34 / 44
君を探して
準備
しおりを挟むその後、地下にいた者たちもこの謁見室へやって来た。
僕がここを乗っ取ってしまった為に、結局、向こうへ騎士が行く事も無かったそうだ。
城へ入る時にたまたま出会った兵士と、多少のいざこざがあったが、リトス姫が間に入ってくれて無事に収まった。
おかげで、まだ末端まで指示が行き渡っていない事も分かったのだが。
そんな感じで、大勢がやって来た為に、いま、謁見室や王族の居住区だった場所は人で一杯だ。
中には王たちに復讐へ行きたいと言う者もいたが、城の中の作りは複雑で王がどこにいるのか分からないし、指示を受けた騎士たちが物陰に隠れているかもしれないので、それは一旦諦めてもらう。
まぁ、勝手に出て行って何かあっても僕の知った所ではないのだが、向こうに警戒されすぎるのも面倒なのだ。
そう言えば、王子はなかなか話を纏められないらしく、一晩経とうかというのに何の連絡も寄越さない。
このまま城を出て行ってくれるのが一番良いのだけれど、そうもいかないらしい。
まぁ、いきなり内側から城の中心部を握られてしまったのだ、動揺しているだろうな。
もしかしたら頭の回る奴がいて時間を稼いで兵糧攻めにするつもりなのかもしれないが、まだ地下から持って来た食料もあるし、もし足りなければペトラに移転してもらって、そこら辺の美術品の1つでも売って食料に変えて来てもらえばいい。
だが、それだと長期戦の覚悟が必要かもしれないな。
フィオと僕はと言うと、感動の再会をする筈だったのに上手く行かなくて、よそよそしいままだ。
侍女たちに交じって食料を配っているフィオを見て、僕はため息を吐いた。
「戦える人数が少ないから配置を考えないとね」
「隠し通路を見つけた。封印しちゃう? 」
「実践的な武器はこれだけしか見つかりませんでした」
今、僕は丸テーブルの上で見つけて来た城内の図面を開いて会議をしている。
実際に戦える人数が少ないので、僕とガリエナの魔術で補える部分は補って、ローズたちが到着するまで持たせなければならない。
それに、どうやってここへ来た魔族たちを城内へ招き入れるかなど考える事も多い。
気が早いリトス姫などは、男性のようなブラウスにパンツスタイルで、ダグラスが見つけて来た武器を吟味してるけれど。
「ジルヴァーノ、顔色が悪い。ちょっと休んで来たら? オレもいるんだし、少しくらい大丈夫でしょ」
「そうですわ。せめて着替えていらっしゃいな。あなた、服がボロボロですわ」
ガリエナと姫に言われて自分の服を見る。
ああ、確かにボロボロだ。
この薄い服になってから一度も着替えていなかった。
「それじゃあ、少しだけ良いか? なるべく早く戻って来る」
「ええ」
「ちゃんと休めよ」
僕は姫とガリエナに後を頼んで居住区の方へ足を向けた。
そちらに行くと、出入口近くで女性たちが集まって、探し出してきた服や寝具を整理していた。
ここから出られないので地下と変わらないんじゃないかと思ったが、そんな事は無く、皆それぞれ活き活きとしている。
僕が行くと、皆は嬉々として服を見繕ってくれたが、僕は出来るだけシンプルなシャツとズボン、それと黒いローブを選んだ。
それに女性たちは何故かがっかりしていたが、地下でいつも僕の身の回りの世話をしてくれていた年嵩の侍女がいち早く立ち直り、手近な未使用の部屋へ案内してくれた。
その部屋へ入ろうとすると、突然後ろからドアを押さえられたので、びっくりして見上げると、それはフィオだった。
案内してくれた侍女を見ると、困った顔をしていたので、僕は「大丈夫」と言って下がらせる。
「フィオ……」
部屋へ入り、ドアを閉め、二人きりになるとフィオは後ろからしな垂れかかって来た。
肩を抱え込むように抱きしめられると、首筋にかかる吐息が熱かった。
「……ごめんね、さっきはごめん」
暫くするとフィオは絞り出すような声で謝って来た。
「ジルが、俺の知らないうちに変わっちゃって嫌だった。あんなに大事にしてた髪も切っちゃって、服もボロボロだし、角もあるし。皆が魔王ってジルの事を呼ぶのは何故? 姫の話していた事も本当なら、ジルもあんな風に酷い目に合ったの? ちゃんと教えてよ……」
「謝るのは僕の方。フィオを巻き込んでごめん」
そう言って、前に回された腕をポンポン叩いてやると、やがてフィオは顔を上げた。
「ちゃんと話すよ。だって、もう直ぐ僕たち結婚するんだろう? 」
「うん」
しかし、ゆっくりしている時間もないので、用意しながら話をする事になった。
隣のバスルームにあったバスタブに僕が魔術でお湯を満たして浸かっている間、フィオはその淵に腰掛けて話を聞いてくれる。
