FLY ME TO THE MOON

如月 睦月

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友達

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何分経過しただろう・・・



もしかしたら何日も経過しているのかも…



『ゴホッ・・・・』



自分の咳で気が付いた如月。

隠れた棚のドアがボロボロになっており、何とか動く身体をよじり、右手で触れただけで崩れ落ちた。
音を立てないようにゆっくり体を動かし、四つん這いのまま這い出て、顔を上げてみると、真っ黒に焼け焦げて口から煙を黙々を吐き出しているゾンキーがゴロゴロと横たわっていた。中には血液が煮えたぎっているように、喉の奥でゴボゴボ言っているゾンキーもいた。

そこら中に頭や腕、足、内臓が散乱している。肉はこんがりと焼けていたが、焼肉のあの食欲をそそる匂いではなく、ただただ何かが燃えた不快な臭い、鼻の奥に刺激を感じるものでしかない。

ゆっくりその地獄のような光景を見渡して小さく言葉を発した。



『助かったんだ・・・』



自分のすすだらけになり、熱で少しやけどした両手を広げて見つめ、言葉は弱弱しくも心では強くありがとうと感謝した。それは神へ向けたものなのか、何となく出た言葉なのかはわからない。



『あ・・・2人は?』



周囲にゾンキーがいるかもしれないし、煙を吐いているゾンキーが目覚めないとも言い切れないので、静かに2人が隠れたはずの棚の扉に向かった。扉の穴に手を入れて引きはがすと、そこにはパイロンが目を閉じて倒れていた。
安心した如月は優しく頬に手を置き『パイロン・・・パイロン』と呼びかけながらゆすってみた。


『う・・・うーん・・・』



目を擦ると目の周りがすすで真っ黒になったパイロンは、如月に気が付き、ろうそくが溶けるように顔がみるみる崩れ、パンダのような顔で声を殺してひきつるように泣いた。



『むじゅぎぃ~ごわがっだよぉ~』




スティールはどこか聞き、パイロンが指差した扉を引きはがした。その衝撃と音で飛び起きて、棚の天井に頭を強打した羽鐘。



『いっっつ・・・』



『大丈夫だった?ケガはない?』



如月の問いに

『はい、如月さんもよくぞご無事で・・・』



ゴホッ・・・ゴホッ・・・

オエッ・・・ぼへぇっ・・・

そう言うと何度か咽て嗚咽した。



羽鐘の言葉でふと自分が何をしたのか脳が鮮明に思い出した。そして今がどんな状況なのかを。辺りを改めてもう一度見回すと、ガラスが全て割れ、ドアも吹き飛び、壁もところどころ崩れ落ちて真っ黒に焼けた跡があった。キナ臭いってのはこういうのを言うのか…焼きキナコのことじゃないんだな…そう思いながら、先ほどは地獄を頭で感じたが、危機を脱したことに今は心から安心した如月。



『学校・・・・吹っ飛ばしちゃった』



少し笑顔で2人に向かって如月が言うと、

『先生には黙ってるよ』

とパイロンが答えた。



『はぁっ!は!わわわ!』



慌てながら言葉にならない言葉を言いながら目をまん丸くした羽鐘。その目の方向を見ると、吹き飛んだが脳の破壊に至らなかったゾンキーが数体動き出していたのだった。



『長居は無用だね、行くよ』



如月が足を運び、2人も転がって燻っている肉片を避けながらその後ろについて廊下に出た。廊下の向こう側から燃えカスゾンキーが数体歩いてくるのが見えた。階段の下からも数体上がってきた。如月が思っていた以上にゾンキーが集まっているようだった。あの時警戒していた挟み撃ち状態に陥ってしまったようだ。



『まずいよぅ、一難去ってまた一難で申し訳ございません。』



『武器は持ってる?』の如月の問いかけに、

『はい!』と応えるパイロン。

『羽鐘!羽鐘!ねぇスティール!』

強めに怒鳴るとやっと羽鐘が振り向いた。



『どうしたの?しっかりしなきゃ!』

と眉間にしわを寄せて羽鐘を見つめた。

羽鐘の見ていた先にはいじめを行っていたあの2人、ゾンキー化した恵美と涼が居たのだった。爆発で施錠していた音楽室のドアが壊れ、出てきたのだった。



『あの2人?あの2人に何かあるのね?』

如月が聞く。

『う、うん。。。いいの、大丈夫』

と羽鐘。



何か考えなきゃ・・・・如月は下唇を噛んだ。

パイロンは何もない様子だ、顔を見ればわかる。

今の羽鐘は様子がおかしく期待はできない。

何気なくポケットを漁ると鍵があった。



『鍵?』

プレートには防火シャッターと書いていた。

何気なくあの時取った鍵・・・。如月は『これだ!』と言うと、防火シャッターの蓋に鍵を挿し、パカンと開けると真っ赤なボタンをチカラ一杯押した。恐ろしくゆっくりと、そしてガラガラと迷惑な程に大きな音で下りてきたシャッター。

