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小学校編
こぼした涙
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龍一は卒園を迎えた。
小学校にあがる龍一は黒いランドセルを買ってもらった。
親が買ったのか、誰かが買ってくれたかはわからない。
龍一はランドセルが嬉しくて、マイナス部分に金具をかけて、縦にした。
そうすることでランドセルの鍵をかけることが出来るのだった。
カチャン。カチャン。
カチャン。カチャン。
何度も鍵をかっては鍵を外すを繰り返した。
『あんまりやれば壊れるぞ!』父親の康平が軽く怒鳴った。
慌てて止める龍一だったが、その鍵は斜めになってしまい、
二度とマイナスに戻る事はなかった。
静かになった龍一に何かを感じた康平がランドセルを見に来た。
『なんでもない!なんでもない!』
龍一が既に泣き声で康平がランドセルに触れようとするのを阻止。
しかし龍一をグイッと有り余る筋肉で持ち上げてどかすと、
ランドセルを手に取った。
壊れている事に気が付いた。
ドン!!!
龍一の顔面に凄まじいスピードでランドセルを投げつけた康平。
衝撃でその頭が大きくバウンドする。
『ほら壊れた!どうすんだ!モノを大事にしろ!バカタレ!』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
明日は入学式なので康平はこれ以上何もすることはなかった。
龍一の学校は巴乃(ともえの)小学校、この日入学式となった。
巴小学校は正方形のグラウンドを建物で囲う作りになっており、
グラウンドとは呼ばず、中庭と呼ぶ。
老朽化が相当進んでいる古い古い校舎は、山奥の宿の様なたたずまいである。
擦り減っており、ガタガタと歪んだ床はドリブルしたら斜めにボールが飛ぶんじゃないかと思う程には遊んでおり、引かれた線も擦れてどこからシュートして良いのかわからない、そんな大きな体育館で入学式が行われた。
1年生の教室に集められた龍一はおしっこがしたくてたまらなくなった。ここで担任である村山康夫(むらやまやすお)先生が神がかった事言う『おしっこしたい人はトイレにいっといれー!』寒々しいギャグだったが、1年生にとっては面白いらしく、村山先生の鉄板だった。
救われた気持ちでトイレでおしっこをする龍一。
『ふー・・・・』マイケル・ジャクソン並みの高音で一息つくと、手を洗って教室に戻る。教室のドアを開けると、さきほどいたクラスメイトが一人もおらず途端に不安になった。全員が冷たい視線を龍一に突き刺す。入学式から龍一はクラスを間違えてしまい、隣のクラスで爆笑をかっさらった。
この巴小学校には『こばと会』という小さな施設があった。
その施設とは、施設と言うにはあまりにあまりではあるが、要するに教室を1つ改造した一室。ここは家に帰っても親がいない、いわゆる『鍵っ子』と呼ばれる生徒をあずかる場所である。私もそのこばと会に入れられることになった。当然のことだが友達と外で遊ぶなんで出来ないが、校内は割と自由だった。私は帰っても親がいるのにあずけられていたのだった、早く帰ってきても面倒くさいから・・・が理由だった。とは言っても毎日ではなく月・水・金と言うローテーションだった。
火曜日は友達と遊ぶことが出来たので、クラスで仲良くなったともだち『沢田(さわだ)君』の家に遊びに行くことにした、沢田君は習い事をしているのでそれが終わったら遊ぼう!と言っていた。
でも待ちきれない龍一は聞いていた隣の町である海岸町の習い事の場所へ行ってみることにした。その場所とは『テコンドーの道場』。背伸びしてかろうじて中が見える窓を覗くと、丸太にロープを巻いたものにキックしたりパンチしたりしている大人が見えた、沢田君もそこに混じってハー!ハー!と気合いの入った声を出してパンチやキックを繰り出している。
黒髪の長いポニーテールのおじさんが窓に近づき『見てないでやりなさい』と龍一に声をかけた。龍一がテコンドーを知った瞬間だった。お金がかかる事は知らなかったが、黒髪のポニーテールは『お金いらないから皆とやらないかい?毎週火曜日に来なさい』と言ってきた。龍一はもう『かっこいい!』としか思っていなかったので『うん!あ、はい!』と元気に返事をした。
『かっこいー!テコドーンかっこいい!』
家に帰ってもテコンドーの興奮が冷めやらず、居間でハー!ハー!と記憶を頼りに構えをやっていると康平にうるさいと怒鳴られた。『テコドーンで絶対父ちゃんをやっつけてやる』そう決意する龍一。
テコンドーを1年間続け、龍一は2年生になった。近所に引っ越してきた成田拓也(なりたたくや)と共に今日は近くにあるとある企業の材料置き場で遊ぶことにした。
『りゅう!今日何する?』
『基地作ろうぜタック!』
