Hope Man

如月 睦月

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中学校編

ネズミとネコ

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知らぬ間に女子会の様な状態になっていたクラス会の打ち合わせ。その様子を見ているとやはり卒業したとはいえ数日しか経過していないのだからまだまだ中学生のノリだった。そんなノリが苦手で、龍一はただただ会話する楽しそうな女子を眺めていた。時折チェシャを撫でながら。



そんな中ふと思い出した。



それは何年生だったか記憶にないが、小学校の低学年の頃だったと思う。



大雨の中、学校を目指していた日の出来事だった。

何時も通る平屋が連なった形状の市営住宅を抜ける道を歩く。

大きな道は敵が多く、狙われるのを避ける為に選んだ道だ。

細々と右に左に縫うように歩くと、運悪くクラスの敵、いわゆるいじめっ子に出くわした。



『よう、転校生、お前なんで学校に来るんだよ』



何とも返答に困る質問をぶつけてくる。

無視して歩を進めると後ろから傘にボン!と石を投げつけられたのがその衝撃でわかった。「またか」道を変えたのに見つかるとはついてない…でもこのまま歩いていれば飽きて止めるだろうと、そのまま無視を続けた。無視をすればしたで『無視すんなよ』と言われる…いじめとは理不尽なものである。



石の数が増えていくのがわかったが、ぶつかって来る衝撃が強くなってきているのもわかった。危ないなと思った時、耳に石が当たった。

傘を突き破って飛んできたのだ、痛いとは思ったが、痛がると面白がるのを知っていたので我慢した、奥歯が砕けて眉間の皺が一生残るほど歯を食いしばって。



『やった!傘を突き破ったから10点!』



何たるおぞましいゲームだろうか。



その声をスタートに、傘を破る事に目標を変えたいじめっ子たち。

その数3人、思い切り投げる石は3つづつ飛んでくる。

傘に次々と穴をあけられ、首元や後頭部に石が当たり始める。

痛くて抑えたその手にも石が当たり、傘を落としてしまうほどの痛さだった。傘を落とすと走り寄って来た3人は龍一のランドセルを掴んで振り回し、大きな水溜まりに転ばせた。勢いよく跳ね上がる水と泥の勢いは凄まじいスピードで龍一に襲い掛かり、一瞬で泥まみれになった。

3人は足でその水や泥をバシャバシャと龍一にかけると、穴だらけの傘を踏んずけて壊し始めた。



『黙っていれば終わる』



いつもの微かな希望を胸に抱きしめながらグッと堪えていると、3人は龍一を後にした、大笑いしながら。同じ人間とは思えない…そう感じながら立ち上がった龍一の泥を、振り続ける雨が洗い流してくれた。手の平を見ると赤く染まっていたので、どこからか血が出たのがわかった、その血を見て悔しさが込み上げる。



とぼとぼと歩を進めると、聞いたことのない声がした。

キーキーと鳴くその声は助けを求めるかのように聞こえた龍一。

自然と声のする方に向かうと、水の入ったドラム缶に、ネズミ捕りにかかったネズミがそのまま入れられていたのが見えた。水面に首だけ出して必死で呼吸しながらキーキーと泣き叫んでいる。この時代、捕まえたネズミを公開処刑のようにこうして殺害するのは割とポピュラーだったのだ。



『助けなきゃ』



助けて欲しいのは自分だと言うのに、龍一は直ぐにドラム缶からネズミ捕りを取り出して、まずは水没を防いだ。

大雨の降りしきる中、ネズミ捕りの籠の開け方を模索した。

隅っこに寄って龍一を警戒するネズミ。だが龍一には出してくれるのをじっと待っているようにも見えた。



何とかストッパーを外すと勢いよくネズミが飛び出した。結構な大きさなので『わ!』と驚いた龍一、少し先で立ち止まったネズミが振り向いた。

龍一にはその行動がお礼を言っているように感じ『もう捕まるなよ』と声をかけると、聞こえたかのように雨の中に消えて行った。



それ以来、龍一は思い過ごしかもしれないが動物に懐かれる気がしてならない。



---------------------------------------------------------



『ね!龍一君』



『ん?なに?』



『聞いてなかったのー?音山の話しだよー』



『音山がどうかしたの?』



『お礼参りされたらしいよ、E組の生徒が5人でめちゃくちゃやったらしいの』



『まじか!』



『でね、やり過ぎたみたいで、救急車と警察来て大変だったらしいよ、あいつの車もボッコボコだってさ』



『まぁ調子に乗り過ぎてたからね、音山』



『だよね、音山には悪いけど教師は絶対みたいな感じ、良くないよね』



『何年か先、教師の体罰が問題で教師が教育と言う盾を使った体罰は違法になるかもしれないね』



『わかるー青くなる程殴るなんて教育じゃないと思うもん』



『だよねー』



聞いてなかったくせに、それを帳消しにする話題の提供と聞き上手のスキルが高かった龍一は女子の総攻撃を免れた。



『そろそろお昼にしない?私と桜坂君はレモンに行って来るね』



『え?そうなの?ズルい!私も行きたい』



『じゃぁ笠井も一緒に』



『あ、まって、出前とるから家で食べようよ、桜坂龍一、ラーメン好きでしょ?』



『俺がラーメン好きなの知ってたっけ?』



『桜坂龍一の事なら良く知ってる』



『じゃぁそうする?』



『いやラーメンに負けてるし』『桜坂君ラーメンが好きなんだねー』



『お金、俺出すよ』



『いいの、お母さんに話したらそうしなさいってお金貰ってるから、あ、でも一人1,000円超えないでね』



『そんなに食えねーよ、ラーメンにチャーハンに餃子付けれるじゃん1,000円なんて』



結局山下の家で出前を取ることになった4人、桜坂は醤油ラーメン、山下は天津飯、馬場はチャーハン、笠井は塩ラーメン。



『なんかみんなそれぞれポイ食べ物だね』



『どゆこと?』



『笠井は塩って感じするじゃん、染まってないって言うかさ、山下はシンプルな見た目だけど中身は彩があると言うか…』



『私のチャーハンは?』



『んーと…』『ラーメンと相性がいい?』『あ、うん、そうかな』

『え?だったら天津飯もラーメンに合うけど』

『私塩ラーメンなんだけど…』



『いやいや、例えばの話しだし…ね…』



ピンポン!



『まいどー昇竜(しょうりゅう)でーす』



『ほら!来たよ!キタキタ!ね!てか昇竜って美味しいってここらへんでは有名だよね』



『龍一君詳しいんだね』『親父がタクシー運転手だからね、そういうのよく耳にするんだ、さ、食べよう食べよう』



出前なのに思いの外美味しい昼食となった。



『めっちゃ美味しいね』『ほんと?ちょっとスープもらっていい?』

龍一のレンゲを取って龍一のラーメンのスープを飲む馬場。『天津飯少しちょうだい』笠井が山下の天津飯に蓮華を突っ込む『じゃぁ塩のスープ飲ませてよ』『じゃ、じゃぁ馬場のチャーハンを』『天津飯も食べな』『塩ラーメン食べてみてよ』



『もう好き放題みんなで食べようよ』

『そうだね』

『パーティーみたいだね』

『うんうん』



その場の空気に呆れたかのように、首から下りたチェシャが龍一の胡坐の中に入って丸くなり『ナ~』と鳴いて眠りについた。



龍一はチェシャを撫でながら

『あの時のネズミが俺に憑いてるのかもな』そう思って微笑んだ。
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