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君を探して
呼ばれる
しおりを挟むその日は朝から慌ただしかった。
僕とガリエナが一緒に使っている部屋を侍女たちが出たり入ったりしている。
ついにどちらかを魔力供給の間に連れて行こうと言うのだ。
『どちらか』と言うのには理由があった。
「僕が行く。僕の方が耐えられる」
「何言ってるの? オレの方が経験あるし! それにこういう時は年の順でしょ! 」
「僕なら何かあった時にも対処できる」
「何、その自信? 大体こんなので傷物になったらフィオが泣いちゃうよ! 」
「ぐっ! しかし……」
「両方いらっしゃっても宜しいのですよ」
最初から僕たちの面倒を見てくれている年嵩の侍女が見かねたのか、声を掛けて来た。
最初、侍女はガリエナだけを連れて行こうとした。
しかし、僕がそれを遮ったので言い合いになってしまったのだ。
大体、僕の方が何でも耐性がある。
『本当の王』のいる場所へ行けば、ここを抜け出すチャンスが見つけられるかもしれないじゃないか。
そう思ったのにガリエナは引かない。
しかも年甲斐も無く拗ねてしまった。
その後、別々に身を清められ、新しい衣服(男物に変えて欲しいと言ったら男物のヒラヒラでスケスケの服を出された)を身に付けた僕へ、念のためと、例の王を受け入れる為に必要だと言われた薬を差し出された。
それをガリエナは飲んでいたが、僕は断る。
侍女が心配そうな顔をしたが、僕はその薬を信用できないのだ。
次に男性の侍従が拘束具を持って現れ、それを後ろ手にして手首に嵌めた。
そして侍女に先導されて到着したのは、やはり王が使用すると言う豪華な扉の前だった。
リトス姫によると、この扉の向こうに『本当の王』がいるそうだ。
そこでは聞いた通りに、侍女が僕たちに目隠しをした。
「こちらは決して取らないでください。どうぞお気を付けて」
そう言うと、首輪を外す。
その瞬間、身体の中にある魔力が再び動き出し、空気中の魔力や瘴気も感じられるようになった。
扉の方から瘴気が漂って来るのも分かる。
『王』とは魔族、あるいは魔物なのだろうか。
いずれにしても、首輪が無いのなら勝機はあると僕は思った。
笑わないように平静を装うのが難しい。
「お二人共、このまま真っ直ぐに歩いて行ってくださいませ。突き当りに扉がありますので、そこを押し開いて中へ。そこに王がいらっしゃいます」
珍しく、焦る様に侍女が口を開いた。
口調も少し焦っているようだし、もしかしたら面会時間などが決められているのかもしれない。
ガリエナと口論している時に結構時間を食ってしまったものな。
僕は侍女にガリエナを支えるように寄り添わせてもらい、押された方向へ歩を進めた。
暫く歩くと後方で扉の閉まる音がする。
ぴったりと閉まるのを確認してから僕は口を開いた。
「おい、奥に濃い瘴気があるが、ガリエナは大丈夫なのか? 」
「今のところは……でも、首輪が無いのにオレは瘴気なんて感じられない。薬のせい? 眠気も酷いし……なぁ、魔術は使えそうか? 」
ガリエナが心配そうに声を掛けて来た。
首輪を外されても魔術が使えない事で、薬を飲んだことを後悔しているのかもしれない。
しかし、彼は僕を庇う気で飲んだに違いないから咎めはしない。
こいつは案外、面倒見が良いのだ。
そう言えば、王宮魔術師団にいた時も後輩から慕われていたものだ。
「ああ、心配するな。任せとけって」
僕は他に気配がない事を確認してから、腕に身体強化の魔術を掛けた。
「はっ! 」
力を入れると右手と左手の拘束具を繋ぐ金具が曲がって壊れる。
完全には外れないが、後でゆっくり外せばいい。
目隠しをむしり取って目を身体強化し、今度はガリエナの方の拘束具を壊した。
「悪いな、ありがと」
ガリエナはそう言うと自分の目隠しを外した。
「どうやら、侍女たちは僕が魔王だって気付かなかったみたいだな。ふつうの拘束具だった」
「まぁ、見えないよね。見た目はせいぜい、魔族と人間のハーフってところじゃない」
ガリエナは眠気が強いのかフラフラしているが、少し笑ったので、気分は悪くないようだ。
「眠いようならここで待っていても良いぞ。僕一人でも大丈夫だから」
「いや、オレも行く。足手纏いにならないようにする」
そう言うと、ガリエナは奥に向かって歩き出したが、暗くて何も見えないので時々ふらついて壁にぶつかる。
仕方ないので僕は彼の肩を支えて、目を身体強化してやり、夜目が効くようにしてやった。
そうして辿り着いた一番奥には、侍女が言っていた通りに扉があった。
「何、この扉。古代語で真っ黒」
ガリエナの言うとおり、目の前の扉は真っ黒になるほどに古代語がびっしりと書かれている。
こんなに厳重に結界を施されているなんて、一体この中に何がいると言うんだ。
「ああ。それにこの奥、かなり濃い瘴気だぞ」
「『王』って魔族か何かなのか? まぁ、姫が大丈夫だったんだから平気でしょ。多分、飲んだ薬は瘴気耐性を付けるやつだと思う」
「そうか。 ならば開けるぞ。帰りたくなったら、言え」
「なんねぇよ」
悪態をついていても、明らかに緊張感しているガリエナを支えながら、目の前の扉を片手で押す。
あっさりと開いた扉の中は、岩山の上程ではないが瘴気で一杯だ。
これはかなり強い魔族か魔獣がいるに違いない。
話の通じる相手なら良いが。
そう思いながら二人一緒にその中へ足を踏み入れると、結界を通り抜ける感覚がして、扉が勝手に閉まった。
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