Hope Man

如月 睦月

文字の大きさ
上 下
83 / 87
中学校編

ネズミとネコ

しおりを挟む
知らぬ間に女子会の様な状態になっていたクラス会の打ち合わせ。その様子を見ているとやはり卒業したとはいえ数日しか経過していないのだからまだまだ中学生のノリだった。そんなノリが苦手で、龍一はただただ会話する楽しそうな女子を眺めていた。時折チェシャを撫でながら。



そんな中ふと思い出した。



それは何年生だったか記憶にないが、小学校の低学年の頃だったと思う。



大雨の中、学校を目指していた日の出来事だった。

何時も通る平屋が連なった形状の市営住宅を抜ける道を歩く。

大きな道は敵が多く、狙われるのを避ける為に選んだ道だ。

細々と右に左に縫うように歩くと、運悪くクラスの敵、いわゆるいじめっ子に出くわした。



『よう、転校生、お前なんで学校に来るんだよ』



何とも返答に困る質問をぶつけてくる。

無視して歩を進めると後ろから傘にボン!と石を投げつけられたのがその衝撃でわかった。「またか」道を変えたのに見つかるとはついてない…でもこのまま歩いていれば飽きて止めるだろうと、そのまま無視を続けた。無視をすればしたで『無視すんなよ』と言われる…いじめとは理不尽なものである。



石の数が増えていくのがわかったが、ぶつかって来る衝撃が強くなってきているのもわかった。危ないなと思った時、耳に石が当たった。

傘を突き破って飛んできたのだ、痛いとは思ったが、痛がると面白がるのを知っていたので我慢した、奥歯が砕けて眉間の皺が一生残るほど歯を食いしばって。



『やった!傘を突き破ったから10点!』



何たるおぞましいゲームだろうか。



その声をスタートに、傘を破る事に目標を変えたいじめっ子たち。

その数3人、思い切り投げる石は3つづつ飛んでくる。

傘に次々と穴をあけられ、首元や後頭部に石が当たり始める。

痛くて抑えたその手にも石が当たり、傘を落としてしまうほどの痛さだった。傘を落とすと走り寄って来た3人は龍一のランドセルを掴んで振り回し、大きな水溜まりに転ばせた。勢いよく跳ね上がる水と泥の勢いは凄まじいスピードで龍一に襲い掛かり、一瞬で泥まみれになった。

3人は足でその水や泥をバシャバシャと龍一にかけると、穴だらけの傘を踏んずけて壊し始めた。



『黙っていれば終わる』



いつもの微かな希望を胸に抱きしめながらグッと堪えていると、3人は龍一を後にした、大笑いしながら。同じ人間とは思えない…そう感じながら立ち上がった龍一の泥を、振り続ける雨が洗い流してくれた。手の平を見ると赤く染まっていたので、どこからか血が出たのがわかった、その血を見て悔しさが込み上げる。



とぼとぼと歩を進めると、聞いたことのない声がした。

キーキーと鳴くその声は助けを求めるかのように聞こえた龍一。

自然と声のする方に向かうと、水の入ったドラム缶に、ネズミ捕りにかかったネズミがそのまま入れられていたのが見えた。水面に首だけ出して必死で呼吸しながらキーキーと泣き叫んでいる。この時代、捕まえたネズミを公開処刑のようにこうして殺害するのは割とポピュラーだったのだ。



『助けなきゃ』



助けて欲しいのは自分だと言うのに、龍一は直ぐにドラム缶からネズミ捕りを取り出して、まずは水没を防いだ。

大雨の降りしきる中、ネズミ捕りの籠の開け方を模索した。

隅っこに寄って龍一を警戒するネズミ。だが龍一には出してくれるのをじっと待っているようにも見えた。



何とかストッパーを外すと勢いよくネズミが飛び出した。結構な大きさなので『わ!』と驚いた龍一、少し先で立ち止まったネズミが振り向いた。

龍一にはその行動がお礼を言っているように感じ『もう捕まるなよ』と声をかけると、聞こえたかのように雨の中に消えて行った。



それ以来、龍一は思い過ごしかもしれないが動物に懐かれる気がしてならない。



---------------------------------------------------------



『ね!龍一君』



『ん?なに?』



『聞いてなかったのー?音山の話しだよー』



『音山がどうかしたの?』



『お礼参りされたらしいよ、E組の生徒が5人でめちゃくちゃやったらしいの』



『まじか!』



『でね、やり過ぎたみたいで、救急車と警察来て大変だったらしいよ、あいつの車もボッコボコだってさ』



『まぁ調子に乗り過ぎてたからね、音山』



『だよね、音山には悪いけど教師は絶対みたいな感じ、良くないよね』



『何年か先、教師の体罰が問題で教師が教育と言う盾を使った体罰は違法になるかもしれないね』



『わかるー青くなる程殴るなんて教育じゃないと思うもん』



『だよねー』



聞いてなかったくせに、それを帳消しにする話題の提供と聞き上手のスキルが高かった龍一は女子の総攻撃を免れた。



『そろそろお昼にしない?私と桜坂君はレモンに行って来るね』



『え?そうなの?ズルい!私も行きたい』



『じゃぁ笠井も一緒に』



『あ、まって、出前とるから家で食べようよ、桜坂龍一、ラーメン好きでしょ?』



『俺がラーメン好きなの知ってたっけ?』



『桜坂龍一の事なら良く知ってる』



『じゃぁそうする?』



『いやラーメンに負けてるし』『桜坂君ラーメンが好きなんだねー』



『お金、俺出すよ』



『いいの、お母さんに話したらそうしなさいってお金貰ってるから、あ、でも一人1,000円超えないでね』



『そんなに食えねーよ、ラーメンにチャーハンに餃子付けれるじゃん1,000円なんて』



結局山下の家で出前を取ることになった4人、桜坂は醤油ラーメン、山下は天津飯、馬場はチャーハン、笠井は塩ラーメン。



『なんかみんなそれぞれポイ食べ物だね』



『どゆこと?』



『笠井は塩って感じするじゃん、染まってないって言うかさ、山下はシンプルな見た目だけど中身は彩があると言うか…』



『私のチャーハンは?』



『んーと…』『ラーメンと相性がいい?』『あ、うん、そうかな』

『え?だったら天津飯もラーメンに合うけど』

『私塩ラーメンなんだけど…』



『いやいや、例えばの話しだし…ね…』



ピンポン!



