【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

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魔王討伐隊

再会

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 「元を断たないと無理ですね」
 ロルフォが浄化をしても、瘴気は消えなかった。
 多少は薄くなっても、何処からともなく漂ってきて、直ぐに濃くなってしまうのだ。

 何度か繰り返したが一向に浄化が進まないので、諦めて先へ進もうとすると、目の前に誰かが立ちはだかった。

「……久しぶりね、ジルヴァーノ・ディガッタ」
「誰だ? 」
「酷いわね。まぁ、貴方とは接点が殆どなかったし、覚えてなくても仕方ないか。わたし、ローズよ。マッサーリ村のパン屋の娘ローズ」
「ローズ……。」

 言われてみれば、どこかで見た事のある顔はローズかもしれない。
 しかし、今のローズは素の状態で瘴気の中に居ても平気である。
 こんなに濃い瘴気の中にいて大丈夫だなんて、魔物以外にありえない。
 すると、僕と相手の間にガリエナとランベルトが入り込み、僕を庇うように立った。

「こんな濃い瘴気の中にいて平然としてるなんて魔物だろ? 」
「ディガッタ様、倒してしまいましょう」
「ちょ、ちょっと待て」
 話も聞かず、素手の相手にいきなり武器を翳す二人の血の気の多さにびっくりしてしまう。
 
「もう、野蛮な人達ね。わたしを倒すとフィオの居場所も分からなくなるわよ」
「フィオの居場所を知っているのか? 」
「ええ。だから落ち着いてちょうだい」
 ガリエナとランベルトを宥め、ローズと話してみると、彼女は淫魔と人間のハーフだと言う事が判った。
 そう言えば彼女の家は片親だったな。
 
 ローズは子供の頃はほぼ人間だったが、成人してからは村の男を誘惑して精気を奪っていたそうだ。
 父の結界は登録した者の出入りを妨げない作りだったので、村人のローズも結界に弾かれなかったのだろう。
 

「だからって、魔術まで使ってフィオに手を出したのは許さん……くっ!」
「確かに、あなたのフィオに手を出したのは謝るわ。しっかり守られていたのも知っていたけれど、淫魔の性で味見したくなっちゃったのよ」
 うふふ♡と、全く悪びれる事なく笑うローズに腹が立つ。
 それにしても、近場に転がっていた椅子に座り雑談をする僕たちは明らかに緊張感に欠けていて、皆が戸惑うのも分かる。

「で、フィオはどこにいるんだ? 村人は? 誘拐したのはお前か? 」
 つい聞きたい事から聞いてしまったが、本題に入らなくては。
 フィオもきっと僕が助けに行くのを待っているはずだ。

「うん、フィオも村人も居場所は知ってる。でも、誘拐したのは私たちじゃないわ。生け贄なんて、人間が言ってるだけで必要ないの」
「じゃあ、居場所を教えろ! 知っているんだろう? 」
 僕は更に凄んでローズに詰め寄った。

「良いけれど、それには交換条件があるの。あなた……魔王になってちょうだい」

「は?」
 これには僕だけでなく、辺りを警戒していたフォーレにもガリエナにもランベルトにも、勿論こちらを注視していたロルフォにも聞こえたらしく、皆、怪訝な顔をこちらに向けていた。
 突然、何を言い出すんだ。
 これじゃ、僕が今まで努力して避けて来た事が台無しになってしまう。

「魔族や魔物の事ってどのくらい知ってる? わたしたちは悪い事をするためにいるんじゃないの。私たち魔族は瘴気から生まれたり、瘴気が知能の高い生物に憑いて独自に進化して繁殖したもの。魔物も似たようなもので知能が低い、あるいは見た目が動物に近いものの事を指すわ。そういうの以外は人間と同じで、個々に社会があって、種族同士で争っている事が多いわ」
 そこでローズは僕をじっと見て微笑んだ。

「それが今よ。このまま放っておいたら弱体化して、人間が何もしなくてもいずれ滅んでしまうでしょうね。だから統率者……魔王が必要なの。それは人間でも魔族でも良いわ。私たち、強くて魔力が多い方が好きだから。例えば貴方なんか適任よ」
 ローズはそう言って僕を指さしたので、僕はその指を払い除けた。
「断る」
「まぁまぁ、これを見て」

 苦笑いのローズが両手で空中を撫でると、そこに大きな鏡のようなものが現れ、何処かの景色が写し出された。

 僕の記憶が正しいなら、そこは王都の屋敷近くの街角だ。
 それをどこか高い場所から見ているようである。
 暫く見ていると、見たことのある人物が数人歩いてきた。

「フィオ……それにエドモンドか? 」
 これは何時だろうか?
 二人は馬車を下り、ベテランの護衛を連れて街を歩いている。
 
 僕が好きな菓子を置いているカフェテリアの前で立ち止まったのが分かった。
 ここへ最後に二人で行ったのはいつだっただろうか。
 また一緒に行きたい……と、思っていたら、突然フィオの姿が消えた。
 画像には音声が無いので何を話しているのかは分からないが、エドモンドがパニックになってフィオを呼んでいるらしい。
 護衛もフィオを探して辺りを走り回っていた。
 
「おい、視点は変えられないのか?」
「ちょっと無理ね。でも、あの人知ってるでしょ」

 ローズが指した家の影には小柄な男が隠れるように立っていた。
 僕はそいつを何処かで見たような気がして、記憶を探る。

「……あれは隣国の……? 」

 この国の服を着ているが、間違いない。
 あいつは僕が隣国へ行った時に指導した魔術師だ。

「ね。フィオや村の男を拐ったのは隣国の連中よ。村の男を誘拐しようとしていたのを見たから、一度は誘惑して混乱させられたんだけどな。あなたフィオの事を上手く隠していたわね。だからあの人、あなたの婚約者がマッサーリ出身である事と男だって事くらいしか知らなかったんだけど……けれど、ついにフィオを突き止めたのね」
「……本当か? あの映像、お前たちが僕を騙そうと作ったものだろう 」
「私たちは騙そうなんて思っていないけれど、信じるかどうかは貴方次第よ」
 前世でフェイク動画を見た覚えがあるので、易々と信用はできない。

 再びローズが手を振ると、場面が切り替わって今度はどこかの部屋の中になった。
 部屋の雰囲気からして、隣国か隣国出身者の部屋。

 薄暗い部屋は広くて清潔だが、床に敷いてある絨毯には何人もの人が転がっていた。
 よく見ると、全員の髪色が似たような亜麻色。
 そう、マッサーリ村に良くいる髪色だ。
 その中で一人だけ座っている男がいた。
 
「あれはフィオか? これはリアルタイムなのか? そこはどこなんだ? 国内か、それとも」
「ちょっと落ち着きなさい。今は場所を教えられないわ」
「くそ、お守りに追跡できる機能も付けておけば良かった!」
「ジルヴァーノ殿」
 僕が蹲ると、フォーレが後ろから背を撫でて落ち着かせてくれた。

「……僕が魔王になるのと交換って訳か」
「ええ。あなたが魔王になれればね。実はもう一人候補がいて、そっちは凶暴で人間を滅ぼしたいって言ってる派閥が推してるわ。わたしはそう言うの反対だから、そいつを倒してあなたに魔王になって欲しい」

 ローズがそう言って手をさっと振ると、静寂を破ってどこからか獣の咆哮のようなものが聞こえて来た。

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