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中学校編
昂一との旅、自動販売機
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数時間でフェリーが到着した、海を渡ったと言う実感こそ無いが、船酔いの残るフワフワとした足の感覚はしっかりとそれを感じていたようだ。
トイレの手洗い場で歯を磨き、昂一と共にトラックに乗り込む。
朝食は船を降りてからにしようと言う事になり、いよいよ陸地へと降り立つ。
見知らぬ街なのに懐かしい感覚がする街並みに龍一の心が湧いた。
修学旅行で通り過ぎただけの街だったから、ゆっくり見れるのが嬉しい。
結構な時間トラックは走るのを止めない、腹が減って来た龍一は昂一に尋ねた。
『朝メシは?』
『いいとこあんだよ、もう少し待ってな』
バカ兄貴の言う“いいとこ“なんかどうせろくな店じゃないだろう、何でもいいから喰わせてくれと思いながらも、自分はお金が無いので出してもらう身だと言う事に気づき、大人しく呑み込んだ。
レトロな街並みに違和感を感じる最新のアミューズメントビルが置かれ、これから発展するのか間違えて建てたのか、そう考えるとなんだか笑えた。街を笑ったのではなく、この街を見て自分の思考が翻弄されているように思えたから可笑しくなったのだ、そんな事を思っていると街がどんどん寂しくなり、やがて山の中へと入って行った。
『あれ?街を出てない?』
『あぁ、この先にあんだよ』
そう言ってから20分ほど走ると、駐車場へとハンドルを切られたようだった。縁石を踏み、車体が大きく左右に揺れてゴトンゴトンと音を立て、プシーと喚き叫ぶようにトラックが止まった。
『いくぞ!ここだ』
龍一が降りると、昂一はそそくさとその歩を進めたので、小走りで後に続いた。ハイレベルな方向音痴である龍一は見知らぬ土地だと特に不安になる、ましてや相手は自由気ままな兄昂一、景色なんか楽しんでいる余裕なんかない。見失ったら一大事なので慌てて追走した。
無機質で無骨と言うべきか、白いペンキが何度も塗り直された跡が残る扉を昂一が横に開くとカラカラと小気味のいい速度と音が鳴り、人感センサーが反応したのかテラテラテラテラテラ~と呼び鈴が鳴った。
『龍、この呼び鈴、パラパラパラパラ~って聞こえねぇ?』
『テラテラテラテラだろ』
『まぁいいから見て見ろよ』
龍一は足がすくむ程の衝撃を受けた。店内全てが自動販売機だったのだ。よく見るとその販売機はハンバーガー、カップ麺、ポテト、お好み焼き、たこ焼きと多種に及んだ。
『ジュースしか見たことないだろ自動販売機なんかよ』
『まじかよ…すげぇ…』
その場に立ったまま店内の自販機を端から端までゆっくりと見回し、ワクワクで瞳孔が開いたまま意味も無く笑い出した、本当に意味は無いのに可笑しくて仕方が無かった、見たことも無い光景、そして想像もしなかった光景、そしてあればいいのにと思い描いた光景が目の前にあるのだ、その妄想や空想とのギャップに脳が誤作動を起こして、笑えと命令してしまったのかもしれない。最高級の魚卵もステーキも、年に一度程度しか食べられないウニやカニをも凌駕する、自動販売機と言う夢の機械。ジュースではなく、お湯が出て熱いカップ麺が食べられる、アツアツのチーズバーガーがアツアツのポテトと一緒に外で食べられる、これは夢の世界だ、目移りする龍一。
『カップ麺なんか買うなよ、いつでも喰えるんだから』
『兄貴、違うよ、出来上がったカップ麺が自販機で買えるってのがスゲーんだよ』
『いやわかるけど…』そう言いながら昂一はうどんを買った。自販機からうどんを取り出し、袋から生の麺を出してカップに入れると自販機に戻してお湯ボタンを押した。この一連の動作で龍一の夢が一つ消えた。出来上がったうどんが出てくると思っていたのに結局はお湯を入れるポットが自販機に入ってるようなものじゃないか…と。
冷静になった龍一は昂一に貰ったお金でチーズバーガーを買った。
購入ボタンを押してから昂一がうどんを食べ終わるまでかかって本体が出て来た。その箱からは信じられない程の湯気が出ており、掴むことが出来ないくらいに高温だった。
『あっち!!!!!』
『あぁ、クソ熱いぞ』
『先に言え』
『それも楽しいじゃん』
店内には誰もおらず、数年後にはイートインと呼ばれる空間があるだけだった。
『店員いないの?』
『無人だよ、自動販売機レストラン』
『レストランではないだろ』
『書いてるんだって外の看板に、わっはっは』
『まじ?はははは』
思いの外小さな箱の蓋を開けると、箱の形に四角くなってハンバーガーがギュウギュウ詰めにされていた、熱くて引っ張り出すことも出来ず、箱を振ったら後ろから飛び出して床に落ちた。
