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翌朝
しおりを挟む「そうだ、リヒトさんは? 」
「家にはいないみたい 」
「帰ったのか……な? 」
星來と考紀が辺りを見回すと、昨夜リヒトの肩に掛けたタオルケットと、着ていた服がスライムの下に挟まっているのを見つけた。
「え、どうして? リヒトさんは? まさか食べられちゃったとか……」
「星來、落ち着いて。オレ、楓のお父さん呼んでくるから 」
「うん。じゃあ、俺はもう一度家の中にリヒトさんがいないか探してみる」
そう言って、考紀は外へ飛び出し、星來はお風呂場やトイレの中まで調べた。
しかしリヒトはどこにもおらず、星來はダイニングに転がるスライムを見て途方に暮れる。
大きさは2メートルくらいあるだろうか。
身体はピンク色で、体内がラメのようにキラキラしていてリヒトの瞳を思い出す。
よく見るとぼんやりと光っていて、時折プルプルと揺れた。
(やっぱり生きてる……もし本当に肉食で、リヒトさんを、た、食べちゃったとしたら、俺もここにいたら危険なのでは? )
そんな事を考えていたら、バタバタと足音がして、考紀に続いて宮島と楓が部屋に飛び込んできた。
「おはようございます! リヒトがご迷惑を掛けてすみません」
ダイニングへ来ると、開口一番、宮島は星來と考紀に誤る。
「いいえ、それよりこのスライム……リヒトさんはどうなっちゃったんでしょうか」
「星來さん、大丈夫です! こら、リヒト! 起きなさい! 」
そう言うと、彬と楓はしゃがみ込んでスライムを容赦なく揺さぶった。
「……うーん、彬に楓? おはよ……」
「しゃべった! 」
「リヒトさんの声? 」
「そうです、これがリヒトの本性です」
「「ええっ!?」」
そう言われても、星來も、考紀も理解できない。
戸惑いながらスライムを見詰めていると、次第に変形して人型に近くなってきた。
「え? 何? どうなってるの」
考紀がぎゅっと星來にしがみ付いて来たので、星來も抱き返す。
それでも二人の目は人型になっていくスライムに釘付けだ。
そうして、十数秒経った頃、ダイニングの床には人間の姿へ戻った素っ裸のリヒトが座っていた。
「リヒト、服を着て」
慣れているのか、楓が冷静に指示を出した。
もしかしたら、宮島家では楓が一番強いのかもしれない。
星來が現実逃避気味にそんな事を考えていると、床に落ちていたリヒトの服がふわりと浮かんで、ポロシャツがリヒトの伸ばした腕と頭にスルリと通り、下着とズボンも伸ばした足先から引っかかる事なく足に通った。
「え? 今のなに?」
考紀が驚嘆の声を上げたが、星來の方は驚きすぎて声も出ない。
「うーん、ボク寝ちゃった? 」
リヒトは立ち上がると、ズボンと下着を上まで引き上げて、身なりを整えた。
そして、ここが自宅ではない事に気付くと、しまったという顔で辺りを見回し、そして星來と目が合った。
「寝ちゃった? じゃないぞ。管理人さんに迷惑を掛けて。能力もやたら使うな。見ろ、考紀くんなんか怖がって……ないな? 」
「すっげー! リヒトさん、カッコイイ!!! 」
「考紀……。リヒト、とにかく、二人に謝って! 」
楓は目をキラキラさせている考紀を見て、一瞬目を見張ったが、直ぐにリヒトへ冷たい目線を送る。
自分がやらかした事に気付いたリヒトは「ごめんなさい!」と何度も謝った。
その後、リヒトは彬と楓に交代でお小言を言われていたが、それが終わると借りていたタオルケットを手にして、昨夜のビンと缶を片付けている星來におそろおそる近付いて来た。
「……星來さん、本当にごめんなさい。姿も、能力も怖かったでしょう。ボク、貴方に嫌われたくなかったのに……」
「いえ、大丈夫ですよ。嫌いになんてなりませんよ」
確かにスライムになっていた時はびっくりしたが、正体がリヒトなのだと分かればもう大丈夫。