如月が声をかける。

『羽鐘!こっち見て!羽鐘!』

『え?・・・うん』

力の無い顔で如月を見る羽鐘。

『いい?シャッターを下ろして階下に向かうの、階段から来るゾンキーはパイロンが対応する!私は前から来るゾンキーを食い止めるから!あんたはあんたのケジメ付けな!』と真顔で言った。

サプライズ発表に驚いたが、快く『うん!』と言ったのはパイロン。



『え・・・あの・・・・』



戸惑う羽鐘に如月は更に強い口調で言う。

『立ち止まって2人を見つめていたあなたの目は悲しさじゃなかった、怒りの目だった、何があったかは知らないけど、あなたがこの先前向いて生き抜く為に、ケジメ付けな!あんたはスティール!鋼の強さを持ってるはずだよ!』



目前に迫ったゾンキーを殴り倒し始めた2人。



パイロンの全国レベルのスマッシュで確実に数を減らす!格闘術とパイレンで応戦する如月!

なぜここまでしてくれるのか・・・・無視して行ってもいいのに、なぜわざわざケジメ付けさせてくれるのか・・・皆目見当がつかなかったが、一度目を閉じ深呼吸をし、カッ!と目を開いて少し足を引きずりながら恵美に近づいた。

『ぜんぶ・・・全部・・・・全部・・・・私から友達を奪ったのだけは許さない!私にしたこと全部許さない!絶対に許さない!』

そう叫ぶと2人を相手にハンマーで殴りかかった。



這ってくるゾンキー、燃えカスゾンキー、非常階段からも更にゾンキーが上がってきており、人数で押し切られそうだった。倒しても倒しても先が見えない恐怖を感じる程に。倒しているのに減っている気がしないのはモチベーションが維持できない。

如月はここまでと判断し『パイロン!行ける?』と、階段担当のパイロンに聞いた。『こちらからはもう上がってこなくて申し訳ございません!』とはっきり聞こえた。防火シャッターも半分まで下り、走ってギリギリじゃないかと言ったところ。

恵美と涼ゾンキーの頭をめちゃくちゃに潰して棒立ちする羽鐘に『羽鐘!ねぇスティール!早く!走って!』と如月が声をかける。

ゆっくり振り向いて笑うと、羽鐘は『足をくじいてるから無理です、復讐は果たしたけど、どうせ友達も居ないし、帰って親が居なかったら独りだから…ありがとうございました』と、ここに残ると言う意思と取れる発言をした。

如月はズンズンズンと羽鐘に駆け寄り、思いっきりビンタをした。



パァン!!!!!



『復讐だぁ?復讐したんだったらその2人分も生きろやこの地獄で!復讐したから自分も死ぬとか馬鹿かてめぇ!ボケカスゴルァ!!死を選ばせるためにケジメ付けさせたんやない!背負えよちゃんと!今を、運命を!前向いて生きろや!ちゃんと生き抜けや!そんな顔して突っ立てたらこの先に進めないで!ワシらと!』

如月は羽鐘の腕を肩にまわして、速めの二人三脚のように移動した。そのさなか羽鐘は『ワシらと?』と聞き返した。

『ここ抜けてからや!もう一度聞きたかったら死んでも抜けなアカンで!走れボケ!』


『いあ、死んだら聞けないですよ』


『言葉の蚊帳や!』


『わーい!これで蚊に刺されず眠れるぞ!って違いますよ!言葉の”アヤ”ですよね?』


『ノリいいやんけ!飛ぶで!飛び込むで!』


計算よりもずっと下りていた防火シャッター、それは無情に非情、一切止まることはない。



ズザザーーーーーーーーー!



2人で飛び込んだが滑りが悪く途中で止まってしまった、くっ・・・終わったか!と2人が思った瞬間、パイロンに胸ぐらを掴まれグイッと引っ張ってもらい、間一髪セーフだった。

『あー・・・・・・終わったって思ったわマジで・・・パイロンサンキュー!ありがとう!』

如月が大の字で腹筋と、レースの大人っぽいパンツ丸出しでそう言った。

『あの・・・さっきの・・・』

羽鐘が如月を覗き込むように、でも恐る恐る話しかける。



ピョン!と跳ね起きると

『友達でしょ?一緒に来いよ!』

と言った。



パイロンも

『一緒に戦ったじゃない、羽鐘ちゃんは信じられる、もう友達だと思って申し訳ございません』と羽鐘の肩をポンと叩きながら言った。


ここまでしてくれた意味が理解できた。あの時、この2人もいじめをする奴らと同じかと思ったことを恥じた。隙あらば逃げ出そうと思っていた事を悔やんだ。一気に羽鐘の穴の開いた空っぽの心が何かでいっぱいになって、いっぱいいっぱいになって、涙となって溢れ出た。

