【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

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物語の始まり

ジルの家族に会う(フィオ)

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 今日は、ジルのご家族と初めて顔合わせをする予定になっていた。

 因みに今日お会いするのは、お義父さまとジルのお母さん、二人いるお義兄さまのうちの一人だ。
 後から来るって言ってたジルのお母さんとは子供の頃からの知り合いで、何度もお会いして気心も知れた仲だから良いけれど、お義父さまとお義兄さまはどうなんだろう?
 お義父さまの方は、村にジル達を迎えに来た時ちょっと見たけれど、あの時はジルと別れるのが悲しくてほとんど覚えていないなぁ。

 でもがジルと婚約するためには必要な事なんだ。
 ちゃんと認めてもらうために頑張らないと……。


******
 
 
「やぁ、良く来たね。父親のメルキオールだ」
「初めまして、私がジルヴァーノの一番上の兄のヴァレリオだ。そしてこちらが婚約者のセレーナだよ」
 俺はお義父さまから順に挨拶をし、最後に高貴な雰囲気の女性の前へ……。
「よろしくお願い致します」
「……普通ね」

 本家の中庭に設えられた、お茶会用のテーブルの周りには4人の人物が待っていた。
 因みに今、ジルはいない。
 直前になって仕事場から迎えが来て無理矢理連れて行かれてしまったからだ。
 
 お義父さま、お義兄さま、何故かお義兄さまの婚約者、そしてジルのお母さんではなく正妻のアリーチェ様……これはどういう事かな?
 それにしてもアリーチェ様の反応。
 良いんだけどね、俺、本当に普通だし。

 取り合えず、エドモンドさんに習った通りのマナーで席に着く。
 礼儀作法はまだまだ勉強中なので許して欲しいと、最初に一応断っておいたけれど大丈夫かな。

 それにしても、ジルはハンサムなお義父さまによく似ているな。
 ジルの目はお義母様譲り、お義父さまもこの目に魅かれたって聞いた。
 うん、解る。
 濃い青に金色の光が散った目は、夜空みたいでとても綺麗だもの。
 
 お義兄さまもジルやお義父さまと同じ黒髪だが、目は明るい青で、プラチナブロンドに中空の月みたいな黄色の目のセレーナ様と並ぶと対照的で素敵だ。
 アリーチェ様は王族の血筋の方らしく、王族に良くいるピカピカの金髪に青い目だった。
 いやぁ、いくら良い服を着ていても、これは俺の平凡さが際立つなぁ。

 お茶会が始まると早速、俺たちの出会いから婚約を考えるに至るまでの経緯を根掘り葉掘り聞かれる。
 別に隠すことなんかないから良いんだけれど、アリーチェ様の反応が微妙過ぎて居心地が悪い。
 それにしてもお義父さまとお義兄さまは人懐っこいな。
 ジルも二人きりだと人懐こいし、この二面性がこの家の男性の特徴なのかもね。
 セレーナ様は皆に合わせて笑ってはくれているけれど、よく見ると俺を警戒してるみたい。
 多分、平民の俺如きがって思われてるんだろうな。
 ちょっと悲しいけれど、そもそも貴族のジルと俺が婚約したいなんて言うのが変なんだよな。

「……ところでフィオとやら、お前はジルヴァーノ殿のどういうところが気に入ったのかえ?」
 ヘラヘラと愛想笑いを浮かべていた俺に、アリーチェ様が突然質問して来た。
「もしも、そちが家の財産や権利を狙っているのだとしたら、諦めた方が良い。
 言い方は悪いが、平民のそちとジルヴァーノ殿では釣り合わぬ。
 妾腹のジルヴァーノ殿に渡る財産も殆どないのだし諦めたらどうじゃ。
 まぁ、ジルヴァーノ殿は家の中での争い事を避ける為に、子が出来ない男を相手に選んだのであろうがな。
 もう少し身分の高い者を選べばよいのに」
「アリーチェ慎みなさい」

 お義父さまが止めてくれたが、アリーチェ様の話は俺に刺さる。
 こんな事言われて、これが村にいた時の俺なら逃げちゃったと思うんだ。
 でも、今はジルを諦めたくない気持ちの方が大きい。
 俺の為にいっぱい努力してくれたのに、俺が諦める訳に行かないんだ。
 だから、俺はテーブルの下で両手をギュっと握って、アリーチェ様の方を真っ直ぐ見て言った。

「お義母さま、確かに俺は元々大した物を持っていない平民ですけれど、ジル……ジルヴァーノを世界一あ、愛しています。俺たちは小さい頃からの知り合いです。だからこそ、村を出てからジルがどれほど努力して今の地位に付いたのか、どんなに苦労したのかよくわかるのです。はそんなジルを守りたい、それだけです。他には何もいりません」

 シーンと静まり返った中、誰かが息を飲んだ音だけが聞こえた。
 もしかして言い過ぎちゃった?
「あのぉ……すみません!」
 俺は勢いよく頭を下げた。

「ふっ、ふふふ」
 笑い声が聞こえてびっくりして辺りを見ると、アリーチェ様が「平民は、いらぬ度胸だけはあるものよ」と笑って席を立って行ってしまった。

 
 皆で唖然としてその姿を見送ってしまうと、お義父さまが口を開いた。
「まさか、君があんな事言うとはね。アリーチェと私も幼なじみでね。身分が釣り合わない私との婚約を周囲から反対された時に、同じ様な事を言って庇ってくれたのを思い出したよ」
「そうなんですか」
「それなのに、私は他に好きな人を作ってしまって……そう言えばルイーザジルの母も私以外はいらないと言ってくれたなぁ。私はそう言ってくれる人に弱いんだ」
 そう言って、お義父さまが弱々しく微笑んだ。
 

 俺、最近気が付いたんだ。
 ジルは実際にとても女性にモテる。
 当たり前だよね、あんなに格好良いんだからって、最初は思ってた。
 でも、俺がジルと付き合っているのを嗅ぎつけた人がに何度か言いがかりをつけて来て、ん?何か違うなって思った。
 皆、ジルの地位や名誉、実家の伯爵家の財産の事ばかりで、ジルの事は二の次。
 だからはジルをそんな人たちには渡したくない。
 それに、皆には「ジルを守りたい」なんて言ったけれど、実はジルを守るどころか閉じ込めて自分だけのものにしたいと思ってるくらいだ。
 
 ジルと再会してから、はどんどん欲張りになっていく。
 今までこんな気持ちになった事なんか無いのにね。
 
 
 そうして暫くしてからお義父さまから連絡が来て、俺は晴れてジルの婚約者として認めてもらう事ができた。


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