FLY ME TO THE MOON

如月 睦月

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白髪と金髪

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『絶対諦めないでよ!パイロン!

いい?諦めるって、時には大事よ、潔く諦めて次を目指した方が明るい未来に行きつくこともあるの、でもね、諦めちゃいけない時って絶対あるから、それが今なの、言ってる意味わかる?わかるよね?わかりなさいよ!』

『いあ、睦月・・・そんなに難しい話じゃないよ…今諦めるのは死ぬって事だし。』

二人は大量のゾンキーと戦いながら、ひとまず入り込める場所を目指していた。

『これって歴代一位か二位のピンチよね?あ、ピンチって言えば物干しピンチってあるじゃない?あれって何がピンチなの?物干ししててそんなにピンチになる??てかピンチってさ、核融合炉の炉心プラズマを加熱して閉じ込める方式の1つを言うんじゃなかった?物干しと核融合に何の関係があるの?』

『睦月・・・逆になんでそんなこと知ってるのか聞きたいよ。あれは【つまむ】とか【挟む】を意味する方で、二本の指の動きを示したものなの、つまり洗濯ばさみ的な』

『そうなの?じゃぁ二本指で鼻をつまんだら鼻ピンチ?』

『ん・・・・まぁ・・・・うん・・・・』

『じゃぁじゃぁ二本の指でぇ~』

『いや、睦月、もういいよ、つねったら常にピンチ?とか言うんでしょ?』

『は?なんで?つねった方がどうしてピンチになるの?常にピンチって常時ピンチって事でしょ?なんで?大富豪の革命みたいなものなの?てかジョージピンチって漫才のコンビ名みたいじゃない!なんだか許せないんですけど』

得意の如月節が炸裂し始めたので、パイロンは彼女が調子がイイ、ノッて来たと感じていた。

しかし一向に状況は変わらない。

そう、戦う場所が悪いのだ、思い通りに移動できず、かといって広くもなく狭くもない、密集されると手が付けられず、多少バラついていても走り抜けるのがなかなか難しいのだった。

やはりここは倒していくのも1つだが、突き飛ばして通路確保も1つ。

パイロンが考え、如月に伝える。

『睦月!あなたは八極拳を駆使してゾンキーを突き飛ばして!私は睦月の後ろに付く!あなたの周囲を守る!この作戦どぉ?』

『乗った!行くよ!行くけどいいよね?』

如月のしつこい問答をうまく切り抜けた瞬間でもあった。

如月は力強く踏み込んでは両手を前に突き出し、前蹴りから鋭い体当たりなどで徐々に周囲のゾンキーを跳ね飛ばして通路を確保しながら前に前に進んだ。内心は1体1体丁寧に破壊したい如月だったが、今回はパイロンの策に従い、モーゼの如くゾンキーの海を一直線に割ってくのだった。

左右から迫るゾンキーはパイロンが突き飛ばして如月の補助をした。

階段を上がり、上は如月、下はパイロンが守りながら進む。しかし上から来るゾンキーを突き飛ばすのは難しかったので如月は潜り込んでから勢いで抱え上げて後ろに捨てるようにする。パイロンは左後ろに付き、それを喰らわないようにしつつ、上ってくるゾンキーにバールでスマッシュを決めていった。

倒すよりどかす、そんな作業だ。

押しのけ、突き飛ばし、警備室へと近づく2人。

『警備室へ入るよ!』

『はい!』

もう少しの距離だが、押せども押せどもゾンキーの波が帰ってくる。

如月の腕は限界を迎えていた、パイロンもラケットではなくバールを何十回も振り下ろしているのだから、腕がパンパンだ。この時疲れを知らないと言うゾンキーの恐ろしい部分を知った如月は、【死者の書】にそれを書き込みたかった。こちらは圧倒的戦闘力、しかし倒さない限り攻撃を止めないゾンキー。やがて疲れが支配し、攻守を逆転させてしまう。長期戦となれば100%勝ち目がないと言う事だ。殺したいが殺す時の隙が危険なのだ、瞬発力を考えると押したり突き飛ばすのが早い、武器が頭から抜けなくなる等の事故が怖かったからだ。