能力も怖いと言うより興味深いし、他に出来る事があったら見てみたい……と、彼の目を覗き込めば、ピンク色の中のラメが心なしか煌めきが足りないように見えた。
「そうか。リヒトさんの目の色は、本当の身体の色だったんですね。キラキラして綺麗です」
「本当ですか!? 嬉しいな」
「服もふわーって浮いて。あれどうやってるんですか? 」
「あれは、手足が無い代わりにサイコキネシスが使えるってだけで、大したことじゃないんです」
「超能力! そんな事ができるなんて凄いです。とっても正確に操れるんですね、びっくりしました。いっぱい練習したんでしょう?」
実際は、サイコキネシスなんか息をするように使えるのだが、リヒトは星來に褒められたくて頷いた。
いくつか缶を浮かせると、星來が「すごい、すごい」と余りにも喜ぶので、リヒトは嬉しくなって、いつの間にか輝きを取り戻していた。
が、彬に見つかって「調子に乗るな」と叱られてしまう。
そして、その彬に促されて三人でダイニングへ行くと、考紀と楓が用意してくれたと言う朝食がテーブルに並んでいた。
「え、これ二人で作ったの? 凄い!」
「うわぁ。楓くん、考紀、ありがとう」
「まぁね。このくらい簡単だし」
星來とリヒトが感激していると、考紀が素っ気なく答えた。
「僕は並べただけ」
「それでもだよ、助かっちゃった」
そう言うと、二人共、照れくさそうに笑った。
目玉焼きと、冷蔵庫にあった野菜で作ったサラダ、チーズやジャムに、買い置きの食パン、オレンジジュースと牛乳。
考紀は母親から習っていたので、元から簡単な料理ができる。
時々、こうやって自ら作ってくれるし、最近は星來が作っているのを興味深そうに見ているので、料理が好きなのかもしれない。
「考紀が料理できるなんて、びっくりしちゃった。凄いな」
「だろう? もっと褒めても良いんだぜ」
楓にも褒められて、考紀は胸を張った。
そんな二人に苦笑していると、彬が「それじゃ、折角だし、覚めないうちに食べましょう」と言った。
「ですね。あ、コーヒー飲みます? インスタントですけれど」
「ああ、私がやりますよ。管理人さんは座っていて下さい。リヒトはあっち」
「はい」
ダイニングテーブルは4人掛けなので、一人座れない。
彬に指示されて、リヒトはパンに目玉焼きを乗せた皿を持つと、キッチンに置いてある小さな丸椅子へ座った。
「朝食まで頂いてしまってすみません」
「それ、考紀と楓くんに言ってくださいね」
そう言って、両隣に座る二人の頭を撫でると、考紀は嬉しそうに、楓は少し恥ずかしそうにしている。
「目玉焼き美味しい」
「オレが作ったから当然」
「考紀、調子に乗りすぎ」
「いやいや、大したもんだ」
4人でお喋りしながら食べている横で、リヒトはいつのまにかパンと目玉焼きを食べ終えて、彬に渡されたサラダを食べている。
「……本当にごめんなさい。もうビールは飲みません……」
星來と目が合うと、しょぼんとして反省の言葉を口にした。
「もう良いですって。それで、お家ではさっきの姿なんですか? 」
「ええ。あの、本当の姿も見られてしまった事だし、ボクの話を聞いて頂けますか? 良いよね、彬。ボクは知って欲しい」
「管理人さんたちなら構わないだろう」
リヒトが真剣な目をするので、星來と考紀はつられて姿勢を正す。
――それにしても、今まで他の地球外生命体の話は聞いていたが、まさかリヒトがスライムだとは。
本当は一番仲良くしている彼の事をもっと知りたかったのだが、聞いて良いのか分からずここまで来てしまったけれど、やっと話が聞ける。
と、その時の星來は思っていた。
******
「リヒトさんみたいな大きいスライムがいっぱいいる星なら行ってみたいな」
「行ってどうすんの?」
「片っ端からこねる」
「こねる?」
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