【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

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君を探して

準備

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 その後、地下にいた者たちもこの謁見室へやって来た。
 僕がここを乗っ取ってしまった為に、結局、向こうへ騎士が行く事も無かったそうだ。
 城へ入る時にたまたま出会った兵士と、多少のいざこざがあったが、リトス姫が間に入ってくれて無事に収まった。
 おかげで、まだ末端まで指示が行き渡っていない事も分かったのだが。
 
 そんな感じで、大勢がやって来た為に、いま、謁見室や王族の居住区だった場所は人で一杯だ。
 中には王たちに復讐へ行きたいと言う者もいたが、城の中の作りは複雑で王がどこにいるのか分からないし、指示を受けた騎士たちが物陰に隠れているかもしれないので、それは一旦諦めてもらう。
 まぁ、勝手に出て行って何かあっても僕の知った所ではないのだが、向こうに警戒されすぎるのも面倒なのだ。

 そう言えば、王子はなかなか話を纏められないらしく、一晩経とうかというのに何の連絡も寄越さない。
 このまま城を出て行ってくれるのが一番良いのだけれど、そうもいかないらしい。
 まぁ、いきなり内側から城の中心部を握られてしまったのだ、動揺しているだろうな。
 もしかしたら頭の回る奴がいて時間を稼いで兵糧攻めにするつもりなのかもしれないが、まだ地下から持って来た食料もあるし、もし足りなければペトラに移転してもらって、そこら辺の美術品の1つでも売って食料に変えて来てもらえばいい。
 だが、それだと長期戦の覚悟が必要かもしれないな。
 
 
 フィオと僕はと言うと、感動の再会をする筈だったのに上手く行かなくて、よそよそしいままだ。
 侍女たちに交じって食料を配っているフィオを見て、僕はため息を吐いた。
 
「戦える人数が少ないから配置を考えないとね」
「隠し通路を見つけた。封印しちゃう? 」
「実践的な武器はこれだけしか見つかりませんでした」

 今、僕は丸テーブルの上で見つけて来た城内の図面を開いて会議をしている。
 実際に戦える人数が少ないので、僕とガリエナの魔術で補える部分は補って、ローズたちが到着するまで持たせなければならない。
 それに、どうやってここへ来た魔族たちを城内へ招き入れるかなど考える事も多い。
 気が早いリトス姫などは、男性のようなブラウスにパンツスタイルで、ダグラスが見つけて来た武器を吟味してるけれど。

「ジルヴァーノ、顔色が悪い。ちょっと休んで来たら? オレもいるんだし、少しくらい大丈夫でしょ」
「そうですわ。せめて着替えていらっしゃいな。あなた、服がボロボロですわ」

 ガリエナと姫に言われて自分の服を見る。
 ああ、確かにボロボロだ。
 この薄い服になってから一度も着替えていなかった。

「それじゃあ、少しだけ良いか? なるべく早く戻って来る」
「ええ」
「ちゃんと休めよ」

 僕は姫とガリエナに後を頼んで居住区の方へ足を向けた。
 そちらに行くと、出入口近くで女性たちが集まって、探し出してきた服や寝具を整理していた。
 ここから出られないので地下と変わらないんじゃないかと思ったが、そんな事は無く、皆それぞれ活き活きとしている。
 僕が行くと、皆は嬉々として服を見繕ってくれたが、僕は出来るだけシンプルなシャツとズボン、それと黒いローブを選んだ。
 それに女性たちは何故かがっかりしていたが、地下でいつも僕の身の回りの世話をしてくれていた年嵩の侍女がいち早く立ち直り、手近な未使用の部屋へ案内してくれた。
 
 
 その部屋へ入ろうとすると、突然後ろからドアを押さえられたので、びっくりして見上げると、それはフィオだった。
 案内してくれた侍女を見ると、困った顔をしていたので、僕は「大丈夫」と言って下がらせる。
 
「フィオ……」
 部屋へ入り、ドアを閉め、二人きりになるとフィオは後ろからしな垂れかかって来た。
 肩を抱え込むように抱きしめられると、首筋にかかる吐息が熱かった。

「……ごめんね、さっきはごめん」
 暫くするとフィオは絞り出すような声で謝って来た。
「ジルが、俺の知らないうちに変わっちゃって嫌だった。あんなに大事にしてた髪も切っちゃって、服もボロボロだし、角もあるし。皆が魔王ってジルの事を呼ぶのは何故? 姫の話していた事も本当なら、ジルもあんな風に酷い目に合ったの? ちゃんと教えてよ……」
「謝るのは僕の方。フィオを巻き込んでごめん」
 そう言って、前に回された腕をポンポン叩いてやると、やがてフィオは顔を上げた。
「ちゃんと話すよ。だって、もう直ぐ僕たち結婚するんだろう? 」
「うん」
 
 しかし、ゆっくりしている時間もないので、用意しながら話をする事になった。
 隣のバスルームにあったバスタブに僕が魔術でお湯を満たして浸かっている間、フィオはその淵に腰掛けて話を聞いてくれる。
 最初は僕だけ裸になるのが恥ずかしかったけれど、話しながら髪を洗ってくれたり、肩をマッサージしてくれるので、子供の頃、一緒にお風呂へ入っていたのを思い出して段々楽しくなってきた。
 
 僕が魔王討伐に出てからの事を順に話すと、フィオはいちいち笑ったりびっくりしたり、困った顔をしたりしたけれど、僕が魔王になった辺りから怒り出した。
 皆、僕に頼り過ぎだってね。
 僕はそんなつもりだったとは思っていないのだけれど、そうなのかな?
 でも、ガリエナも来てくれたし、ダグラスも仲間になってくれた。
 こうやってフィオにも会えたしね。
 魔王って呼ばれる存在になったしまったけれど、僕はこれで良かったと思っているよ。
 
 それなのに、何でフィオは悲しそうな顔をしているのだろう?
 フィオを助けに行ったのも、僕の独断なんだし、感謝なら黙って付いて来てくれたガリエナにでも言って欲しい。

 でも、僕はフィオに嫌われていないのが分かり、嬉しくなって話過ぎてしまったかもしれないけれど、全部聞いてくれて良かった。
 魔王になっても、変わらず接してくれたのも嬉しい。

 よし、もう一仕事。
 これが済んだら、僕は必ずフィオと結婚して幸せになるんだからな。
 
 
 
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