ここは踏ん張るしかない。

やっとの思いで警備室へ辿り着いた。

『パイロン入って!はやく!!!』

如月がそう叫ぶと、パイロンが如月の横をすり抜けるようにして警備室の中へ飛び込んだ。とととっと数歩前に出てパイロンは振り向いた。

『睦月!はやく!』

如月が中に入り、閉めようとした時丁度のタイミングで1体のゾンキーが上半身だけ入れてきた。挟まって閉めることができない。

『あー!もう!よくあるやつ!映画でよーくあーるやーつー!』

如月は怒りと呆れの入り混じったセリフを吐くと、身体を入れてきたゾンキーごとドアに体当たりそする。ドアがバタン!と勢いよく閉まり、そのゾンキーは上半身だけになって床に落ちた。必死に如月に手を伸ばし、歯をカチカチと鳴らしている。

『がっつかないでよ!』そう言うとうつぶせ状態から身体を起こして手を伸ばすそのゾンキーの顎に対し、床にある石ころをすくい上げるように、凄まじい鋭角のアッパーをお見舞いした。

中の如月はドアを押すことになる構造なので、そのアッパーをした隙にドアが少し開いて、ゾンキーのうめき声がする。慌ててドアを抑えに飛び込む如月。

ドン!ドン!

外から叩くゾンキー、その度にドアが少し跳ねては閉まり、そのリズムに合わせて如月の白髪が揺れた。決してノリの良いリズムではないのだが。

『パイロン!行って!押さえてるから行って!』

如月がドアを塞ぎながらそう叫ぶ。

『無理だよ睦月!押さえきれるはずないよ!』

パイロンも駆けつけてドアを押すが、一気に集合したゾンキーが前に前に進む力は想像以上に強かった。

『死んでるくせに力が強いって矛盾してると思います!筋力低下とか死後硬直とかしてほしくて申し訳・・・』

『パイロン!スティールが来るかもしれない、あなたがちゃんと待ってあげて、生きて待ってあげて』

『ここにはもう一つドアがあるから睦月!そこから出よう!』



ドンドン!



そのもう一つのドアにもゾンキーが集まってきたようだった。

『うそ・・・・じゃ、じゃぁトイレにある通気口から出よう!私一度通ってるから、大丈夫だから!』

『じゃぁ先に行って、少しタイミングずらさないとトイレは狭いから』

『ほんとだね?ほんとに直ぐ来るのね?睦月、返事して!』

『行くから、ね、パイ・・・ダイジョブだから』

『嘘!!!!その目は嘘で申し訳ございません!』

『てめぇいけっつってんだろうがよ!いけっつったら行かんかいかいワレボケカスコラァ!ワシが行けゆーたらガーッつってチャチャー入って、シャーって上がればええやんけ!!!』

『うるさいうるさいうるさい!凄んだってダメよ!睦月!あなたはそういう人!自分を犠牲にしても仲間を助ける人!わかってるんだから!でもダメよ、私が認めない!』

『じゃぁどねいせーっちゅーんじゃこの状況!2人とも死ぬことないやんけ!だからハヨ行けや!』



『ダメったらダメ!』



パイロンはバールを握り直し、如月アッパーを喰らった床のゾンキーの眼球目がけて一撃をぶちかました。続けざまに隙間から手を入れてくる奴らの手をバールで次から次へと刺し始めた。

とにかく必死で刺し続けた。

『無駄だってパイロン!逃げて!』

『睦月さっき諦めるなって言ったよね?言い出しっぺが諦めてんじゃねぇよ!しっかり押せや白髪野郎!』

『ちょ!ワレかてパツキンやないかい!センスの欠片もない、ショーもない色しやがってからに!』

『しらがよりましじゃ!』

『はくはつって言え!しらが言うなボケ!』

『誰がボケじゃ!私は地毛だ地毛!』

『ワシかて薬の影響じゃ!』

『薬中やないかい!』

『そんな中学校出てへんわ!』




ユゥアッショーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!!




『は?』『え?』




ドパパパパパパパパン!



あいでぇ~ダララぁっ ダララぐるぅうううううう!!!♪



ユゥアッショーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!!



ドパーン!パパパーン!



凄まじいデスボイスと爆発音が聞こえた。



『デスボイス?????』『だったね・・・・』




『????????????????????』




『スティール!』『スティールちゃん!』



押されなくなったドアを開けると、通路は眼球が破裂したゾンキーでびっしり埋まっていた。グチャッと言う音と共に2人の目の前に現れたのは拡声器を持った羽鐘とお爺さんだった。

『如月さん!』

『スティール!』『スティールちゃん!』

3人はスクラムを組むように抱き合った。

今までの時間を取り戻すように抱き合った。



『やっと会えたね』



その姿を見て、虎徹は微笑みながら涙ぐんだ。
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