【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

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君を探して

ディミトラ王国

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 あれから数日後、僕たちはディミトラ王国と言う国へ来ていた。
 ここは僕たちが住むリチェルカーレ王国の隣の国。
 フィオを攫ったのはやはりこの国の者だったのだ。


 本当なら自国で捕縛したかったのだが、他の被害者の救出に意外と時間が掛かってしまった上、フィオを連れ去った魔術師が数キロほど瞬間移動できる魔法陣を開発する事に成功していて地形を無視して進んでしまう為に、結局追い付けずここまで来てしまった。
 フィオを誘拐した時にも使っただろうあの魔法陣は厄介だ。
 もし、戦いに使われたら簡単に国への侵入を許してしまうだろう。
 それよりも黒幕は誰なのだろうか?
 僕に結婚を迫ってきたあの姫か?
 名前はえーと、えぇと……。

「ねぇ、大丈夫? 」
「ああ」
 姫の名を思い出そうとしていると、ガリエナに声を掛けられた。
 ガリエナは僕に付いて来てあれこれ世話を焼いてくれるのは有難いのだが、色々と煩いところがある。
 お前は僕の母親か……?
 いそいそと、この国の衣装を僕に着せてくれるガリエナに目を向けた。
 
 このディミトラ王国は僕たちが住んでいる国リチェルカーレ王国の南東にある。
 海に面している美しい国で、決して大きくはないのだが、資源が採れるので国民は裕福で衣装も華美。
 リチェルカーレとは異なる気候で、生活様式も異なる。
 当然、服も全く違うものだった。
 
 ぼんやり着付けを見ていると、頭に薄紫色の薄絹を掛けられた。
「これ、女物じゃないのか? 」
「大丈夫、大丈夫。ジルヴァーノならちょっと背の高い女性に見えなくもないよ。これなら角も、顔だって隠れるし」
 そう言ったガリエナは頭に緑色のターバンを巻き、ゆったりと身体を覆う白い服にターバンと同じ緑色のマントを身に付けている。
 僕は白の長いローブに頭の薄絹と同じ薄紫のマントを羽織っていた。
 
 ダグと戦った時にバラバラに切れてしまったので髪は短くした。
 だから今は髪のせいで女性に間違われる事もないだろうに、まぁ、昔ここに滞在した事があるから、顔を覚えている者がいるかもしれないしな。
 予防だと思って我慢するか。
「はい、腕上げて」
「あ、お帰り」
「!!」
 首や腕にシャラシャラ鳴るアクセサリーを付けられているところへ、ガリエナと似ているが、マントを着けない平民の格好をしたダグが戻ってきた。
 なぜか彼もここへ一緒に付いてきたのだ。

「あ、ジルヴァーノか……? 」
 一緒にいて分かったのだが、ダグと言う奴は普段とても大人しい男だった。
 身体が大きいのに意外と臆病だし、あんなに乱暴だったのは濃い瘴気のせいだったのだろうか?
 今だって、頭の薄絹を捲って見ると、ダグは分かりやすく治りかけの目を見開いて狼狽えた。
 だよな、薄化粧して、口に紅まで引かれて気持ちが悪いよな。
 変なものを見せてすまない。
 
「ダグ、今からジルヴァーノはソフィア・ベルトウィッチ子爵令嬢って、オレの妹の名をを名乗ってもらう。交渉はオレがやるから、二人共喋らなくていいよ。で、外の様子は? 」
「大丈夫だ。で、城にいる魔族に聞いたんだが、婚約者は使用人も入れない離れにいるらしい。だが、そこは結界の奥で、今はこれ以上は分からないそうだ」
「そうか、無事だといいが……」

 この国は表面上平和だ。
 故に王都は観光地としても人気がある。
 しかし、公にはされていないものの、ここには奴隷制度と言うものが残っている。
 奴隷は表には決して出て来ないので、どんな扱いを受けているのか分からないが、そんな制度が残っているくらいだ、今回のフィオのように非公式に連れて来られた人間の扱いがどんなものか分からない。
 もし、フィオが僕の想像するような奴隷扱いを受けていたら、と思うだけで僕は腸が煮えくり返る思いだった。

「ゴホッ、ゴホン、ソフィア、魔力が漏れているよ。気を付けて」
「あ、すまない……」

 魔王になった僕はどういう訳か体質が変わり、瘴気も魔力を構成する一部になって魔力量が更に増加した。
 そのせいで瘴気の気配のある魔力が漏れやすくなってしまい、ガリエナみたいな敏感な者には直ぐに分かってしまうみたいだ。
 ここで正体が分かったら、有無を言わさず捕まってしまうだろうから気を付けないと。
 
「……魔族とは暮らしにくいものだったのだな」
 僕がそう言うと、ダグが太い眉を下げて困った顔になった。
「分かってくれたか。だから代々の魔王は人間を敵に回してまで自分たちの国を作ろうとしたんだ」
「そうか」
 
 魔王になったものの、後をローズに任せたままここへ来てしまったから、自分では魔王になった実感は然程ない。
 しかし、魔族の現状を知った今、そちらを放っておくわけにもいかないのだ。
 
 ダグの下がった眉を見ながら、フィオを無事に取り戻したらそっちも何とかしないと、と僕は思った。
 
 
 
 
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