アヤカシバナシ『小説版』

如月 睦月

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おいで

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いつの世も『心霊スポットめぐり』は若い頃の楽しみであり、夏の風物詩的なものになりつつありますが、当然のことながら私有地であったり、所有者が居たり、ご近所に迷惑をかけたりするのは良くない事で、場合によっては犯罪扱いとなるので『夏と言えば』などとあまり言うのも良くないのですが。

とは言え高校生の私たちにはそういう事が頭にないわけで…興味本位で行った結果、恐ろしい事になったお話です。

車を所有している友人もおり、定時制だったので毎晩夜遊びをしていた私たちは車中でこんな会話になった。

『ねぇ、あそこ知ってる?〇〇町の角の神社から・・・』

『あ!知ってる!

山奥に向かって1時間くらい走るってとこ?』

『そうそう!かなーりヤバいらしいよ!』

『行っちゃう?』

『行くでしょう!』

いわゆるノリで心霊スポットなんか行ってはいけないのだが、
若さと言うのは恐れを知らない。

車内は私を入れて4人。

目標である〇〇町の角、そこには神社がある。参拝する人が居るのか不安になるようなたたずまい。昼間見ればそうだが、深夜を回って見ると、妖怪の住処にしか見えない。

町の灯りを遠ざけて山奥へと入る奇妙な道、別世界へと敢えて足を踏み入れるかのような心持である。入口はここ、行きたきゃどうぞと言われているような気すらする。探して見つけるよりも、導かれるよりも、自ら出向く感覚が異常な程に恐怖を増した…木すらモノノケに見える程に。

押し黙った車内の空気に耐えられず、私が切り出した。

『昨日さぁ、会社に来たお客さんでさぁ・・・』

面白い話を絞り出すが、オチを言っても3人はハハッと乾いた笑みを浮かべる。木々が覆いかぶさり、道はトトロに出てきた木のトンネルのよう。月の明るさすら遮り、車のヘッドライトだけが頼りとなっていた。危ないのでハイビームにするが、それがまた凄まじい恐怖を感じる。必要以上に影が黒く伸び、周囲から見られている気がしたからだ。

助手席のB子がボソッと言う

『戻らない?』

しかしその単語を言い切る前に食い気味で運転手のA子が叫ぶ

『だめっ!!!!!』

『なんで?どうしたの?』

C子が問いかける。

『外を見て』A子がそう言うので私も含め、全員で助手席側の窓を覗き込み、ライトに照らされる箇所を見て息を飲んだ。殆ど車幅でガードレールの無い崖を走っているのだった。右は岩肌でギリギリの状態・・・こんな道を走っているのだ、A子も過敏に反応するわけだ。

『A子ごめん、知らなかった』

『ううん、ごめん、緊張しててつい・・・』

『ゆっくり行こう、ねっ』

『うん、そうだね』

やや暫く危険な道を走ると運動会が三校同時に出来る様な広さの場所に出た。重機があったので、岩を崩して運んだりしている場所なのだろう。ゆっくり周囲を走ると、ぽっかりと口を開けたような漆黒のトンネルがあった。戻るか行くかを少し言い合ったが、結局は深夜1時を回ったあたりで、ここまで来たのに勿体ないと言う意見で一致した。興味が恐怖を凌駕した瞬間だった。

仄暗くて短いトンネルを抜けると崖ではないが、車がすれ違う事は出来ない程の道がまっすぐ伸びていた、こちらへどうぞと言わんばかりに。久しぶりに経験する凸凹道による内臓への振動。大きな穴に落ち、跳ね上がって天井に頭をぶつけ、やっと車内に笑いが循環した。

『ねーねー、今行くところ、どんなところなの?』

情報を持っていなかった私が3人に問いかけた。

『うんとね、フランス人形が家の壁にブワーって貼りつけてあって…』

C子がそう話した瞬間、木のトンネルが終わり、車がUターンできるくらいの行き止まりの空き地に出て、ライトに映し出された家の壁にはフランス人形がびっしりと打ち付けられていた。

『ギャー!!!!!!!!!!!!!!!』

4人はあまりのタイミングに悲鳴を上げた。
山奥なので近所迷惑にはならないのだが。

4人は恐る恐る車を降りると周囲を歩き始めた。車のライトしかないので、自分の影が家に伸びて恐怖が増す。何のために人形を家じゅうに打ち付けたのか・・・そんな事を考えながら家を覗き込むと、奥の部屋に人影があり、友達かな?と1人1人確認するとその影は4人目、つまり私を入れると5人目の存在だった。これは違うと確信した私は後ずさりしたのだが、B子が私の隣で

『ねー・・・誰か居ない?あそこ・・・』と言った。

『し!静かに・・・見えるの?』

『呼んでるよ、行ってみる?』

見るとベタだが手がおいでを意味する動きをしていた。

『だめ、絶対ダメ』

私は空気が悪くなるとかお構いなしで『帰ろう』と言った。3人は思いのほか素直に受け入れてくれて、すんなり帰る事になった。車内ではおいでをした黒い影の話しで盛り上がっていた。

『行かなくて正解!』

『行ったらあの世行き!』

私たちは無事に街に出た。洗車して帰ろうと言う意見でまとまり、近くの洗車場に行くと同じクラスのD子が先輩と一緒に洗車していた。話を聞くとフランス人形の家に行った帰りだと言う。

『私たちもだよ!今帰り!』

『聞いて聞いて!おいでおいでする影が出たんだよ!』

するとD子の先輩が話に入ってきた。

『私たちも見たよね、で、その部屋に入ったよ』

『え!?入ったんですか?』

『うん、D子は怖がって入らなかったけどね。なんか木彫りのマリア像みたいのがあったわ、そんだけ、おいでおいでは見間違いっしょ何かが揺れてそう見えたんじゃない?ハハハハハッ』

先輩を見る限り、どこもおかしい所はなかった。

『見間違いかよー』

『なんだよービビッて損したー』

そんな他愛もない夜を過ごし、朝にはバイトに行って学校へ。
遊んでもサボらないのが私流。

『おはよー』

『おはよう』

A子、B子、C子も元気に来ていた。

『ねぇみんな聞いて!!!!』

そこへ血相を変えてD子が走り込んできた。
机に突っ込む勢いで止まり、一息ついて机をバンと一発叩いてこう言った。

『先輩が事故で死んだんだって』
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