材料置き場に丁度少年が身を隠せるほどのスペースがあった。
その上にプラスチックの排水管を乗せて蓋をした。
タックが中に入り、下からその排水管を調整している。
龍一はちょっと離れた場所まで行き、何かないか物色していた。
するとタックの悲鳴が聞こえてきた。
『痛い!痛いよ!やめてよ!ごめんなさい!』
泣きながら叫んでいるけたたましいタックの声。
物陰から顔を出して確認すると、5.6年生の生徒か中学生っぽい男子が4人でタックの隠れているパイプの上に乗り、中に手を入れてタックの髪を引っ張ってパイプにガンガンと何度も打ち付けていた。テコンドーを1年習ったので強くなっているつもりの龍一が走って4人のうちの一人に体当たりをした。その勢いで転んだ1人、すぐさまもう一人が龍一を羽交い締めにし、もう一人がビンタをした。パイプの上からリーダーの様な男の子が下りてきて龍一の頭に拳骨をした。
『こいつ仲間だ!』
一人がそう言うと、羽交い締めにしていた子が龍一を振りまわして転ばせた、そこに4人がかりで踏みつけにかかった。龍一はとにかく顔は守らないと傷付いたら父親にバレると思い、必死で両腕で顔を隠した。その腕の隙間と、舞い上がる埃の中に、パイプをどかして出てきたタックが見えた。
「たすけて・・・」
そう口が動きかけたとき、タックは龍一を置いて走り去ってしまった。
涙が流れた。
『こいつやっと泣いたぜ!はははははは!』
『泣け泣け!リンチだリンチ!』
泣きだした龍一を面白がって4人が更に踏みつけにした。
時折顔を踏まれ、自分の歯がガチン!と鳴る音を聞いた。
『こらー!!!!』
そこにその会社のスタッフがやってきた。
4人はさっさと逃げ去り、助かった・・・と思った龍一だった。
スタッフは龍一を掴みあげて立たせ、家は何処かと聞き、説明したら一緒に行くと言った。
家に着くと玄関をガラガラと開け『すみませーん』とスタッフが言った。
顔を出したのは康平だった。
スタッフは『お宅のお子さんが資材置き場を荒らして困る、ちゃんとしつけて下さい』と康平に言い放つと、康平は丁寧に低調に謝り、玄関を閉めた。
鼻血を流し、顔中擦り傷で服もドロドロ、その姿はボロボロだった龍一。
康平を見上げて『ごめんなさい』と言おうとした瞬間、ビンタされた。
『ごめんなさい』
ちゃんと謝ると、もう一度ビンタされた。
龍一の脳が激しく揺れ、立っていられずコンクリートむき出しの床に倒れた。薄れゆく意識の中で、階段を上がってゆく康平が見えた・・・涙を1つこぼすと、龍一は目を閉じた。
小学校にあがる龍一は黒いランドセルを買ってもらった。
親が買ったのか、誰かが買ってくれたかはわからない。
龍一はランドセルが嬉しくて、マイナス部分に金具をかけて、縦にした。
そうすることでランドセルの鍵をかけることが出来るのだった。
カチャン。カチャン。
カチャン。カチャン。
何度も鍵をかっては鍵を外すを繰り返した。
『あんまりやれば壊れるぞ!』父親の康平が軽く怒鳴った。
慌てて止める龍一だったが、その鍵は斜めになってしまい、
二度とマイナスに戻る事はなかった。
静かになった龍一に何かを感じた康平がランドセルを見に来た。
『なんでもない!なんでもない!』
龍一が既に泣き声で康平がランドセルに触れようとするのを阻止。
しかし龍一をグイッと有り余る筋肉で持ち上げてどかすと、
ランドセルを手に取った。
壊れている事に気が付いた。
ドン!!!
龍一の顔面に凄まじいスピードでランドセルを投げつけた康平。
衝撃でその頭が大きくバウンドする。
『ほら壊れた!どうすんだ!モノを大事にしろ!バカタレ!』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
明日は入学式なので康平はこれ以上何もすることはなかった。
龍一の学校は巴乃(ともえの)小学校、この日入学式となった。
巴小学校は正方形のグラウンドを建物で囲う作りになっており、
グラウンドとは呼ばず、中庭と呼ぶ。
老朽化が相当進んでいる古い古い校舎は、山奥の宿の様なたたずまいである。
擦り減っており、ガタガタと歪んだ床はドリブルしたら斜めにボールが飛ぶんじゃないかと思う程には遊んでおり、引かれた線も擦れてどこからシュートして良いのかわからない、そんな大きな体育館で入学式が行われた。
1年生の教室に集められた龍一はおしっこがしたくてたまらなくなった。ここで担任である村山康夫(むらやまやすお)先生が神がかった事言う『おしっこしたい人はトイレにいっといれー!』寒々しいギャグだったが、1年生にとっては面白いらしく、村山先生の鉄板だった。
救われた気持ちでトイレでおしっこをする龍一。
『ふー・・・・』マイケル・ジャクソン並みの高音で一息つくと、手を洗って教室に戻る。教室のドアを開けると、さきほどいたクラスメイトが一人もおらず途端に不安になった。全員が冷たい視線を龍一に突き刺す。入学式から龍一はクラスを間違えてしまい、隣のクラスで爆笑をかっさらった。
