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久しぶりのお酒
しおりを挟むそれから更に数日後に宮島が『フェザーガーデン』へ戻って来るのだが、その前に考紀が習っているサッカーの試合があった。
今年は選手たちがとても頑張っていて、結構良いところまで行く事ができたのだ。
楓とリヒトも応援に来てくれて、応援もとても盛り上がった。
考紀はこちらへ引っ越ししてきて直ぐにサッカーを始めた。
未経験だったので最初こそ他の子から遅れがちだったが、一生懸命練習して、6年になってやっとレギュラーに入れた。
それが切欠で、考紀は自分に自信が付いたのだ、星來は習わせて良かったと思った。
今回は負けて悔し泣きしていたけれど、星來はここまで頑張った彼がとても誇らしかった。
*******
宮島が前触れもなく戻ってきた日、リヒトと楓はいつものように星來の部屋へ来ていた。
最近は二人共、考紀のサッカーの練習日以外は大体夕食を食べにやって来ていて、星來も考紀も何だかそれが当たり前のようになっていた。
「楓とリヒトがお世話になってすみませんでした」
宮島は星來の家へやって来ると、そう言って頭を下げた。
出張へ出て数日後、楓にどうしているかと連絡したら「いつも管理人さんのところで夕ご飯を食べさせてもらっている」と言っていたのでびっくりしたらしい。
今も部屋へ戻ったら誰も居らず、心配して楓へ連絡したら、案の定、二人して星來の所で夕食を取っていたと言うわけである。
「そんな、こちらこそ仲良くしてもらって嬉しいです」
「それとこれとは違いますから」
そう言って渡されたお土産を見ると、お菓子と日本酒、赤と白のワインが入っていた。
「あ、この日本酒は有名なやつですよね。ありがとうございます」
「ええ。途中で手に入れたワインも美味しいそうですよ」
そう言って、強面に笑顔を浮かべる宮島は、なかなか愛嬌がある。
星來も昔お酒を出していた店で働いていたので、それなりにお酒は飲める方だ。
しかし、自分で買って飲む事はしないので、もらって嬉しい。
「そうだ、お夕飯まだですよね。残り物で申し訳ないのですけれど、良かったら食べていきませんか? 一緒にこのお酒も開けましょう」
「良いんですか。 じゃあ、ビールも持ってきます。明日が休日で良かった」
「ふふっ、用意して待っていますね」
暫くして、ラフな服装に着替えて戻って来た宮島を食事を並べたダイニングテーブルへ座るように誘う。
大柄な宮島とリヒトがいるだけで、狭いダイニングは一杯なので、子供たちは考紀の部屋へ移動してもらった。
「「乾杯」」
先ずは、宮島が持って来た缶ビールを開ける。
星來と宮島が美味しそうに飲んでいるのをリヒトが不思議そうに見ていた。
「彬はいつもそれ飲んでるけど美味しいの?」
「ああ。仕事終わりの一杯は最高だな」
「ふーん。少しちょうだい」
「大丈夫なんですか? 」
リヒトがビールに興味を示したので、星來は少し心配になった。
だって、忘れてしまいそうになるが、リヒトは本当は『訪問者』なのだから。
「じゃぁ、いきなりたくさん飲まないで、コップに分けましょう」
星來がグラスを持って来て、新しい缶から少しビールを注ぐと、リヒトは勢いよくそれを飲み干した。
「大丈夫か? 」
「はい……何か、身体の中で弾けてる」
「炭酸だな」
「炭酸ジュースは大丈夫だったのに」
そう言いつつ、星來のお酌でリヒトは二杯、三杯とビールを飲んだ。
宮島の説明だと、リヒトは何でも消化できる身体で、それこそ岩でも金属でも大丈夫らしい。
毒や細菌、寄生虫と言ったものも体内で消化、分解できる体質なので何を食べたり飲んだりしても体調不良にはならないそうで、飲食物に気を遣う必要はないそうだ。
しかし、今の状態はどうなのだろうか。
顔が赤いと言う事は無いが、ビールを飲んだリヒトは楽しそうにケラケラと笑っている。
