あちこちで戦いが起こり始めた。
奥の戦えない者が隠れている方は隠ぺいの魔術が掛けられているとは言え、こうなって来ると心配だ。
実際、僕以外は次第に疲れてきて、じりじりと押されている。
かまいたちを発生させて、辺りにいる兵士を手あたり次第に切り裂いたが、運び込まれたばかりの大型の魔道具に吸収されて、建物を傷付けた。
「くそっ!」
まさか吸収されるとは思わなかった僕に、一瞬隙が出来たのだろう。
脇から騎士と思われる男が上がって来た。
「ジル!」
僕を庇ったフィオに相手の剣が当たった。
瞬間、相手が弾き飛ばされる。
「フィオっ!」
「大丈夫、ペトラに魔道具を返してもらったんだ。ほら」
そう言って、首に掛けたチェーンへ通した魔道具を見せてくれた。
「だから、俺の事は気にしないで大丈夫だよ」
と、言いつつフィオが放った矢は、僕の後方へ迫っていた騎士に当たる。
「ジルも気を付けて」
そう言うと矢の残りが心許ないのか、フィオは先程の騎士が落とした剣を拾った。
それからも相手の猛攻は続いた。
他の者も思ったより戦えたし、僕の手が回らない扉はペトラが良く守ってくれた。
しかし、みんな次第に集中力が落ち、僕も気を抜くと結界が弱まってしまうようになってきた。
そのせいで怪我をする者が出てしまう。
リトス姫と侍女が手当てに回っていたが、戦いが激しくなってくるとそれも難しくなり、怪我の酷い者は奥へ連れて行かれ、こちらの人数が減ってきてしまった。
そのうち僕はこの戦いを始めた事を悔い始める。
皆を傷付けてまでする戦いだったのかと、本当はどこか遠くへ逃げて隠れ住めば良かったのではないかと思い始める。
そんな、段々と焦りが表面に出始めた頃だった。
謁見室へ入って来る兵士の数が目に見えて減って来た。
終いには、何もしていないのに目の前で敵方の兵士が倒れてしまう。
「魔王さま、これはどういう事ですか? 」
他の場所にいたダグラスやペトラが僕の方へやって来て辺りを警戒した。
「ねぇ、外の様子がおかしいよ。みんな寝てるみたい」
怪我はしていないものの、疲れ果てたガリエナがよろよろと階段を下りて来る。
「眠っているのか、これ……」
僕が近くにいる男の顔を覗き込んだ時だ。
「お待たせ~! 淫魔の攻撃はどう? みんな夢の中で良い思いしているわよ」
突然、目の前に現れたのはローズだった。
「何びっくりしているの? 今度こそ実体よ。リチェルカーレの魔族一同、魔王さまの意向に同意し参上いたしました」
そう言って、優雅に僕へ礼をする。
それを横目に、僕たちは慌てて城の外へ出た。
城の広場に倒れ、眠る兵士の側には大勢の淫魔らしき人物。
その後からはぞろぞろと異形の魔族がやって来る。
「魔王さま、早速良い仕事をしたわね。ここに魔の国を造るって聞いて、みんな喜んでやってきたのよ」
緊張感のないローズの仕草に、僕は一気に力が抜けてしまった。
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