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物語の始まり
フィオの想い
しおりを挟む「うわぁ……ここが王都かぁ。高い建物ばっかり。人がいっぱい」
「ほら、はぐれないように手を繋ごう」
村から2週間かけてやって来た王都と言う場所は、村とは全然違う。
近くに海があって、白い石造りの建物がひしめくように建っていて、色んな人種の人々が行き交っている。
広場が整備されていて、面白そうなお店がそこら中にあって、ぼんやりしていたら迷子になりそうで怖い。
俺はジルの細い手をぎゅっと握った。
街中でもジルは目立つ。
馬を牽いていたり、王宮魔術師団のローブを着ているせいだけじゃない。
見た目といい、雰囲気といい、とにかく人目を引くのだ。
実力もあって格好良いなんて、ジルはきっとたくさん努力したんだろうな。
立派になって、俺は誇らしいよ……なんて、ジルの横顔に見惚れていたら、思い切り人にぶつかった。
「おい、お前どこ見て歩いてんだぁ?」
うわぁ、定番の強面お兄さんの登場。
怖くてビビっていたら、ジルに肩を抱き寄せられた。
「俺の連れに何の用ですか?」
笑顔で強面のお兄さんを威圧するジル。
あっ、ちょっと魔力が漏れてるかも!
「ジ、ジル。魔力が漏れてるみたい」
「あ?ああ、済まない」
我に返ったジルは、スイっと魔力を引っ込めたけれど、その時には既に強面のお兄さん達はいなかった。
「都会には本当にああ言う人がいるんだね。びっくりしちゃった、助けてくれてありがとう」
「いや、いい……それより気を付けてくれよ」
「はぁい」
なぜか少し赤いジルの顔を見ながら、頼もしいなぁなんて思っていたら、手をぐっと引かれて、指を交互にしてがっちり繋がれた。
これは……憧れの恋人繋ぎってやつですね、俺なんかとしちゃっていいのかなぁ?
ちょっと恥ずかしかったけれど、ジルが嬉しそうだから良いか。
そんな感じで、手を繋いだまま連れて行かれたジルの家は大きかった。
「お城?」
「そんな訳ない、俺の家だ。城にはいつか連れていってやる」
いやいや、尖塔とかはないけれど、村で一番大きかったジルの家よりずっと大きいし、綺麗だし、玄関先にズラッと人が並んでるし。
ジルの実家はお金持ちって言うのは知ってたけれど、これ程とは。
「「「お帰りなさいませ」」」
「ひっ!」
急に皆が一斉に頭を下げたので、俺はびっくりしてジルの後ろに隠れてしまった。
「貴方がジルヴァーノ様の恩人のフィオ様でいらっしゃいますね。私はこの家の家宰でエドモンドと申します、よくぞおいで下さいました」
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「いえいえ、恩人だなんて! 俺の方こそ仲良くしてもらって有難いです」
「まぁまぁ、そんなにご謙遜なさらずに。お部屋へ案内いたします。ジルヴァーノ様、フィオ様、お荷物をこちらへ」
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「大丈夫です! 重いんで俺が持ちます」
そう言うと、ご老人は嬉しそうに笑って家の中へ招き入れてくれた。
お家の中も立派でなんだか恐縮しっぱなし。
案内された部屋も広くて落ち着かない!
「あ……」
入って来た方のドアが開いて、そこからジルが入って来た。
「ここのドア、俺の部屋と繋がってるから」
「良かった!心強い!」
それから俺は徐々にジルの家にも慣れていった。
数日経って気が付いたのだけれど、ジルは若いのに宮廷魔術師団で下っ端と言う訳ではなく、それなりに重要な仕事をしているらしいと言う事だ。
いつも忙しそうで疲れて帰って来るのだけれど、俺に会うと「癒される、幸せ」って言ってくれるのだ。
その時のジルは本当に幸せそうで、子供に戻ったみたいに可愛くて、俺はだんだん離れ難くなってしまった。
離れに住むジルのお母さんにも会って、ジルを頼まれたのもあるけれど、数日後には俺はジルの家で働く事に決めた。
実は働きたいって話をした時、エドモンドさんにジルのお世話係にならないかって誘われたんだ。
でも、俺は貴族のマナーとか知らないし、何より不慣れな俺に身の回りのお世話をされてもジルに迷惑が掛かるんじゃないかと思った。
ジルは前に「僕はフィオにお世話されるよりお世話したい」って言ってたし……あれ? もしかして俺って頼りない?