涙と言うにはあまりに大きな粒だった、でも、それを涙と言うにはあまりに単純すぎた、言葉では言い表せない感情が爆発したのだ。羽鐘は思いっきりぼろぼろと気持ちいいくらい泣いた。天を仰ぎ、口を大きく開けて、声を出さずにがっつり泣いた。涙が枯れる程にいっぱいいっぱい涙を流した。経験してきた嫌な事を全て洗い流すかのように。



そして羽鐘に今日、友達が出来た。



3人は落ち着いたところで、やっと校舎の外に出ることができた。思いのほかゾンキーは外にはおらず、爆発と乱闘で概ね片付いた様子だった。この程度なら気を付けていれば行けるわねと思い、気になっていた体育館に目をやった。水銀灯はついたままだったが、体育館の大きなアルミ色の扉はしっかりと閉まっていた。まだ試合をしているはずがない、だとしたら外の様子を知って、立て籠もっているのかも。今なら安全と教えるべきだろうか。

そう考えていると丁度のタイミングでパイロンが

『体育館の人たち助けた方がいいんじゃない?』

とボソッと言い、続けて

『確かバスケの練習試合でたくさん残ってるはずだよ』と言った。

行こうと誰かが言ったわけでもなし、合図をしたわけでも、話し合って決めたわけでもないのに、3人は体育館に向かう。まるで誘われているかのように。

そこへ校舎の角からフラフラと体育教師の伊藤が出てきた。腕が血だらけでブラウスが裂けていたので、ゾンキーに襲われたのでは?と3人が3人普通に当たり前に怪しんだ・・・。

キョロキョロと周囲を伺い、こちらに気づき、絵にかいたような『は!?』と言う顔をして近づいてきた。『はぁあああ、助けてお願い!体育館の中にまだ動けない生徒がいるの!』そう叫ぶと如月と羽鐘の背中を体育館の扉の方へ押した。

押され歩きしながら如月が

『その傷はどうしたんですか?』

と聞くと、

『逃げるときに角にひっかけたの』

そう言うと扉の前まで押した。

パイロンは背中を押す伊藤の後ろに付いて行く。



『早く!お願い!』と伊藤が急かす。



ズズズズ・・・



2人が扉を開けると伊藤が2人を思い切り突き飛ばし体育館の扉を閉めて鍵をかった。そのカギをなんと飲み込み『みんな!ご飯だよ!』と叫びながら扉をドン!ドン!ドン!と先の尖った黒いパンプスで三回蹴った。

何が起こったのかよくわからなかったパイロンだが、落ち着きを取り戻し『何してるの?扉を開けて下さい!』と怒った。

伊藤は口元でフッと一度空気を吐き出しながらニヤリと笑うと、

『私は噛まれたの、その前に噛まれた生徒を見たわ、だからどうなるか知ってる・・・。あの白髪、如月睦月よね?3年の。私さぁ、高校生と付き合ってたんだわ、可愛くってさ、そしたらその彼がね、2日前にあの娘が気になるから別れてくれって。自分が死ぬってわかった今、ものすごく悔しくなったの・・・そんなもんでしょ?恨みとか妬みとかって、あいつも死ねばいい、体育館の中は病人だらけよ!ざまぁみろだわ!ここでギリギリ私に会うとか、ほんとざまぁみろだわ如月!はっはっはっはっは!』

その高笑いの真っ最中に、怒り爆発のパイロンが大きく開けた口にバールを刺し込んで、そのまま左に思いっきり体重をかけて態勢を崩し、体育館の5段ほどのコンクリートの階段の最上段に頭を叩きつけた。スイカを叩きつけたように頭が砕けた。うっすらピンク色した脳が飛び散り、伊藤の黒目はゆっくりと上に上がり、白目だけになって、釣られた魚のような全身の痙攣が止まった。パイロンはその姿を見てもなお、引き抜いたバールで2度3度殴りつけた。



『わがまますぎます!』



そう叫びながら。



-----------------------------------------



『うそでしょ・・・・』



そう言い放つ如月と羽鐘の目の前にはゾンキーとなりかけがざっと30人ほど居た・・・。私の計算通りの人数じゃん・・・と思いつつ、羽鐘に言った。

『鍵をかわれたわ、罠的なやつにハマッた感じね、外はきっとパイロンが何とかしてくれる!私たちは戦うしかないよ!やれる?やれるよね?はいって言いなさい!』

『はい!』奥歯を噛み、

ハンマーをギュッと握りしめる羽鐘。



『あ、スティールってナニ部?』



唐突に如月が訪ねた。
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