Hope Man

如月 睦月

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中学校編

クラス会開催

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あれから何度か打ち合わせを行った幹事チーム。

やっとその日を迎えた。



クラス会当日



幹事である龍一・山下・笠井・馬場の四人は1時間早く、会場である「つぼ九」に到着していた。会社の忘年会とは違うので、別段こんなに早く来る必要などないのだが。



『お店と打合せ終わったし、煙草吸っていいかな』



馬場が答えた『うん、吸いなよ』



押さえている会場に一人足を踏み入れると、畳の上にゆっくりと腰を下ろした。アルミ製の安い灰皿を引き寄せると、お気に入りのシルバーのジッポでマルボロに火をつけた。『ふぅうううううううううううううううう』気持ち良く、鋭い槍のように煙が宙を走り抜けた。龍一にとってこのクラス会は、本当の意味で来たくは無かったからだ、吐き出す煙にも心情が現れるから不思議だ。来たいわけがない、あんな目に会って、助けてもくれず、都合の良いときだけ側に来て…そんなやつらにまた会いたいと思うはずがない、でも、幹事をやると言ったからにはやり遂げるのが筋ってもんだ。



『龍一君、お刺身の船盛りは各テーブル1個でいいよね』



『それで回せると思う』



『龍一君、お酒はどうする?』



『ダメでしょ』



『どうしても飲みたい人は?』



『勝手に自腹で良いんじゃない?』



『うん、わかった』



『桜坂龍一、コース以外のモノを食べたいときは?』



『いや、あのさ、考えたらわかる事じゃない?』



『桜坂龍一、私にだけ厳しくない?』



『わかったわかった、ごめんごめん、でも一回考えてから聞いてよ』



別に山下だけに厳しく当たったわけではない、いちいち聞かなきゃ答えだせないのか?というレベルの質問を連発されたので少々しんどくなっただけだ。『そういやぁ家でもこんな感じだったからなぁ、悪いことしたなぁ』と思いつつもう一本マルボロに火をつけた…時計を見ると開始時間10分前となっており、お通しが運ばれ始め、いよいよ始まる感じが出て来た。『船盛り用意させていただいてよろしいですかね?』『あ、はい、お願いします。』



うちの親父だったら刺身が乾くだろ!と怒りそうだけどな…と思うと少し笑えた。



船盛りが運ばれ終わった頃に、クラスメイトがぼちぼちと現れ始める。『よぉ!ひさしぶり!元気だった?』と口々に数年ぶりの再会かのように手を取り合って懐かしんだ。「ばっかじゃねーの?」龍一は心の中で思ったが顔にはしっかり出ていた。数日前に卒業式やったばかりだと言うのに久しぶりとは何事か。くだらなすぎて呆れる龍一の隣に座り、山下がひとこと漏らす。



『数日前に卒業式やったばっかじゃん』



『ははは』『え?なに?桜坂龍一』



『同じ事を5秒前に思ってたからさ』



『ねー、そう思うよねー』



再会を素直に喜ぶ者、一歩引いて客観的に見て笑う者、どちらも別に悪くはない、口に出したところで『そーだよねー』で済む話だろう、だがこの場合、口に出さないからこそのお互いの楽しさがあった。そこへあの小うるさいお調子者「大川」が登場する、ここで現場は大きく荒れてゆく。はしゃぎ出したら止まらない、絵に描いたようなガキキャラである大川は、つい数日前と同じように自分には文句の言わない、いわゆる弱い者に絡んで行く。



『バイアン酒持ってこい!』『え?酒ダメなの?なんだよ俺幹事やればよかったわー全員に酒振舞ったわ!』『直樹この野郎!卒業してもう色気ついてんじゃねーよ』



龍一はこんな人種が大嫌いだった。調子に乗る奴って絶対いる、どこにでもいる、でもその行為が妙に癇に障る奴っているものだ、大川は龍一にとってまさにその種だった。『うぜぇ…』『大川でしょ、私も嫌い』『何が嫌いだって?』

まさかの大川のウザベクトルが龍一達に向いた。

『いやぁ別に…』煙草の煙を吐き出す龍一。

『そっか』龍一の煙草を吸う姿を見て、慌てて自分も煙草を出して火をつけると、吸っては吐き、吸っては吐きを凄いスピードで繰り返し、まるで過呼吸のように1本吸い尽くした、その目はずっと龍一を見つめながら。



『桜坂、煙草何吸ってんの?』



『マルボロだけど』『マルボロ?軽いの吸ってんな、俺ケントマイルドだぜ』



『ケントマイルドって、軽くない?マイルドって言っちゃってるし』



『つかさ、吸うの遅くね?』



『大川はフカしてるから早いんだよ』



『はぁ?俺フカしてねぇし!』『わかったわかった』



今日の日の為に必死で煙草を覚えてきたのだろう、なんと涙ぐましいことだろうか、モテたい思いもそこまで来ると立派である。やっと龍一から離れた大川にホッとすると、トイレに行った山下に代わるように馬場が隣に座った。



