【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

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君を探して

お茶会

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「お兄様、騎士たちを下げて」
 僕たちの前に現れたリトス姫は毅然とした態度でそう言った。
「私が今までどうしていたかお話いたします。それを聞いて、お兄様自身でお考え下さいな」

 リトス姫は僕の隣にいた城のお仕着せを着た小さな魔族たちに気付くと、指示を出してお茶の用意をさせ始めた。
 卓や椅子も用意され、どんどん準備がされて行くのを、今、僕はフィオの腕の中で唖然として見ている。

「フィオ……これはどう言う事? 」
「リトス姫がね、王族同士でお茶会を開けば邪魔が入らないって。お茶会は完全にプライベートだから、部外者は誰も口を挟めないんだって」
「そうなのか……って、お前、今までどうしてたんだ? 怪我は? 酷い事されなかったか? 」
 僕は立ち上がってフィオに抱き着いた。
 その顔を、首筋を撫でて確認する。
 どこにも傷は見当たらないのでホッとした。

「うん、何にもされてないよ。俺、今までペトラの家でペトラのお母さんの面倒を見ていたんだ。とても良い人だったよ」
「そうか……良かった」
 ペトラを見ると、魔力切れに近いらしく、部屋の端で酷く青い顔をして蹲っている。
 きっと二人を早くここへ連れて来ようとして、無理したのだろう。
 こんな場所へフィオを連れて来たことを叱ってやろうかと思っていたが、その姿を見たらそんな気は無くなっていった。
 
「それより、ジル。この角みたいなのは何? 髪はどうしたの? その恰好は? ねぇ、ジルこそ酷い事されてない? 」
 同じように僕を見ていたフィオは、見た事が無いほどの剣呑な雰囲気を漂わせていた。
 この距離だ、薄絹の下の異常に気付いたんだろう。
 
 今までフィオはどんな時も僕にこんな不機嫌な姿を見せた事は無い。
 いつも、ふんわり笑って、のんびりしていて、こんな風に矢継ぎ早に質問してきたりなんていうのも初めてだ。
 僕は、フィオに会えて嬉しかったのに、怒られた嫌われてしまうと思ったら、気分が急に萎びてしまった。
 
 
「どうしたのジル。やっぱり……」
「皆さま、用意が出来ました。さぁ、私が招待した方以外は下がって下さるかしら」
 リトス姫はダグラスとペトラ、宰相と騎士団長を別々の場所へ追いやった。
 フィオも渋々ペトラに付いて行こうとするが、「フィオさまは魔王の婚約者なのだから残って下さいな」と言って引き止められる。

 僕たちは姫の指示で用意された円卓の周りに座らされた。
 用意してくれた魔族たちも、お茶を出すと外へ出て行ったので、本当に僕たちだけになってしまう。
 リトス姫が現れてからは王も大人しくなっていたので、僕は拘束を解き、話せるようにしてやった。


「まさか、私が戻って来るなんて思わなかったでしょう、お父様」
 お茶を飲みながらリトス姫は王を睨みつける。
 その姿にやや怯みながら、王子が口を開いた。

「リトス……その、君は今まで地下のハーレムにいたって? 」
「ええ」
「その、そこはどんな所か聞いても? 」

 その質問に姫は事細かく応じた。
 どんな場所だったか、何をしていたか、魔力供給の事、アルベロの事……。
 姫はどうやって魔力供給していたかちゃんと知っていた。
 その事も話したので、最後は王子も顔色が悪くなって、口数が減っていったのは無理もない。

 姫は、僕が知っている子供の姫ではなく、強く賢い自立した女性になっていた。
 あったことを正しく伝え、自分の考えを交えて意見を述べ、もう王家に戻る気は無いと言う。
「私、ジルヴァーノ様がいなかったら一生地下へ閉じ込められていたでしょう。それを知って私は気が狂いそうでしたのよ。助けて頂いてありがとうございました」
 そう言って僕へ頭を下げる姫に、もう僕は嫌悪感が無くなっていた。
 
 
 しかし、話が魔石の増産は見込めなくなった事へ進むと、王はまた激高した。
 どうやら、アルベロを地下へ閉じ込めて鉱山開発を始めたのはこの国の最初の王で、彼は元々、冒険者だったようだ。
 本来はアルベロを殺さない程度の魔力を、奴隷などから時々与えていたそうだが、近年は増産したくて古代遺跡内にハーレムを作ったそう。
 興奮してペラペラと話す王とは反対に、場の空気は冷えていく。
 
「お兄様、この事を他の兄弟やお妃様方にも知って頂きましょう。もう、この国は御終いです。このまま魔王に乗っ取られた事にしてしまった方が色々と都合が良いかと」
「しかし……」
 王子は頭を抱えてしまった。
 確かにここだけで決める訳に行かないよな。
 しかし、こちらの都合も聞いてもらわなくては。
 これまで黙って聞いていたが、僕はここで口を挟んだ。

「……少し、良いか? 」
「はい」
 僕が話を中断するように声を掛けると、王子が忌々しそうに首を傾げた。
 横柄な態度にイラっとしたが、僕は笑顔を心掛ける。
 
「もうすぐここへ他国から仲間の魔族が集まって来る。そこでだ、君たちには早急に出て行ってもらいたい。そうだな……王には侯爵位を付けるからどこかに土地をあげよう。王族は全員そこへ連れて行って欲しい」
「何を! ここは私たちの国だ! 余所者は出て行ってもらおうか!」
「お父様、黙って」
 王にピシャリと言って黙らせる姫、強い。

「もし、この話が受け入れられなければそちらと魔族の間で戦争だな。そっちは戦力の半分は傭兵だろう? 金が無ければ誰も助けてくれないだろうが、こちらは僕一人でもこの城くらいは何とかできる。王子は僕が城を破壊したのを見たのだろう? 」
 実際のところは、訓練された騎士に敵うか分からないが、僕は精いっぱいのハッタリを言ってみた。
 だって、魔王なんだから、それなりの態度を取らなくちゃ恰好が付かないじゃないか。
 
「……少し、待ってはくれないか。話し合って来る」
 酷く疲れた様子の王子は、王を連れて席を立った。
 残った僕たちは緊張を解く。

「ずいぶんと強気な対応をされていたけれど、大丈夫なのかしら? 」
「そっちこそ、一緒に行かなくて良いのか? 」
「ええ、私はこちらの味方です。そもそも魔族が悪いなんて誰が決めたの? 父の方がよっぽど酷いわ」
 そう言ってお茶を飲み干すリトス姫に、僕は思わず苦笑してしまった。
 
 
 
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