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ゴミ屋敷さん
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私は「サービス付き高齢者住宅」で定期巡回職員として働いている。本部からこの3階建ての高齢者住宅へ出向き、決められた時間内に利用者様の居室の清掃や身の回りの世話を行って決められた時間に終えて本部に帰ると言う業務を行っている。
ある日新しい利用者様が入居された。
「浦屋敷 寛子様」
耳馴染の無い名字なので直ぐに名前は頭に入った。身長は150cm程度で、コントに使うような厚いレンズで丸くて太い黒ぶちメガネを鼻に掛け、上目使いで人を見るクセがある。失礼だがその小さくて小太りなフォルムは昭和のお菓子のオマケのようで滑稽すら感じた。
「私の部屋は私が自分でやるので絶対に入らないで下さい」
これが彼女の条件だった、世の中には色々な人がいるので別段気になる条件ではないのだが、本当に掃除できるのか?は気がかりな部分である。
翌日から裏屋敷さんは100mほどの施設の通路を散歩するようになった。両腕を大げさに振るその姿も滑稽に見えたのだが・・・。
ある日私は後ろから散歩する裏屋敷さんの姿を見ていると、扉を開けている利用者様の部屋を全て立ち止まって覗き込んでいる事に気がついた。
「よくいる無神経なおばさん」そんなイメージがあったのだが、ゴミ回収担当の清掃員さんが来ると、今度はそのゴミを乗せた台車を目をガチョウの卵の様にひん剥いて見ていた。その行動を見て滑稽さから不信感へと変わって行った。清掃員の女性を呼んで話を聞くと「牛乳パックは無いか、あったら欲しい」と言っていたと言うのである。
翌日ゴミ箱を一心不乱に漁っている裏屋敷さんを発見し、何をしているのか聞いてみたのだが、答えはやはり「牛乳パックが欲しい」との事だった。「ゴミなので衛生上良くないし、捨てられたものとは言え利用者様が信頼して捨てているものだから、それを差し上げる事はできません、自分が捨てたゴミを他人が使っていると思うはずもないし、考えただけでも気持ち悪い話しですからね、裏屋敷さんはどう思います?」とお話すると、無言で立ち去って行ったが、その後ろ姿は滑稽だった。
いつしか職員の間でも裏屋敷さんの言動は話題になり、利用者様ですら「ゴミ屋敷さん」とあだ名をつけてヒソヒソと笑うようになって行った。
早番のある日、この施設は健康のために朝食時に牛乳が出る事をふと思い出した。厨房からパックでそのまま8本運ばれてくるのだが「そう言えば裏屋敷さんが来てから牛乳パックをゴミ箱で見た記憶がないな・・・」
季節は移り変わり、ゴミ屋敷さんのあだ名もすっかり定着して10ヵ月ほどが経っただろうか、ゴミ屋敷さんは部屋から出て来なくなった。食事は扉の前に置いてちょうだいとの事で、しっかり食べていつの間にか食器が廊下に出されている。時折生存確認をしようとするが中から鍵がかけられている、しかし呼びかけには答えるので失礼だが生きてはいるようだ。心配なのでマスターキーを使用して深夜にこっそり開けてみたのだが、ゴミ屋敷さんは扉の真ん前に椅子を置いて座ったまま眠っており、暗闇の中で目だけをギラギラさせて「今後こんなことしないでちょうだい」と言ってドアをぴしゃりと閉められたのだった。
そんな状況にも慣れてしまい、職員もゴミ屋敷さんを気にすると言う意識が薄れ始め、ノックして生存確認をするだけとなっていたある日、朝食がそのまま扉の前に置かれていたのでノックして呼びかけるが返事がない、職員を呼んで数人で「ゴミ屋敷さん!」「ゴミ屋敷さん!」「いや、浦屋敷さん!」と段々と声を荒げるも返事がない、不審に思った私はマスターキーで部屋を開けてみるが、扉の前にゴミ屋敷さんはおらず、電気をつけると部屋の真ん中に大きな箱があった。