『お刺身美味しいね』『あぁ、うん』

『わさび好き?』『好きだよ』

『ツンとくるよね』『それがいいじゃん、頭スッキリしない?』

『えーしないからー』『するってー』



馬場は口数の少ない龍一から言葉を引き出すのがごくごく自然で上手だった。龍一もウザいとは感じず、ごくごく自然に会話をさせられてる感じに悪い気はしなかった、むしろ楽だとさえ感じていた。



『そういえば馬場って桜坂と付き合ってんの?』



また大川に絡まれた。



『いや、友達だけど、それがなにか?』

強めの口調で馬場が答える。こんなキャラではなかったはずだが、龍一の事となると知らず知らずのうちに強めに出てしまうようだった。



『こえー、学校も違うのにどうすんの?別れんの?』



『付き合ってないし』『好きなんだろ?』『だから?あんたに関係なくない?』



猛烈な馬場の猛攻に龍一は助け舟を出す事も出来ずに見守った。

馬場の口から発せられているとは思えない言葉が続く。

龍一は女性の煙草とクチが悪いのは苦手だった。



『お前ずっとうるせーから!だからガキは嫌いなの!』



『じゃぁ桜坂は大人なのか?』『大川よりずっと大人だから!』

『それじゃチン毛もボーボーなんだ!』

『はぁ~…ガキ』



『ガキガキうるせぇなこの野郎』



馬場の胸倉を掴もうとした小川の手首を掴んだのは龍一だった。

『女性に手を上げるなよ』



『なんだよやんのか?桜坂』



『やんねーよ、馬場に手を出すなら別だけど』



『おめぇもずっと気にくわなかったけどな』



『そうかよ』



ビターン!!!!



大川の首が捻じれて転がった、何が起きたんだと横を見ると、スリッパを持った笠井が居た。『笠井…』

『私、ずっと大川が気にくわなかったから、それに…馬場さんはやっと出来た友達だから』



『笠井さん、ありがとう』



起き上がる大川に後ろから羽交い締めにしてスリーパーホールドをかけたのは山下だった。『ぐぎぎぎぎぎ…くるしぃ』『あんたいい加減にしなさいよ、私たちが何日かけて準備したと思ってんの?少しは大人になりなさいよ、いつまでもガキみたいなことしてないでさ。みんなに謝ってよ』『わかったわかった謝るよ』



技をほどいてもらった大川はゲホゲホと2回咳をすると正座して『みんなごめん』と言いながら頭を下げた。



パン!と手を叩いた龍一は『さ!まだ時間あるからゼロからスタート!楽しくやろうよ』と声を張ると、皆が拍手した。大川は龍一を見ながらゴメンと言わんばかりに頭をコクリと下げた。



ワイワイと楽しくやっていると大川が龍一を煙草に誘った。

誘ったと言っても吸わない人への配慮として部屋の隅っこに移動ずるだけだが。

壁にもたれかかって2人で煙を吐き出すと、おもむろに大川が話し出した。



『俺さ、実はさ、その…』



『好きなんだろ?馬場の事』



『あ、ち!ちが!』『わかりやすいよ』『そっか』



『桜坂はどう思ってんの?てか付き合ってんの?』



『まったく何もないよ、本当に。好きだと言ってくれてるけど、俺自身が恋愛ってものがよくわからなくてさ、勇気がないのか何なのか、だらしないよね』



『そんなことねぇと思う、うん、でも、だったら俺にもチャンスあるって事だよな』



『馬場が決める事だけどな』



『良かったよ、桜坂とこうして話せて。なんか誤解してた気がする。』



『よく言われるよ、俺に問題があるんだと思うけど』



『俺はまだガキだからわかんねーよ、じゃな』



龍一の肩をポンと叩くと立ち去った大川はその足で馬場の隣に座ったが、思いっきりそっぽ向かれていた、それを見て口元で笑う龍一。



小一時間が経過し、クラス会終了の時間となった。

二次会に行きたいものは行くようだったが、言ってもまだ中学生、流石に補導される危険性もあるわけで、なんなら「つぼ九」もよく予約させてくれたものだと思う。この時代はそう言う面はかなり緩かったのも事実だが。



龍一はまだバスの時間があったので、バスで帰る事にした。

別れを惜しんでいるクラスメイトの群れから違和感なくそっと抜け出した龍一は繁華街の中にあるバス停に歩を進めた。かなりヤバそうな人種も歩いているのでぶつからないように、目を合わせないように、速足で軽やかに軽快に、それでいて警戒しながら移動する。



バス停に着くと、目的のバス到着まで10分あった。
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