『まいどー昇竜(しょうりゅう)でーす』



『ほら!来たよ!キタキタ!ね!てか昇竜って美味しいってここらへんでは有名だよね』



『龍一君詳しいんだね』『親父がタクシー運転手だからね、そういうのよく耳にするんだ、さ、食べよう食べよう』



出前なのに思いの外美味しい昼食となった。



『めっちゃ美味しいね』『ほんと?ちょっとスープもらっていい?』

龍一のレンゲを取って龍一のラーメンのスープを飲む馬場。『天津飯少しちょうだい』笠井が山下の天津飯に蓮華を突っ込む『じゃぁ塩のスープ飲ませてよ』『じゃ、じゃぁ馬場のチャーハンを』『天津飯も食べな』『塩ラーメン食べてみてよ』



『もう好き放題みんなで食べようよ』

『そうだね』

『パーティーみたいだね』

『うんうん』



その場の空気に呆れたかのように、首から下りたチェシャが龍一の胡坐の中に入って丸くなり『ナ~』と鳴いて眠りについた。



龍一はチェシャを撫でながら

『あの時のネズミが俺に憑いてるのかもな』そう思って微笑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クライエラの幽微なる日常 ~怪異現象対策課捜査file~

ゆるり
キャラ文芸
正義感の強い警察官と思念を読み取る霊能者によるミステリー風オカルトファンタジー。 警察官の神田智輝は『怪異現象対策課』という聞き馴染みのない部署に配属された。そこは、科学では解明できないような怪異現象が関わる相談ごとを捜査する部署らしい。 智輝は怪異現象に懐疑的な思いを抱きながらも、怪異現象対策課の協力者である榊本葵と共に捜査に取り組む。 果たしてこの世に本当に怪異現象は存在するのか? 存在するとして、警察が怪異現象に対してどう対処できるというのか? 智輝が怪異現象対策課、ひいては警察組織に抱いた疑問と不信感は、協力者の葵に対しても向いていく――。 生活安全部に寄せられた相談ごとを捜査していくミステリー風オカルトファンタジーです。事件としては小さなものから大きなものまで。 ・File→基本的には智輝視点の捜査、本編 ・Another File→葵視点のファンタジー要素強めな後日談・番外編(短編) を交互に展開していく予定です。

実はこれ実話なんですよ

tomoharu
恋愛
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!1年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎ智伝説&夢物語】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎ智久伝説&夢物語】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【智久】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

待つノ木カフェで心と顔にスマイルを

佐々森りろ
キャラ文芸
 祖父母の経営する喫茶店「待つノ木」  昔からの常連さんが集まる憩いの場所で、孫の松ノ木そよ葉にとっても小さな頃から毎日通う大好きな場所。  叶おばあちゃんはそよ葉にシュガーミルクを淹れてくれる時に「いつも心と顔にスマイルを」と言って、魔法みたいな一混ぜをしてくれる。  すると、自然と嫌なことも吹き飛んで笑顔になれたのだ。物静かで優しいマスターと元気いっぱいのおばあちゃんを慕って「待つノ木」へ来るお客は後を絶たない。  しかし、ある日突然おばあちゃんが倒れてしまって……  マスターであるおじいちゃんは意気消沈。このままでは「待つノ木」は閉店してしまうかもしれない。そう思っていたそよ葉は、お見舞いに行った病室で「待つノ木」の存続を約束してほしいと頼みこまれる。  しかしそれを懇願してきたのは、昏睡状態のおばあちゃんではなく、編みぐるみのウサギだった!!  人見知りなそよ葉が、大切な場所「待つノ木」の存続をかけて、ゆっくりと人との繋がりを築いていく、優しくて笑顔になれる物語。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

半妖さんと七日間生活 〜私が妖の御子で半妖さんは巫女だけど男⁉︎〜

絶対守護天使ちゃん
キャラ文芸
妖の御子となり追われることとなった竹内晴香。彼女は御子として特別な力がたくわられていたという。そし、妖たちの中で、彼女を食べることで不死の力を手に入れるという噂まで流れ始めた。 そのことを何も知らない晴香は、今まで見えてないものが見えるよになった。その変なものに最初は怯えつつも、垣間見える人間らしさに油断し近づき始めていた。そんなかで、もちろん良いモノだけではなく、悪いモノもいた。そんなモノに襲われたところを半妖の黒髪美人に助けてもらう。 彼女は美しく、気高く、女性の憧れる全てを集めたような人であった。もちろん春香も例外なく憧れることに。 怖いやつを追い払った後、彼女は私に言ったのだ。 「少しは疑えよ、バーカ」 と、女の子から出たとは思えない、まるで男の人の声で。 妖の御子となり追われることとなった晴香。解決方法はその力を使い切ってしまうこと。力を使えるのは、妖なら半妖の彼女?だって使い切れる。こうして晴香は七日間一緒に暮らしすことに!晴香は元に戻れるのか⁉︎

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...