Hope Man

如月 睦月

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中学校編

キング・コング

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昼休みに龍一のクラスでプロレスを観に行くメンバーが集結した。

龍一・タカヒロ・中村・花田の4人だ。
話す内容は勿論今日の事。

タカヒロが言う。
『今日さ、学校終わったらソッコーな!』

『どこに?』と中村が身を乗り出して聞く。

その中村が邪魔で、押しのけながら花田が『どこに?』と聞く。

龍一はその様子にたじたじしながらこう感じていた。
一人じゃないってこういう事なのかな、こういう事が楽しいって事なのかな。
友達・・・なのかなこの3人は・・・
俺はどうして行ったらいいんだろうこいつらと。

『なぁ!オッケーだろ?龍一!』

タカヒロの問いに『はぁ?』と答える龍一。

『はぁじゃねーし!お前たまにそゆとこあるよな!あははは』

『え?なに?なんだよ、何がオッケーなんだよ』

『学校終わったらソッコーお前ん家集合!龍一の家!』

『桜坂の家しらねーから俺、花田の家行くわ』

『じゃぁ俺と中村でタカヒロの家行って、桜坂だな』

『あぁ、分かったよ、俺は3人を待てばいいんだな』

『じゃ!』

ここで4人がバラバラに解散する。

放課後、玄関で4人が顔を合わせ、一応学校に知られないようにと言う約束から
それぞれがウインクをした、薄気味悪い光景で、タカヒロはウインクが下手で、
片目を瞑る度にアホみたいな顔になっていた。

『じゃ!』

また4人がバラバラに解散する。

いつもより小走りに帰る龍一。
実は龍一の家は北中から徒歩10分程度だ、小走りだと7分程で到着する。
ドアノブに手をかけると鍵がかかっていた、まぁよくある事だ。
鍵は物置にあるので問題はない。

部屋に入ると鞄をぶん投げ、制服を脱ぎ、取り敢えずマッパになった。
まるでデートに行く為に勝負下着を選ぶかのように柄パンから選び始めた。
龍一は若干そういうところがあって、男性と遊ぶのにパンツを履き替えたりする。
そんな綺麗好きでもないわけだが、あるとすれば
『嫌な臭いがしたらどうしよう』だった。

着替えが終わるとチケットを確認し、財布に5.000円を入れ、
タカヒロに絶対忘れるなと言われて事前に買っていた色紙を10枚
リュックに入れて、て鍵をかって家を出た。
珍しく今回のプロレス観戦に関しては『あまり遅くなるなよ』というだけで、
母親も父親も行かせてくれたのが龍一にはちょっと嬉しかった。

家の前に出るとタカヒロと中村と花田が向かってきてるのが見えたので、
大きく手を振った龍一。その自分の行動にハッと気づき、
振った手を下ろしてその手を見つめた。

『どうした?チンコしごき過ぎて右手が痛いのか?』
タカヒロがくわえたばこでツッコミを入れて来た。

『しごき過ぎなら痛くなるのはチンコだろ!』

『だな!』『わははははは』

『じゃぁまずバスで大門(おおもん)に出て、歩いてホテル浪漫な』
とタカヒロが言う。大門とはこの浪漫の街の一番の繁華街の呼び名で、
正式な街の名前ではなく、その繁華街入り口に昔は大きな門があったらしい。
それで、その門が撤去された今でも『大門(おおもん)』と呼ばれているのだ。

『市民体育館は湯川原(ゆのかわら)町じゃなかった?』
そうツッコむ龍一に対し、タカヒロが答える。

『レスラーは大体前日に泊まってるんだよ、で、そのホテルが浪漫と、
湯川原タワーホテルなのよ、花館にも泊まるけど三箇所は無理だ』

『で?ホテル行って?』

『サイン貰うんだよサイン!その色紙だよ!』

『なるほど!』

一同はバスを降りてホテル浪漫を目指した。
一流のアスリートでもしんどいであろう急な坂道を500メートルほど登る。
地元のシンボルでもある山がその後ろに聳え立つ。
その山は浪漫山、浪漫の街の浪漫山。
もともと名前の無い山からの景色が絶景で、観光スポットとして
実は世界的に有名になった為、慌てた街が一般公募をして付いた名前が
この浪漫山である、きわめて微妙で絶妙なダサさのある名前だが、
慣れてしまえばそう言うモノかと思ってしまう。

ロビーに入るのは自由なので、まずは中を外からのぞき込むことにした。
明らかに大きな人間が中央部にある螺旋階段の下に座っているのが見える。

『ブロディだ!』龍一が叫ぶ。

『まじか!』『うわ!チェーン横にあるぜ!』『やべぇこえぇ』

『じゃんけんだ!負けた人がサインを頼みに行く、
OKでたら残り3人が並ぶ、どうだ?』

タカヒロの案にみんな頷いてじゃんけんのポジションに入った。

『最初はグー!じゃんけんポン!』

なんたる運の悪さか、初めて来た龍一が負けると言う緊急事態。
でも仲間は容赦はしない。
『よっしゃー!さっくらざかけってーい』

『う・・・うん・・・わかった』
ここでごねて空気を悪くするわけには行かない。
龍一は色紙とマジックを手に取り、ゆっくりと入り口のガラス戸と押した。
わずかにできた隙間に身体をねじ込むように、そして静かに入った龍一。
靴が100kgあるんじゃないかと思う程足が進まない。
だが、その足は確実にブロディのもとへ向かっている。
ブルーザー・ブロディはアメリカのプロレスラーで日本でも凄い人気がある。
イメージとしては原住民の戦士、リングの上でもけたたましく吠えて見せ、
会場と一体感を出すその姿は本当にカッコよかった。
ただ、その容姿は伸び伸びのソバージュを振り乱し、
伸び伸びの髭と毛むくじゃらのブーツ、見た目はマッチョな類人猿で、
恐ろしく怖いのだ、それはもう凄まじい怖さだ。
どれだけ恐ろしいかと言うと、キングコングと呼ばれている時点で
どれだけもこれだけもなく、恐ろしいと確定なのである。

生唾をなんども呑み込み、勇気を絞りに絞ってブロディの前に立つ龍一。

何度深呼吸しても震えが全身を駆け巡る。

静かに読書をしているブロディがその本をパァン!!!!!と音を立てて閉じた。
そして龍一をギロリと睨みつけた。
正直父親の康平の比ではなかったその恐怖。
龍一は『死んだ』と思った、だがここまで来て逃げたくはなかった。

『サイン・・・プリーズ・・・』消えそうな声でそう言うと色紙を差し出した。

このガキ、俺の睨みで下がらねぇのか?とでも言ったのだろうか、
ブロディは何かを口にして色紙を奪い取り『ペンをよこせ』の様な
ジェスチャーをして見せた。とっさにマジックを渡すと、ブロディは大きく
スラスラとサインを書いて、龍一の胸に叩きつける様に渡した。
『ヴ!!!!!』となった龍一を見てブロディは確かに笑った。
マジックを手渡され『さんきゅう』と言うと
ブロディは『どもありがと』と返した。

それを観ていた仲間たちはそれ!とばかりにブロディに押し掛けた。
ブロディの顔から笑顔が一瞬で消え、横に置いてあったチェーンを握ると
立ち上がった、龍一たちからすれば巨大な壁が聳え立ったようなもの。
怖くて動けずにいると、若手のレスラーがとっさに『逃げろ!』と叫んだ。
その声のお陰で動く事が出来た龍一たちはこれ以上ない程機敏にホテルを出た。
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