『やいや!!!!』
がっかりと怒りで声をあげると、昂一は『勿体ないけどしょうがないよ、これでもう一個買って行こう、そろそろ時間だ。』
『悪いな兄貴』『いいさ、これも思い出だ』『だな』『な』
チーズバーガーを再購入して外に出て振り返ると、自動販売機レストランと書かれた看板が掲げられていた、それを見て龍一は少しだけ笑った。
トラックを走らせる中、朝食を終えた龍一は後ろのベッドルームに移動して、勉強を始めた。流石に夏休みだから勉強しないと言う選択はなかった。宿題こそないものの、受験と言う戦争を控えている兵士なのだ、勉強と言う弾丸を脳みそに込めなくては戦えないのだから。
『なんの勉強してんだ龍』
『あ?んん、社会…あー歴史』
『いい肉つくろう鎌倉さんだろ?』
『鎌倉って肉屋なんか俺しらねーし』
『龍、お前彼女は?』
『みんな聞くよなそれ、いねーよ』
『じゃぁエッチもまだか?』
『いやいーからそういうの』
『大事な話じゃねーかよ、気持ちいいぞーエッチは』
『はいはい、チャンスがあったらね、ほら前見て』
龍一は彼女が出来たのか?とか初体験はまだか?と言う話は嫌いだった、彼女は居ないし初体験ももちろんまだだが、龍一はどちらもあまりウェイトを置いていなかった、と言うよりベクトルが向いていないのだ。絵も描かなくなった龍一には今は特に何もなかった、描かなくなったからと言って彼女を作ろうと言う気持ちにもならず、高校だってみんなが行くし、せめて高校は出ようと言うだけの事、目指すものが別にあるわけでもない、こういうのをなんと言うのだろう、目標なんかなにもない、やりたいことも何もない、ただただ水の流れに身を任せて川を下る小枝の様なものだった。
朝に見た自動販売機の方が、自分なんかよりよほど立派で進化もしている。チーズバーガーを出せと言われればその指示通りにチーズバーガーを出す、指示が無いと動けないが、その指示を間違う事は先ずない、余計な事など考えず、逆らわず、さぼらず、文句も言わない、自分には不可能だ、やりたくない事には文句も言うし逆らい、さぼる事もあるだろう、何より自分に指示なんかしてくれる人すらいない。修学旅行での一件で周りは少し変わったものの、違和感と言うか、壁は無くなってはいないわけで、自分と言う存在を最近ではつくづく好きになれなかった。
そういう意味ではこの旅は刺激が多く、龍一にとって良いモノなのかもしれない。
トイレの手洗い場で歯を磨き、昂一と共にトラックに乗り込む。
朝食は船を降りてからにしようと言う事になり、いよいよ陸地へと降り立つ。
見知らぬ街なのに懐かしい感覚がする街並みに龍一の心が湧いた。
修学旅行で通り過ぎただけの街だったから、ゆっくり見れるのが嬉しい。
結構な時間トラックは走るのを止めない、腹が減って来た龍一は昂一に尋ねた。
『朝メシは?』
『いいとこあんだよ、もう少し待ってな』
バカ兄貴の言う“いいとこ“なんかどうせろくな店じゃないだろう、何でもいいから喰わせてくれと思いながらも、自分はお金が無いので出してもらう身だと言う事に気づき、大人しく呑み込んだ。
レトロな街並みに違和感を感じる最新のアミューズメントビルが置かれ、これから発展するのか間違えて建てたのか、そう考えるとなんだか笑えた。街を笑ったのではなく、この街を見て自分の思考が翻弄されているように思えたから可笑しくなったのだ、そんな事を思っていると街がどんどん寂しくなり、やがて山の中へと入って行った。
『あれ?街を出てない?』
『あぁ、この先にあんだよ』
そう言ってから20分ほど走ると、駐車場へとハンドルを切られたようだった。縁石を踏み、車体が大きく左右に揺れてゴトンゴトンと音を立て、プシーと喚き叫ぶようにトラックが止まった。
『いくぞ!ここだ』
龍一が降りると、昂一はそそくさとその歩を進めたので、小走りで後に続いた。ハイレベルな方向音痴である龍一は見知らぬ土地だと特に不安になる、ましてや相手は自由気ままな兄昂一、景色なんか楽しんでいる余裕なんかない。見失ったら一大事なので慌てて追走した。
無機質で無骨と言うべきか、白いペンキが何度も塗り直された跡が残る扉を昂一が横に開くとカラカラと小気味のいい速度と音が鳴り、人感センサーが反応したのかテラテラテラテラテラ~と呼び鈴が鳴った。
『龍、この呼び鈴、パラパラパラパラ~って聞こえねぇ?』
『テラテラテラテラだろ』
『まぁいいから見て見ろよ』
龍一は足がすくむ程の衝撃を受けた。店内全てが自動販売機だったのだ。よく見るとその販売機はハンバーガー、カップ麺、ポテト、お好み焼き、たこ焼きと多種に及んだ。
