【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

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君を探して

宴2

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 暫くすると、目立つガリエナは案の定女性に囲まれてしまった。
 僕は我慢して側にいたが、段々と息苦しくなってきた。
 女性が嫌いな訳じゃないんだけれど、こう言う着飾った女性は継母アリーチェを思い出してしまう。
 ずっと男所帯にいたせいもあるのかもしれない。
 僕はフィオ一筋だから別に困らないんだが。
 
 そんな事を考えていると、バルコニーの外にダグが立っているのが見えた。
「ちょ、ジ、ソフィア、すみません」
 僕がそちらへ行くと、ガリエナも後を追って来る。
 しかし、女性も付いて来るからちょっと離れていて欲しいな。

「ダグ、どうだった? フィオはいたのか? 」
 僕がバルコニーの端の暗がりにしゃがんで小声で問いかけると、ダグは頭を振りながら近付いてきた。
「……そうか。どこにいるのかは分かったのか」
「いや、お前にもらった道具を使って結界の中に入ってみたが無駄だった」
「え? 馬鹿、中に入ったのか? 身体は大丈夫なのか? 」
 
 ダグが結界の中へ入ったと聞いて僕は焦った。
 いくら結界を遮る魔道具があっても、向こうに気付かれないと言うだけで、本人は無傷じゃないだろう。
 こういう所の結界には侵入者を害するタイプが多いんだ。
 例えば麻痺させるとか、火傷するとか、古傷を刺激するとか、下手したら切り刻まれたりとか……。
 僕はダグに怪我が無いか知りたくて手を伸ばし、治りかけの目の縁に触れた。
 
「うっ……心配してくれるのか」
「当たり前だ。痛むのか?」
「いや。麻痺の術が掛けてあったが、お前のよりずっと弱かったから平気だ」
 ダグは僕の手から離れ、赤みが強くなったように見える顔を俯かせる。
「やっぱり影響があったんじゃないのか?」
「いいや」

 その時、背後が騒めいて人々の動く気配がした。
 ダグがさっとバルコニーの下に身を隠したので、僕も立ち上がってガリエナの隣へ行く。

「誰? 」
「リチェルカーレ王みたいよ」
 
 小さな声で周りの人々が囁き合っているのが聞こえる。
 ガリエナを囲んでいた者たちもそちらへ気を取られてしまったので、僕たちは目立たない様に気配を消して暗い方へ隠れた。
 しかし、騒めきは段々こちらへ近付いてくる気がする。
 
「やあ、楽しんでる? 妹さんと話がしたいのだけれどいいかな? 」
 やはりと言うか、王は僕たちの前まで真っ直ぐに来ると、立ち止まってにっこりとほほ笑んだ。
 先導する護衛の一人が気配察知に長けているらしく、隠れても無駄だったのだ。
 こんな顔も見えない奴に何の用だよ。
 
「妹は慣れない場所で緊張しておりまして。申し訳ありませんが、陛下とお二人で話が出来る状態ではありません」
 頭に被った薄絹をおさえてじっとしていると、ガリエナが一歩前へ出て庇ってくれたが、王は食い下がってきた。
「ふむ。では、サロンを用意させよう。あそこなら落ち着いて話せるだろうからね。心配なら君も一緒に来れば良いだろう? 」
「それならば……」
 ガリエナはチラっと僕を見たが、王にここまで誘われて断るわけにいかないよな。
 周りを護衛に囲まれてしまい、僕は更に顔を俯かせ、ガリエナの後ろに隠れるように王の後を付いて行った。
 

 会場から少し入った所の、小さなサロンの1つに案内された僕らは、たくさんのクッションが置いてある場所へ座る様に促された。
 床に敷いたカーペットへ直に座るのがこの国の様式なのだ。
 ガリエナにぴったり寄り添って座ると、僕の隣に王が座ってきた。
 ち、近い……。

 さりげなくガリエナが僕を後ろへ隠してくれたが、王はそれを見て微笑ましそうに目を細めた。
「可愛らしい兄妹だね。リチェルカーレから来たのだって? 観光? 」
「はい」
 僕が黙っているのでガリエナが全て受け答えする。
 それよりいい年した男に向かって可愛らしいって何だ。
 あ、僕もフィオにそう言う時があるからアリなのか?

「リチェルカーレと言えば、最近は瘴気の発生が多いとか。それに比べたらここは綺麗なものだよ。気に入ったら移住しなさい。私が全て手配してあげよう」
「ありがとうございます。ですが、私たちもまだ来たばかりで、こちらへ馴染めるかは分からないので……」
「そうか、そうか。それならば、これから私が良い思いをさせてあげよう。さあ」
 そう言うと、侍従の一人が綺麗な色のカクテルを持って現れた。
 
 怪しい、めちゃくちゃ怪しい!
 しかも「どうぞ、お近づきの印に」と、王が自らそれを手渡してくる。

「……ガリエナ」
「飲まない訳にいかないだろ」
 僕たちが小さな声で話していると、王がにっこり笑った。
 圧が凄い。

「イタダキマス……」
 まぁ、何かあったらこの国を亡ぼすまで。
 僕は意を決して、ガリエナに続いてカクテルに口を付けた。


 
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