そして、やっぱり声は口からではなく別のところから出ていた。
たまに声と口がずれているのは見間違いではなかったのだなぁと、星來は今更ながらに思った。
「リヒトさん、お水飲みましょ」
「あはっ、からだのなかで炭酸がおどってます」
「放っておいても大丈夫ですよ。次は赤ワインを開けましょうか」
「え、ええ……」
星來がペアのワイングラスを出すと、彬が栓を抜いて注いでくれた。
今まで赤ワインは少し苦手だった星來だが、これは渋みが少なくて軽いので美味しいと思った。
彬も酒は強い方らしく、楽し気に話をしている。
そこで、この間の鹿と一緒にいた人たちの話もしてくれた。
この間少し話を聞いたが、彼らは政変で母星から追放された身で、やはり地球に住むという選択肢しかないそうだ。
あの時は、U&Eの職員と外出の練習中に、自分たちと同じような角を持った鹿を見つけ、興奮して逃亡。
そのせいで彼らは政府からもう一度、地球での過ごし方について勉強し直さなければいけないと判断され、U&Eの施設へ戻ったのだと言う。
彬が担当なので、いずれ『フェザーガーデン』へ住まわせたいと言う事だった。
それから金田から聞いた事で、気になった部分を質問した。
地球を支配しようとした『訪問者』は何万年も前の話で、今は共存が主流だと聞かされて、星來は安心した。
最初は仕事の話ばかりだったが、途中からこの間の保護者会と、サッカーの試合へ行った話になった。
彬は「自分が行きたかった」と悔しそうにしていて、星來は思わず笑ってしまった。
彼は自分が身体を動かすのが好きなだけでなく、スポーツ観戦も好きなのだそう。
二人でお酌し合って、子供たちの話をしながらワインを二本とも開けたところで、楓が眠そうにしているのに気付いて宮島は部屋へ戻ると言った。
「おーい、リヒトも帰るぞ」
「ん……まだここにいる……」
「寝てるのか? 」
リヒトはワインを開けた辺りからテーブルへ突っ伏していて、宮島が揺すっても起き上がらず、どうやら眠っているようだった。
「置いて行っても構わないですよ。いくら宮島さんでも、流石にこんなに背の高い男性を背負って階段を下りられないでしょう」
宮島はもの凄くがっしりしているので、痩せ気味の星來くらいだったら持ち上げられそうだが、大柄なリヒトは流石に無理だろう。
お酒も入って、足元も少しフラ付いている様にも見えるし、階段で足を踏み外したりしたら大変だ。
「そうですね。すみませんが、目が覚めたら帰るように言って下さい」
「分かりました」
星來は宮島親子が帰ると、リヒトにタオルケットを掛けてやって、少し片付けてからシャワーを浴びて部屋へ戻った。
本当は、リヒトをリビング側に移動させて、ソファーに寝かせてあげたかったのだが、考紀と力を合わせてもビクともしなかったので諦めたのだ。
リヒトが起きたら自分で移動してもらうしかないか――そう思っていた星來だったが、お酒が入っていたせいか、気付いたら自室で眠ってしまっていた。
*******
「うわあぁ!!!」
早朝、星來は考紀の悲鳴で目が覚めた。
飛び起きると、同時に考紀が部屋へ飛び込んで来る。
「どうしたの?」
「星來! 星來、起きて! 大変だよ! 台所に何か変なのがいる! 」
「え~? 虫だったら……殺虫剤あったかなぁ」
「違うよ、早く来て! 」
考紀に引っ張られて台所へ行くと、そこには見た事もない、自分より大きなピンク色のスライムが落ちていた。
よく見ると、何だか動いているように見える。
「え? スライム? 何で……考紀が作ったの?」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃあ、何? これ何?」
怖くなった星來と考紀は、お互いを抱きしめ合った。
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