『ジュースしか見たことないだろ自動販売機なんかよ』
『まじかよ…すげぇ…』
その場に立ったまま店内の自販機を端から端までゆっくりと見回し、ワクワクで瞳孔が開いたまま意味も無く笑い出した、本当に意味は無いのに可笑しくて仕方が無かった、見たことも無い光景、そして想像もしなかった光景、そしてあればいいのにと思い描いた光景が目の前にあるのだ、その妄想や空想とのギャップに脳が誤作動を起こして、笑えと命令してしまったのかもしれない。最高級の魚卵もステーキも、年に一度程度しか食べられないウニやカニをも凌駕する、自動販売機と言う夢の機械。ジュースではなく、お湯が出て熱いカップ麺が食べられる、アツアツのチーズバーガーがアツアツのポテトと一緒に外で食べられる、これは夢の世界だ、目移りする龍一。
『カップ麺なんか買うなよ、いつでも喰えるんだから』
『兄貴、違うよ、出来上がったカップ麺が自販機で買えるってのがスゲーんだよ』
『いやわかるけど…』そう言いながら昂一はうどんを買った。自販機からうどんを取り出し、袋から生の麺を出してカップに入れると自販機に戻してお湯ボタンを押した。この一連の動作で龍一の夢が一つ消えた。出来上がったうどんが出てくると思っていたのに結局はお湯を入れるポットが自販機に入ってるようなものじゃないか…と。
冷静になった龍一は昂一に貰ったお金でチーズバーガーを買った。
購入ボタンを押してから昂一がうどんを食べ終わるまでかかって本体が出て来た。その箱からは信じられない程の湯気が出ており、掴むことが出来ないくらいに高温だった。
『あっち!!!!!』
『あぁ、クソ熱いぞ』
『先に言え』
『それも楽しいじゃん』
店内には誰もおらず、数年後にはイートインと呼ばれる空間があるだけだった。
『店員いないの?』
『無人だよ、自動販売機レストラン』
『レストランではないだろ』
『書いてるんだって外の看板に、わっはっは』
『まじ?はははは』
思いの外小さな箱の蓋を開けると、箱の形に四角くなってハンバーガーがギュウギュウ詰めにされていた、熱くて引っ張り出すことも出来ず、箱を振ったら後ろから飛び出して床に落ちた。
『やいや!!!!』
がっかりと怒りで声をあげると、昂一は『勿体ないけどしょうがないよ、これでもう一個買って行こう、そろそろ時間だ。』
『悪いな兄貴』『いいさ、これも思い出だ』『だな』『な』
チーズバーガーを再購入して外に出て振り返ると、自動販売機レストランと書かれた看板が掲げられていた、それを見て龍一は少しだけ笑った。
トラックを走らせる中、朝食を終えた龍一は後ろのベッドルームに移動して、勉強を始めた。流石に夏休みだから勉強しないと言う選択はなかった。宿題こそないものの、受験と言う戦争を控えている兵士なのだ、勉強と言う弾丸を脳みそに込めなくては戦えないのだから。
『なんの勉強してんだ龍』
『あ?んん、社会…あー歴史』
『いい肉つくろう鎌倉さんだろ?』
『鎌倉って肉屋なんか俺しらねーし』
『龍、お前彼女は?』
『みんな聞くよなそれ、いねーよ』
『じゃぁエッチもまだか?』
『いやいーからそういうの』
『大事な話じゃねーかよ、気持ちいいぞーエッチは』
『はいはい、チャンスがあったらね、ほら前見て』
龍一は彼女が出来たのか?とか初体験はまだか?と言う話は嫌いだった、彼女は居ないし初体験ももちろんまだだが、龍一はどちらもあまりウェイトを置いていなかった、と言うよりベクトルが向いていないのだ。絵も描かなくなった龍一には今は特に何もなかった、描かなくなったからと言って彼女を作ろうと言う気持ちにもならず、高校だってみんなが行くし、せめて高校は出ようと言うだけの事、目指すものが別にあるわけでもない、こういうのをなんと言うのだろう、目標なんかなにもない、やりたいことも何もない、ただただ水の流れに身を任せて川を下る小枝の様なものだった。
朝に見た自動販売機の方が、自分なんかよりよほど立派で進化もしている。チーズバーガーを出せと言われればその指示通りにチーズバーガーを出す、指示が無いと動けないが、その指示を間違う事は先ずない、余計な事など考えず、逆らわず、さぼらず、文句も言わない、自分には不可能だ、やりたくない事には文句も言うし逆らい、さぼる事もあるだろう、何より自分に指示なんかしてくれる人すらいない。修学旅行での一件で周りは少し変わったものの、違和感と言うか、壁は無くなってはいないわけで、自分と言う存在を最近ではつくづく好きになれなかった。
そういう意味ではこの旅は刺激が多く、龍一にとって良いモノなのかもしれない。
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