最初は僕だけ裸になるのが恥ずかしかったけれど、話しながら髪を洗ってくれたり、肩をマッサージしてくれるので、子供の頃、一緒にお風呂へ入っていたのを思い出して段々楽しくなってきた。
僕が魔王討伐に出てからの事を順に話すと、フィオはいちいち笑ったりびっくりしたり、困った顔をしたりしたけれど、僕が魔王になった辺りから怒り出した。
皆、僕に頼り過ぎだってね。
僕はそんなつもりだったとは思っていないのだけれど、そうなのかな?
でも、ガリエナも来てくれたし、ダグラスも仲間になってくれた。
こうやってフィオにも会えたしね。
魔王って呼ばれる存在になったしまったけれど、僕はこれで良かったと思っているよ。
それなのに、何でフィオは悲しそうな顔をしているのだろう?
フィオを助けに行ったのも、僕の独断なんだし、感謝なら黙って付いて来てくれたガリエナにでも言って欲しい。
でも、僕はフィオに嫌われていないのが分かり、嬉しくなって話過ぎてしまったかもしれないけれど、全部聞いてくれて良かった。
魔王になっても、変わらず接してくれたのも嬉しい。
よし、もう一仕事。
これが済んだら、僕は必ずフィオと結婚して幸せになるんだからな。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
悪役令嬢は見る専です
小森 輝
BL
異世界に転生した私、「藤潮弥生」は婚約破棄された悪役令嬢でしたが、見事ざまあを果たし、そして、勇者パーティーから追放されてしまいましたが、自力で魔王を討伐しました。
その結果、私はウェラベルグ国を治める女王となり、名前を「藤潮弥生」から「ヤヨイ・ウェラベルグ」へと改名しました。
そんな私は、今、4人のイケメンと生活を共にしています。
庭師のルーデン
料理人のザック
門番のベート
そして、執事のセバス。
悪役令嬢として苦労をし、さらに、魔王を討伐して女王にまでなったんだから、これからは私の好きなようにしてもいいよね?
ただ、私がやりたいことは逆ハーレムを作り上げることではありません。
私の欲望。それは…………イケメン同士が組んず解れつし合っている薔薇の園を作り上げること!
お気に入り登録も多いし、毎日ポイントをいただいていて、ご好評なようで嬉しいです。本来なら、新しい話といきたいのですが、他のBL小説を執筆するため、新しい話を書くことはしません。その代わりに絵を描く練習ということで、第8回BL小説大賞の期間中1に表紙絵、そして挿絵の追加をしたいと思います。大賞の投票数によっては絵に力を入れたりしますので、応援のほど、よろしくお願いします。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜
松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】
(ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』
※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています!
【あらすじ】
架空の国、ジュエリトス王国。
人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。
国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。
そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。
数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた!
仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。
さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す!
まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います!
恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり)
応援よろしくお願いします😊
2023.8.28
カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。
本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる