チチタルモノ

如月 睦月

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チチタルモノ

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2020年5月4日 午後8時00分頃 父親が他界。

連絡を貰い、なんだか涙も出ずにボーッと昔の事を思い出しています。

明日まで身動きが出来ないので、落ち着いている今の心境を書き残しておこうと思う。

当然だがネタとして書くとか、そういう意味合いではなく、何と言うか、落ち着いていると先に言ったけれど、書いていないと落ち着かないと言うのが正直な気持ちかもしれない。

しれないと言うのは自分でもわからないのだ、正月にあった時は末期とは言えとても元気だった。病は気からと言うが、ひ孫(うちではない)の成長をもう少し見たいから、まだまだ逝けないと言っていたわけで、私としては目標のできた人間は病に打ち勝つ力を得るなんて漫画のような事を思い、いや・・・自分の期待を漫画のように良いように変換していたのだ、そんな簡単にステージ4の癌に打ち勝つなんて事はないだろう。と言いつつどこかで期待していた自分をなんと言うか・・・照れ隠しと言うか・・・わからん、なんと言って良いかわからん。

書いていないと落ち着かないと思っていたが、いざ打ち出すと支離滅裂なのが自分でわかる、取り乱しているのがわかる、そりゃそうだ、父が死んだのだから、あの厳格で強靭な父が。

食事は絶対正座させられた。

ビンタされて数メートル吹っ飛ばされた事もある。プロレスラーであるダイナマイト・キッドのような筋肉で凄まじい肉体だった。小学校中学校の頃は大嫌いで喧嘩ばかりして、ろくに会話もしなかった。いつかぶっ倒す!と言うのが目標だった。

兄弟が皆家を出て、私だけになった時母親に『父と仲良くしてやって欲しい』と懇願され、私も意地になっていた部分があったと反省し、そこからはとてもいい関係になれた。

それでも父親と闘ってぶっ倒す機会を虎視眈々と狙っていたわけで・・・筋トレ、シャドウは欠かさずにしていたある日、父の背中が小さくなったと気付いたのでした、それからは自分の中で勝つことのできない存在だと決め、ぶっ倒すと言う目標を諦めた。

意地になっていっぱしの口きいて、大人になったつもりでいたあの頃の自分、思い返せばとんでもなく恥ずかしい愚かなクソガキだったと思う。素直になって毎日組手でもしていれば倒す機会もあったかもしれないし、自分と言う人間が違った成長をしたのかもしれない。

後悔ばっかり残っているよ、申し訳ない。

今になって、居なくなってからああすればよかった、こうしたらよかったって、洪水のようにあふれ出してくる。あなたは本当に偉大な男でした、あなたの生き様はどうやったって超えられません。強く、寡黙でありながら、その背中で道を示してくれていたと思っています、あなたの子供として私は誇れる生き方をしてるとはまだまだ思えませんが、あなたは私にとって間違いなく誇りです。

私が生きている限りあなたの命の灯は消えることはない。

でも、ひとまずここで礼を言わせてもらいます、

我が師、父よ、
ありがとうございました。

2020年5月4日



2020年5月5日

朝9時過ぎだったと思う、連絡があり、葬儀場に父が安置されたと言う。

急いで準備をして向かう事に。

安置されている父の顔を見るが、実感がわかず涙は出なかった。

そうか・・・そうなんだな・・・そんな思いだった。

その夜は朝まで父と過ごすことに。

信徒である父の信じたものは『神』なので、数時間持つ蝋燭の炎を絶やさぬよう灯の番を兼ねてでもあった。知らず知らずのうちに私は父の側に座っていた。家族にも『ずっと側にいるじゃん』と言われるほど。時間を持て余すと言えば父に悪いけれど、一晩中起きていると言うのは時間の使い方がとても難しいものだ。私は前もってわかっていたので『アヤカシバナシ』の原稿を持ち込んだ。それは生前父が『好きなことは続けろ』と言っていたので、続けている事実を父に見せたかったのもあった。普段なかなか『こう言うのを描いている』などと親には言うけれど、作品を見せる機会もなかったからね。

蝋燭が深夜短くなったので交換することにした。

2本交換すると右の炎だけ激しく揺れた・・・

よく見ると蝋燭が曲がっていたのです。

その曲がりを正すと今度は左の炎が揺れました。

ええ、左も曲がっていたのです。

そういう事には凄く厳しかった父が、ちゃんとしろ!と教えたのだと思います。

2020年5月5日 15時頃

納棺することになった。

納棺師様が父の身体を拭くために横にしたりする・・・無抵抗に身体をゴロゴロされる父を観た時『生きていない』と実感した。その途端に涙があふれ出しました。納棺され、花を添え、触れることを許されました。

まだまだ赤ん坊の私は生みの親に捨てられました。

一方5人の子持ちの母と一緒になった父、それだけでもすごい覚悟だと言うのに、父は捨てられた私をも引き取ると言ってくれたそうです。あまり詳しくは知らないのですが、その後生みの親が出て来て、裁判となったそうです。父は退職金を前借してお金を作り、全力で私の為に戦い、我が子にした・・・と少しづつ兄弟から聞かされています。

動かない父の冷たい手に触れた時、こんなに涙が出るものか?と言う程涙がでた。前が見えなくて歩けない程の涙でした。声を振り絞っても振り絞っても出なくて、伝えたいことがあるのに声が出なくて、待ってる皆さんには悪いと思ったけれど体感では15秒くらい下を向き、呼吸が落ち着くのをまった。声が出ると感じたので思い切り涙声だったけど『ありがとうございました』と叫びました。

同日 18時頃 お通夜が行われた。

近年爆発的に感染拡大している感染率の高い病気のせいで、参列には大きく自粛していただく事となった。それでも入口に設置された遺影の前で手を合わせて涙してくれる人が本当に多数いらっしゃいました、ありがとうございます。

この日もほとんど寝ることなく過ごすことになる。

慣れない葬儀会場では眠れないと言うのもあるけれど、今の私に寝ると言う感情が欠損しているかのように眠くはならなかった。深夜、父が祀られている祭壇に一人で行き、広い会場で2人きりになった。よくドラマで遺体に話しかけたりしてるけれど、正直『それはない』と思っていた。でも自然に話しかけている私がそこには居ました。独り言だけれど、勝手に話しているだけだけど、私は『話している』気持ちだった。涙は出なかった・・・なんだか気持ちが静かだったのです。

2020年5月7日 午前8時過ぎ、出棺

儀式を終えると大きな扉が開き、父の棺桶を乗せた台車が動かされた。

通路に出ると、その正面にある鉄のドアが開き、ゴォオオオオンと言う音を立てていた。半分くらい入れられた時、育ててくれたお礼を、私を救ってくれたお礼を、照れくさくて言う機会が無いままだったお礼を、声にならない声で叫んだ。出た言葉はやはり『ありがとうございました』だった。

納棺の時とは比べ物にあない涙が溢れ、豪雨のように噴き出した、鼻水も垂れ流しだったと思う、でもそんな場合じゃなかった、父の棺桶が入り、扉が閉まってしまう、立っていられない程辛かった、両ひざに手を置き、必死で身体を支えながら、出ない声で3回『ありがとうございました』と思いっきり叫んだ。兄弟が『もう行こう』と言って私の肩に手を置いた。私は兄弟に『お礼を、育ててくれたお礼を言った記憶が残っていないんだよ、届いたかなぁ?届いただろうか?言ってなかったとして、今頃言ってさぁ、怒ってないだろうか?本当に感謝してるんだよ、やっと今素直になって言えたんだけど、遅かったよなぁ、遅いよなぁ・・・』そう話したと思う。兄弟は言ってくれた『親父はお前が大好きだったんだよ、大丈夫、聞こえてるよ、届いてるよ』と・・・。

控室で母親にその胸の内を話した。

母親は『あんたはちゃんと言ってたと思うよ、言ってないとしても、今言えたんだからそれでいいんじゃないのかい?』

何で私の中に父に感謝の気持ちを伝えた記憶がないのかわからない、冷静になってみると、確かに言った気がしてきた。父が『そんな事お前が気にする事じゃない』って言った気がしてる。私が記憶を勝手につくり始めているのかもしれない、都合よく書き換えているのかもしれない・・・でも、遅かったかもしれないけれど、ずっとずっと心に引っかかっていた事が、最後の最後で言えた事は私にとって大きい。いや、言わされたのかもしれないなぁ…父に(笑)

同日 13時ころ、告別式

寂しかったけれど、涙は出なかった。

哀しいんじゃない、なんだろう、骨になった父、骨壺に収まった父、順序だてて時間が経過しているので、心も順序だてて落ち着いている気がする。

母の家に帰り、父が帰ってきた。

簡易的だけれど、祭壇に収まった父のお骨と遺影を見ると不思議と微笑むことが出来た。

終ったんだな・・・もう会えないんだな・・・

そう思うと寂しくてまた泣きそうになる。

失ってみると後悔ばかりが残っててとても辛い。

ああしたらよかった、こうしたらよかった、

ああ言えばよかった、こう言えばよかったばかり。

後悔の念に押しつぶされそうです。

私にとっての父は本当に存在が大きかった。

大きくて大きくて、偉大だった。

だからこそ喪失感も凄まじい。

私は父を、父の想いを背負って行けるだろうか、いや、きっと託したと思うから・・・・。全部は重すぎて無理だけど、父の『一生懸命』は引き継ごうと思う。私の座右の銘の1つは『前向きに』なので・・・『一生懸命前向きに』にしようと思う。。。。

そんな思いを巡らせて顔を上げ、遺影を見つめながら私は父にこう言った。

『おかえり』
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