【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

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君を探して

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 「行ってらっしゃいませ」
 宿の主人に見送られ、ダグの操る馬車で城へ向かう。
 そこで通信魔道具でランベルトか父に連絡を取ろうと思ったが、距離の問題なのだろうか、通信が繋がる事は無かった。
 戻ったらこれも改良しないとな。
 
 この国では、城で月に何度か王の主催による宴が開かれている。
 今夜、僕たちはそこへ入り込みフィオの居場所を確認し、出来れば救出したかった。
 この宴、主な目的は貴族間の交流と貴賓の接待なので、国外の貴族や商人なら誰でも参加できると、僕は以前滞在していた時に聞いて知っていた。
 まぁ、僕はそこで例の姫と知り合った訳なのだが。
 当時の記憶を思い出して僕はブルっと震えた。

「はぁ……気が乗らないな」
「大丈夫、完璧な変装だから誰もジルヴァーノだとは気付かないって。それにオレとダグは初めてここへ来たんだから顔も割れてない。ジルヴァーノが暴走しなければ大丈夫」
「何だその言い方は。僕はいつも冷静だぞ」
「えぇ?」
 向かいに座るガリエナの態度に腹が立って、その足を蹴り続けているうちに城に着いた。


「はぁ、相変わらずだな」
 久しぶりのディミトラ城は変わらぬ豪華さだった。
 月の光を受けて輝く白亜の壁、やたらと大きな建物、無駄に多い尖塔。
 ガラスではなく結界で出来た窓、魔道具の照明器具、ピカピカの鎧の兵士……。
 入場手続きをするガリエナを横目に辺りを眺めていると、横でダグが震え始めた。
「おい、大丈夫か? 」
「ああ、人が多すぎる。中に入ったら俺は直ぐに人のいないところへ行くぜ」
「そうしてくれ」

 ここでダグは僕たちと別れて、城の中で人に紛れて暮らしている協力者の魔族に会いに行く。
 僕はその魔族に会った事はないが、聞いたところによると、魔族と言う者は、魔王と認めた相手には従順になるそうだ。
 だから信用しても大丈夫だとダグは言っていた。
 ……と、言う事はダグも僕を魔王って認めてくれたって事だよな。
 何にも言わないけれど、そうか、そうか。
 僕はちょっと嬉しくなって、薄絹の中でニヤニヤしてしまった。

 手続きを済ませて中へ案内されると、ダグは手洗いへ行くと言ってそれとなく離れて行った。
 それにしても今回のドレスコードはこの国の民族衣装だから同じような格好の者ばかりだ。
 ガリエナからはぐれないように気を付けないといけないと思って、僕は彼の服の袖を引く。
 それに気付いたガリエナは振り向いてニヤリと笑った。
 
「何? 怖い? それともオレが格好良いのに気付いちゃった感じ? 」
「そんな訳あるか、迷子になりたくないだけだ」
「そ」
 ガリエナは僕の腕を取り、自分の腕に絡めて色っぽく流し目をしてきた。
 すると、周りが騒めく。
 全く、只でも目立つのに、これ以上目立ってどうするんだ。
 お前は俺に構ってないで姫を探せ……と思ったが、姫の顔を知っているのは俺だけだったか。

 

 あれから調べて分かったのは、フィオを攫ったのはディミトラ王国の15番目のリトス姫で、今年18歳になると言う事。
 前に会った時は子供だったからな、僕も分かるか怪しいところなんだが。
 そんな事を思いながらキョロキョロしていると、王に挨拶する順番が回ってきた。
 面倒だが、ここに来た者は最初に王へ挨拶しなければならないそうだ。

「お初にお目にかかります、リチェルカーレから参りました。ベルトウィッチ子爵家のガリエナ・ベルトウィッチと申します……」
 玉座の前に立つガリエナの挨拶を聞きながら、女性の礼を取る……上手くできただろうか。
 姿勢を正して薄絹越しに王の周りを伺うと、数人の女性がいたが、ここにも例の姫はいようだ。
 姫は年頃だから顔を見せに参加していると思ったのだが……。
 彼女にはなるべく会いたくはないが、なるべく穏便にフィオを返してもらうためには仕方がない。
 もしもダグがフィオの居場所を見つけられなかったら、彼女に角や瘴気を見せて脅してでも居場所を教えてもらうつもりだ。

 そんな事を考えていると、王が僕に「顔を見せてくれないか」と声を掛けてきた。
「申し訳ありません、妹は恥ずかしがり屋で」
 黙っているとガリエナが断ってくれたので、僕は何度も頷いておいた。

「怖……」
 王の御前を去っても僕は暫く鼓動が止まなかった。
 この国の王は違う意味で厄介だ。
 彼は好色で有名。
 その証拠に男女のハーレムを持ち、子供が30人以上いる。
 前に会ったのはかなり前だから、少しくらい顔を見せても僕の事なんか分からないだろうけれど、下手をして姫の時の二の舞にはなりたくないのだ。
 その点はガリエナも気を付けろよ、と釘を刺しておいた。

 

 
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