この巴小学校には『こばと会』という小さな施設があった。
その施設とは、施設と言うにはあまりにあまりではあるが、要するに教室を1つ改造した一室。ここは家に帰っても親がいない、いわゆる『鍵っ子』と呼ばれる生徒をあずかる場所である。私もそのこばと会に入れられることになった。当然のことだが友達と外で遊ぶなんで出来ないが、校内は割と自由だった。私は帰っても親がいるのにあずけられていたのだった、早く帰ってきても面倒くさいから・・・が理由だった。とは言っても毎日ではなく月・水・金と言うローテーションだった。
火曜日は友達と遊ぶことが出来たので、クラスで仲良くなったともだち『沢田(さわだ)君』の家に遊びに行くことにした、沢田君は習い事をしているのでそれが終わったら遊ぼう!と言っていた。
でも待ちきれない龍一は聞いていた隣の町である海岸町の習い事の場所へ行ってみることにした。その場所とは『テコンドーの道場』。背伸びしてかろうじて中が見える窓を覗くと、丸太にロープを巻いたものにキックしたりパンチしたりしている大人が見えた、沢田君もそこに混じってハー!ハー!と気合いの入った声を出してパンチやキックを繰り出している。
黒髪の長いポニーテールのおじさんが窓に近づき『見てないでやりなさい』と龍一に声をかけた。龍一がテコンドーを知った瞬間だった。お金がかかる事は知らなかったが、黒髪のポニーテールは『お金いらないから皆とやらないかい?毎週火曜日に来なさい』と言ってきた。龍一はもう『かっこいい!』としか思っていなかったので『うん!あ、はい!』と元気に返事をした。
『かっこいー!テコドーンかっこいい!』
家に帰ってもテコンドーの興奮が冷めやらず、居間でハー!ハー!と記憶を頼りに構えをやっていると康平にうるさいと怒鳴られた。『テコドーンで絶対父ちゃんをやっつけてやる』そう決意する龍一。
テコンドーを1年間続け、龍一は2年生になった。近所に引っ越してきた成田拓也(なりたたくや)と共に今日は近くにあるとある企業の材料置き場で遊ぶことにした。
『りゅう!今日何する?』
『基地作ろうぜタック!』
材料置き場に丁度少年が身を隠せるほどのスペースがあった。
その上にプラスチックの排水管を乗せて蓋をした。
タックが中に入り、下からその排水管を調整している。
龍一はちょっと離れた場所まで行き、何かないか物色していた。
するとタックの悲鳴が聞こえてきた。
『痛い!痛いよ!やめてよ!ごめんなさい!』
泣きながら叫んでいるけたたましいタックの声。
物陰から顔を出して確認すると、5.6年生の生徒か中学生っぽい男子が4人でタックの隠れているパイプの上に乗り、中に手を入れてタックの髪を引っ張ってパイプにガンガンと何度も打ち付けていた。テコンドーを1年習ったので強くなっているつもりの龍一が走って4人のうちの一人に体当たりをした。その勢いで転んだ1人、すぐさまもう一人が龍一を羽交い締めにし、もう一人がビンタをした。パイプの上からリーダーの様な男の子が下りてきて龍一の頭に拳骨をした。
『こいつ仲間だ!』
一人がそう言うと、羽交い締めにしていた子が龍一を振りまわして転ばせた、そこに4人がかりで踏みつけにかかった。龍一はとにかく顔は守らないと傷付いたら父親にバレると思い、必死で両腕で顔を隠した。その腕の隙間と、舞い上がる埃の中に、パイプをどかして出てきたタックが見えた。
「たすけて・・・」
そう口が動きかけたとき、タックは龍一を置いて走り去ってしまった。
涙が流れた。
『こいつやっと泣いたぜ!はははははは!』
『泣け泣け!リンチだリンチ!』
泣きだした龍一を面白がって4人が更に踏みつけにした。
時折顔を踏まれ、自分の歯がガチン!と鳴る音を聞いた。
『こらー!!!!』
そこにその会社のスタッフがやってきた。
4人はさっさと逃げ去り、助かった・・・と思った龍一だった。
スタッフは龍一を掴みあげて立たせ、家は何処かと聞き、説明したら一緒に行くと言った。
家に着くと玄関をガラガラと開け『すみませーん』とスタッフが言った。
顔を出したのは康平だった。
スタッフは『お宅のお子さんが資材置き場を荒らして困る、ちゃんとしつけて下さい』と康平に言い放つと、康平は丁寧に低調に謝り、玄関を閉めた。
鼻血を流し、顔中擦り傷で服もドロドロ、その姿はボロボロだった龍一。
康平を見上げて『ごめんなさい』と言おうとした瞬間、ビンタされた。
『ごめんなさい』
ちゃんと謝ると、もう一度ビンタされた。
龍一の脳が激しく揺れ、立っていられずコンクリートむき出しの床に倒れた。薄れゆく意識の中で、階段を上がってゆく康平が見えた・・・涙を1つこぼすと、龍一は目を閉じた。
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