蓋を開けると中で浦屋敷さんが死んでいた。
ゴミ屋敷さんは施設に来てから棺桶を作るために牛乳パックを集めていたのだった。
ある日新しい利用者様が入居された。
「浦屋敷 寛子様」
耳馴染の無い名字なので直ぐに名前は頭に入った。身長は150cm程度で、コントに使うような厚いレンズで丸くて太い黒ぶちメガネを鼻に掛け、上目使いで人を見るクセがある。失礼だがその小さくて小太りなフォルムは昭和のお菓子のオマケのようで滑稽すら感じた。
「私の部屋は私が自分でやるので絶対に入らないで下さい」
これが彼女の条件だった、世の中には色々な人がいるので別段気になる条件ではないのだが、本当に掃除できるのか?は気がかりな部分である。
翌日から裏屋敷さんは100mほどの施設の通路を散歩するようになった。両腕を大げさに振るその姿も滑稽に見えたのだが・・・。
ある日私は後ろから散歩する裏屋敷さんの姿を見ていると、扉を開けている利用者様の部屋を全て立ち止まって覗き込んでいる事に気がついた。
「よくいる無神経なおばさん」そんなイメージがあったのだが、ゴミ回収担当の清掃員さんが来ると、今度はそのゴミを乗せた台車を目をガチョウの卵の様にひん剥いて見ていた。その行動を見て滑稽さから不信感へと変わって行った。清掃員の女性を呼んで話を聞くと「牛乳パックは無いか、あったら欲しい」と言っていたと言うのである。
翌日ゴミ箱を一心不乱に漁っている裏屋敷さんを発見し、何をしているのか聞いてみたのだが、答えはやはり「牛乳パックが欲しい」との事だった。「ゴミなので衛生上良くないし、捨てられたものとは言え利用者様が信頼して捨てているものだから、それを差し上げる事はできません、自分が捨てたゴミを他人が使っていると思うはずもないし、考えただけでも気持ち悪い話しですからね、裏屋敷さんはどう思います?」とお話すると、無言で立ち去って行ったが、その後ろ姿は滑稽だった。
いつしか職員の間でも裏屋敷さんの言動は話題になり、利用者様ですら「ゴミ屋敷さん」とあだ名をつけてヒソヒソと笑うようになって行った。
早番のある日、この施設は健康のために朝食時に牛乳が出る事をふと思い出した。厨房からパックでそのまま8本運ばれてくるのだが「そう言えば裏屋敷さんが来てから牛乳パックをゴミ箱で見た記憶がないな・・・」
季節は移り変わり、ゴミ屋敷さんのあだ名もすっかり定着して10ヵ月ほどが経っただろうか、ゴミ屋敷さんは部屋から出て来なくなった。食事は扉の前に置いてちょうだいとの事で、しっかり食べていつの間にか食器が廊下に出されている。時折生存確認をしようとするが中から鍵がかけられている、しかし呼びかけには答えるので失礼だが生きてはいるようだ。心配なのでマスターキーを使用して深夜にこっそり開けてみたのだが、ゴミ屋敷さんは扉の真ん前に椅子を置いて座ったまま眠っており、暗闇の中で目だけをギラギラさせて「今後こんなことしないでちょうだい」と言ってドアをぴしゃりと閉められたのだった。
そんな状況にも慣れてしまい、職員もゴミ屋敷さんを気にすると言う意識が薄れ始め、ノックして生存確認をするだけとなっていたある日、朝食がそのまま扉の前に置かれていたのでノックして呼びかけるが返事がない、職員を呼んで数人で「ゴミ屋敷さん!」「ゴミ屋敷さん!」「いや、浦屋敷さん!」と段々と声を荒げるも返事がない、不審に思った私はマスターキーで部屋を開けてみるが、扉の前にゴミ屋敷さんはおらず、電気をつけると部屋の真ん中に大きな箱があった。
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