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楓視点 2
しおりを挟む楓の引っ越し前の話です。
*******
母親が亡くなって、すっかり気落ちしてしまった楓は、余り学校へ行けなくなってしまった。
いつまでもこのままではいけないと言う事は分かっているのに、何もする気が起きない。
そんなある日、彬が「家で『訪問者』を預かっても構わないか」と聞いてきた。
楓を一人に出来ないと出張を控えるのなら、家でできる事をして欲しいと言う事らしい。
期間は約1年。
『訪問者』を受け入れてくれるアパートで、彼が滞在する間だけ一緒に暮らして面倒を見る事が条件だ。
しかし、相性が悪かったらそれも難しいので、楓も一度顔合わせをして欲しいと言われた。
彬は公務員で、仕事は宇宙から来る『訪問者』――要は地球外生命体の事だ。に関する仕事をしているのは、以前から楓も知っていた。
『訪問者』の存在は、現時点では公にはされていないので、家族であっても彼らに会わせてもらえるなんて稀だ。
楓も関係者の息子だと言うのに、知っているのはテレビのホラーな特集番組で得た怪しげな知識ばかり。
そんな感じなので、実は彬の仕事内容も本当なのか疑っていたし、他人に言っても信じてもらえるとは思えないので、誰かに父の職業を聞かれても内容は絶対に言わず「公務員です」と答えていた。
だから、機会があったら一度『訪問者』とやらに会ってみたいと思っていたのだ。
それに、母の思い出でいっぱいなこのマンションから一時離れたかったのもある。
ここに居ると、もういない母の姿を探してしまい、居ないと分かれば自分の殻に籠るの繰り返しで、自分に嫌気が差し始めていた。
こんな提案を受けるまで、楓は彬の仕事場にまで迷惑を掛けている事に気付かなかったのも嫌だった。
本気で自分は変わるべきだと思う。
これはチャンスに違いない。
楓が二つ返事で了承すると、彬はとても喜んだ。
直ぐに『訪問者』との顔合わせがセッティングされ、楓は父の仕事場――東京の庁舎内にある一室へ連れて来られる。
彬と一緒に会議室のような所で待っていると、職員が外国人の研究者と、彼に似た青年を連れて現れた。
「こんにちは。私は地球外生命体を研究している、エイベル・シアーズです」
白髪混じりの茶色い髪をした優し気な瞳の初老の研究者は、楓に向かって英語でそう言って握手を求めてきた。(ちなみに言葉は全て職員が通訳してくれている)
彼が今日会う『訪問者』の後見人なのだそう。
そして隣の青年は、リヒト・シアーズと名乗った。
エイベルは、リヒトこそが『訪問者』であると説明したが、どこからどう見ても地球人なリヒトに、楓はがっかりした。
明るい茶色の髪にピンク色の目。
しかも英語も、日本語も母国語のように話している。
青い目のエイベルとは目の色が違うけれど、彼は見た目から雰囲気まで、どう見てもエイベルを若くした感じで、楓は彼らが親子に見える。
(これ、絶対に騙されてる。僕が子供だからってからかわれてるんだ……)
とたんに楓は不信感丸出しになって、大人たちを睨み付けた。
「おや、楓は疑っているね」
エイベルは直ぐに楓の変化に気付いたが、優しげな笑みを絶やさず、話し掛けてくる。
「後でのお楽しみにしたかったが、仕方ない。リヒト、こんなところですまないが、楓に見せてやってくれないか」
エイベルがそう言うと、リヒトは頷いて胸に手を当てる。
そのとたん、彼の周りの温度が上がり、目も開けていられないくらいに光ったのだ。
「な、なに……」
数秒経ってから恐る恐る目を開けると、目の前の床に大きなスライム? が鎮座していた。
半透明のピンクで大きさは2mくらいあるだろうか。
大きさに伴って重さもさそれなりにありそうで、どっしりとしている。
それが、型から出したプリンみたいにプルプル揺れる姿を見て、楓は怖くなり、慌てて彬の影に隠れた。
エイベルを見ると、スライムを愛おしそうに見詰めている。
「見たでしょう、これはリヒトだよ。君を驚かせたくなくて人の姿で来たのに、逆に不信がらせてすまなかったね。これが彼の本当の姿。人に擬態していたんだよ」