けれど、エドモンドさんは色々考えてくれていたみたいで「実家で畑をやっていたから大丈夫でしょう」って、庭師の人の補佐に付けてくれた。
実際、力仕事は得意だから助かる。
庭で働く事の良いところは、ジルが帰ってきたら一番に気がつける事。
庭師の倉庫は馬小屋の近くにあるから、夕方その辺りで仕事をしているとジルが馬を牽いて帰って来るのが見える。
走って側に行くと、いつもジルは嬉しそうに「ただいま」って言ってくれるから、俺も「おかえり」って言うんだ。
そうして一緒に御邸へ戻って、ジルの部屋の隣のへ……。
ん?使用人がご主人様の隣の部屋っておかしくない?って気付いたけれど、ジルが寂しいから近くに居て欲しいって悲しそうにしたからそのまま。
本当は一緒に食事も取ってって頼まれたんだけれど、もうお客さんじゃないからそれだけは断らさせてもらって、俺は使用人の皆と一緒に食事している。
だって俺、マナーとか全然知らないし。ってポロリと零したら、エドモンドさんが俺にマナーだけじゃなく、色々な事を教えてくれた。
教えてくれた事はこの家で働いてる人には必要な知識らしくて、俺もいつかはやらなくちゃいけない事だったみたい。
それにしても、お貴族様の家で働くのは大変だね。
勉強やダンスまで出来ないといけないんだね。
そうして朝早く起きて庭師の手伝いをして、昼間はお勉強、夕方にまたお手伝い……と言った日々が続いて、俺は一年に一度、ジルと一緒にお墓参りへ帰る以外に村へ戻らなくなってしまった。
独りぼっちでなんとなく疎外感を感じてた村での生活より、お屋敷での生活は楽しいし、ジルといれば全然寂しくない。
毎日どちらかの部屋で寝るまでおしゃべりして、時にはそのまま一緒に眠っちゃったりして。
ジルも俺の話に良く笑ってくれるし、子供の頃に戻ったみたいだ。
俺はジルの側に居たい。
一緒にいると幸せ過ぎて、いつの間にか離れるのが怖くなってしまった。
こんな気持ち、お父さんもお母さんもきっと解ってくれるよね……。
そんな風に暮らしていたある日、嬉しい知らせが舞い込んだ。
ジルが王宮魔術師団歴代最年少で副団長に任命されたんだって。
「ジルが副団長に?」
「ああ、なりたい奴が他にいなかっただけだ」
「でも凄いよ!頑張ったんだね」
ジルの誕生日をお祝いしようと思ったのに、俺がプレゼントをもらった気分。
お屋敷の皆も喜んで、その日のパーティは誕生日+昇進祝いになった。
そしてその日の夜、俺はいつものように身支度を終えて、お休み前のおしゃべりをする為にジルの部屋へ行った。
もちろん、プレゼントを持って。
プレゼントは毎年、庭の良い匂いのお花をコツコツ集めて作ったポプリを入れたサシェ。
ジルのお家はお金持ちだから、何でも持ってると思って、手作りの者が良いかなって。
メイド長に習って袋を作って、難しいお守りの刺繍もしたら「お嫁様として合格です」って言われたんだけど、もしかしてメイド長ボケてる……?
ここで働いてる人は皆、結構なお年寄りばっかりだもん。
俺がしっかりしないとね!
そんな事を考えていたら、ジルがお風呂から上がって来た。
バスローブから覗く胸にドキッとする。
ジルは魔術師なのに身体も鍛えているのか、細くてもしっかり筋肉がついている。
それも俺みたいな自然に付いた筋肉と言う訳じゃなくて、すごく綺麗だ。
肌なんかもすごく滑らかでムダ毛もなくて、でも女の人とは違う色気があって……。
「フィオ?」
「あ、あのね、お誕生日おめでとう。これプレゼント。いつも同じでごめんね。でもね、今年はリボンの色を俺の目と同じ若草色にしたんだ……けど……」
思わずぼんやりしちゃったら、ジルがもの凄く近くにいた。
ジルの長い黒髪が頬にサラリと触れてびっくりする。
「フィオの色か、とっても嬉しいな。毎年これをもらうのが楽しみなんだ」
「そっか。飽きられてなくて良かった」
「飽きるなんて一生ない!」
その時、顔を上げたジルの、綺麗な蒼い目が深さを増した気がした。
目の奥の金色の星々が煌めいて綺麗。
「ねぇ、昇進祝いにもう1つ欲しいものがあるんだけれど」
ジルはサシェを受け取るといそいそとサイドテーブルにしまい込みながら、俺の方へ笑顔を向けた。
それがまた王子様みたいな素敵な笑顔で……俺、思わず見とれちゃったよ。
「欲しいんだ、フィオ」
「あ、あげられるものなら良いよ」
「じゃあ、いいね? 」
突然、ジルが下からそっと唇を重ねて来た。
うわぁ、何だろう。
触れただけなのに、ピリリと気持ちの良い刺激が身体の中を走った。
「フィオ、はぁ、好き好き。何時になったら俺の気持ちに気付いてくれるのかな……もう待てないんだけど」
「え?どういう事?」
「僕、いっぱい頑張ったんだ。それなりの地位に着けたら好きな人と一緒になって構わないって、父と約束したから」
「好きな人?誰?」
「フィオしかいないでしょ。大好きだよ、小さい頃からずっと」
俺の頭に?が一杯浮かぶ。
――だって、ジルは好きな子がいるんじゃないの?
綺麗な若草色の目で、素朴で、おっとりして……ん?
「若草色の目! 俺? 」
「やっと気付いたな。何度も言ってるのに
フィオ、ぼんやりしないで僕を見て……お願いだから、その瞳に僕を映して。
そして僕と結婚して欲しい」
うわー、うわー、プロポーズされちゃった!
思い返せば俺、何度もジルから好きって言われてるのに何で気付かないんだよ!
後から気付いたんだけれど、お屋敷の皆が最初からそのつもりで接してくれていたのには驚いたし、恋愛とかは良く分からないけれど、ジルが望んでくれるなら俺は構わない。
今の俺の一番はジルなんだから。
それを言ったら、ジルは俺を思いきり抱き締めてくれた。
ああ、ジルは昔から可愛いな……こういう風に思うのも好きだからなのかも。
その答えに辿り着いた時、とても納得した気持ちになって、今度は俺からキスを返した。
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