アヤカシバナシ『小説版』

如月 睦月

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箪笥

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大型デパート内の服屋に勤めていた私は、

手先が割と器用な方だったため、手伝いとして家具の組み立てもしていた。

服屋は3階で各コーナーは7階。

店長の鶴の一声なので逆らうことは出来ず、服屋でシフトを組み、

私が家具の組み立てを行えるよう、上司が調整してくれていた。



そんな日々が続き、組み立てるだけではなく空き時間には

家具を拭くのも仕事の一つとして磨いていた時、1つの箪笥の前に、

スナックの包みの破れた一部が落ちていた。

その箪笥はとても大きくがっしりしており、売れないのを見越して、

売り場の隅に置かれていたのだった。

子供が食べながら歩いて落としたのだろう。。。としか思わなかったのだが。



とある朝の全体朝礼の時間、店長がこんなことを言った。



『昨日の夜中、機械警備が反応して警備員が出動する騒ぎがありました、

私も呼ばれて7階の調査を行いましたが特に何もなく、カメラにも

何も映っていませんでした、もしかしたら何かが倒れたりして

センサーが反応したかもしれないとの事でしたので、退社の際は

十分売り場を確認してから帰ってください』



7階と言えば家具コーナーだけど・・・倒れる様なものがあったかな?

そう思い、7階担当の日の空き時間に機械警備のセンサーの場所を確認した。

見る限りではセンサーの範囲内に倒れる様なものは無かった。

そこで私はカメラに写っていないと言うところに着目した。

逆に視界はどこなのか探っていると、確かに誰も居なかった売り場の隅に、

申し訳ないのですが身なりのあまり良くない方が見えた。

え?開店して間もないのにもう家具を見に来たの?と言うのもあり、

不審に思ったのである。と言うのはこのデパートは街の繁華街のど真ん中にあり、いわゆる飲み屋が周囲を囲っているエリアに位置する。

よって開店早々に家具を見に来るお客様等殆どいないのが日常だったからである。

ましてや男性が一人で家具等、このデパートの7階としては、それはもう違和感でしかないのだ。



その男性をマークしていると、ふーっと階下に下りて行った。



おかしいと感じた私は売り場の隅、彼のいたところを調べる事にした。

売り場全体が見えるように立って眺めてみる・・・

カメラを確認すると、なんとここは撮影されていないことが分かった。

売り場の隅のエリアに入り、周囲を細かく確認すると、

あの大きな売れないだろーって言われていた箪笥の観音開きの扉の下、

少し削れて痛んでいる事に気が付いた。

絶対おかしい・・・開け閉めして付く傷じゃない・・・



ゴクリと唾を飲み込んで箪笥を開けると、ムワッと何とも言えない異臭。

そして明らかに後から付けた汚れがあった。



私の中で全てが繋がったので、店長に説明してカメラの位置を1つ動かし、

その箪笥を写すように願い出た。

その旨を話すと、警備も配置させると言う大掛かりな作戦に。



その夜、閉店間際はレジを閉めて閉店業務をするので、

正直売り場の隅まで目が行き届かない。

だからこそお互いに狙い目なのだが、ここは現行犯じゃないとダメと判断。

感覚を鋭くさせながらレジを閉めていると、視界に黒い影が入った。

『来た』と思ったけれど、気づかないふりをしてレジを閉め、

売り場の最終確認をするために見回りをした。

その時はもう黒い影は無かったが、あの箪笥の前からは臭いがしていた、

あの異臭である、汗臭さと生臭さが混じった様な臭い。

間違いないと思い、気づかないふりをして売り場の照明を落とした。

私の仕事は危険だからここまでと言う事で、

以下は警備員さんから聞いた話しをもとに作成した。



完全に閉店してから警備室で防犯カメラの映像を確認すると、

あの男があの箪笥の中に入るのがしっかり写っていた。

店長は『完璧な証拠だね、よし行こう』と警備員を連れて7階へ。

予め7階に逃走防止のために隠れていた警備と合流し、移動。

あの箪笥を取り囲んでケータイで分電盤室の警備員へ連絡。

バン!と一気に売り場の電気が付き、同時にあの箪笥が開けられた。



中にはあの男がいて、寝ていたと言う。



暴れないよう優しく話しかけて詰所へ連行。



話によれば、俗に言うところのホームレス。

数週間前から箪笥に隠れて眠り、開店してからそっと出て行っていたらしい。

トイレに行きたくて出た時にセンサーに触れたようだった。

反省もしていたので、二度目は警察と言う事で帰したそうです。



家具屋さん、売り場で見向きもされていない箪笥、

たまには開けてみた方が良いかもしれませんよ。
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