「擬態って? 」
「完璧とまではいかないが、知っている人物に似せられる。相手の言語を理解できるのもそう。これはリヒトの能力の1つで、能力を使って相手を解析し、自分に当てはめているのだよ。流石に中身までは無理だがね。今は私の息子を参考にしているんだ、びっくりするくらい良く似ているよ」
「他には何ができるの? 」
「テレパシーとか、サイコキネシスかな」
「えっ! 」
ピンクのスライムからリヒトの声がして、分かっていても楓はびっくりした。
「いいんだよ、びっくりしない人なんていないから。ほら、目や口も、手も、足もないからテレパシーとサイコキネシスが代わりなんだ。でも、本当は手足を上手く仕えるようになりたいし、完璧な人間になりたい。良かったら教えてくれる?」
目の前でプルプル震えながら、一生懸命に訴える巨大なスライム。
じっと見ていると、楓は何だか可哀想で可愛くなって来た。
「……仲間はいないの? 」
「気付いた時には独りだった。ボクは結構寂しがりだから、君が友達になってくれたらうれしいな」
そう言われて戸惑い、彬を見上げると、何かを促すように頷かれる。
その事で、楓はこの場所へ来た理由を思い出した。
「あ、あの、リヒトさん。僕、リヒトさんと一緒に暮らせるか心配で、会えるようにしてもらったんだけれど、リヒトさんは僕のことどう思う?」
楓は、さっきから自分ばかり質問している事に気まずさを覚えたが、できるだけリヒトの事を知りたいのだから仕方ない。
「どうって、まだ会ったばかりでどうにもなぁ……。でも、君も寂しがり屋って聞いた。寂しがり屋と寂しがり屋が一緒にいたら、もう寂しくないと思うよ」
「そう……かな」
「あのね、本当の事言うと、ボクは本気で友達が欲しいんだ。ボクを特別と思わない人が良い。君はどう? 」
「特別も、何も、スライムでしょ。ゲームでもスライムは友達になれるんだよ」
「スライム! 」
隣でエイベルの通訳をしていた人が、急に吹き出した。
「スライムって、俺だって思ったけど黙ってたのに」
その人は小さい声でそう言って暫く笑っていたけれど、彬に窘められてやっと落ち着いた。
笑いを堪えてエイベルに楓の言葉を伝えると、エイベルも楽しそうに笑う。
「スライムって何? スライムなら仲良くできるんだね」
リヒトが楽しそうに聞いて来た。
「……スライムって言ってごめんなさい。あの、ボク、友達になりたいな」
「本当、じゃあ友達になろう。良く分からないけど、スライムって言ったのも許すよ」
「ありがとう……」
突然、リヒトの身体の一部が握手を求めるように、にょきっと飛び出してきたので、楓は戸惑いつつもそこに触れてみた。
冷たくて、少ししっとりしている。
彼も少し緊張しているのだろうか……。
「そうか、そうか。やはり君たちに頼んで良かったよ。どうかリヒトと仲良くしておくれ」
一緒に住む事に関しては急がないので、何度かリヒトに会ってから決めるれば良いと言われた。
リヒトは見た目こそ大人に擬態しているが、中身は何でも知りたい子供みたいで、楓は会うのが待ち遠しくなった。
大きな弟が出来たような気になって、3回ほど会った頃、一緒に住んでも良いんじゃないかと思うようになる。
だから、6年生へ上がる前に、「リヒトと一緒に住んでも良いよ」と、エイベルとリヒトに直接伝えた。
******
本当は『訪問者』であっても一人暮らしできるのですが、希少な生命体であるリヒトは例外で、彼を狙う勢力から守るためにも特別扱いされているのです。
星來は気付いていないけれど、フェザーガーデンはかなり強固に守られています。
でも、この3人で2LDKは狭いですね。
因みにリヒトに部屋は無く、リビングのソファーが定位置。
猫みたい。
※この時点では博士は日本語があまり上手く話せませんが、この後話せるようになります。
説明不足で申し訳ないです。
いつも読んで下さってありがとうございます!
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