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6 出会い
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「えっとさっきこっちから来たのよね? だからこっちの道なはずで……。あれ? でもこれじゃあ今度はあっちの道と食い違ってるわ。ああ、本当にここはどこなの!?」
もうどうしようも無くなって、道の真ん中で私はお手上げ状態になっていた。
何度メモ紙と照らし合わせて確認しても現在地と紙に記された場所が噛み合わない。
「仕方ない。ここは誰かに道を聞くしかないわ」
そう決意し、グッとメモ紙を握りしめる。
生まれてこの方十七年。あまり屋敷の外に出る生活をしてこなかった私には土地勘というものが養われなかったようだ。
ましてやここは故郷のロアン王国ではなく、商人の国アゼルシャン。人との繋がりが縁を産む国というのなら、これもまた修行の一貫なのかもしれない。
ラティシアと常に比べられていたがために頼れるものもなく、家庭教師で勉学は事足りていたがために人と話す機会が極端に少なかった私は、いわゆる人見知りする人間だった。
「落ち着いてレティアナ。道を聞くだけよ、ただ人に声をかけて、ここがどこか、そしてどこへ向かえばいいかを聞くだけよ」
落ち着いて深呼吸する。
目を閉じて気を落ち着け、自分を叱咤する。
――よし、目を開いて一番最初に視界に入った人に声をかけるの。できるわね、行くわよレティアナ!
気合いと共に目を開けた私は一番最初に目に飛び込んできた外套を深く被った男に声をかけた。
「あの、すみません!」
「ああん?」
振り返った男に道を聞こうとして――私はその場で固まる。振り返った男は明らかにこう……人相が悪い男だったのだ。
よくよく見れば顔には傷があり、外套で覆われた身体は普通の人より一回り大きい。振り返ると同時に外套から見えた腕は鍛え上げたもので、腰から下げた無骨なナイフが意味深に光る。
「なんだ嬢ちゃん。今、俺に声をかけたかい?」
ドスの効いた低い声。
迫力のある三白眼から放たれた眼光に、口元が笑みを作る。
ニタァ、と効果音をつけたくなるようなその笑みは私の全身を竦ませる程度には迫力を含んでいて、私はプルプルと震えが止まらなくなった。
しまった。間違えた。これは声をかけてはならない部類の人間だ。
反射的にそう思ったが、後の祭りである。
「嬢ちゃん、何用かと聞いてんだが?」
「ひっ!」
私が返事をしないことを不審に思った男が私を覗き込んでくる。私は思わず小さく声を漏らした。
声をかけた手前、何も聞かない訳にもいかないのだが、何も思いつかない。
どうしようとあせる間にも男が私に近づいてくる。
やばい、と思うのに恐ろしさが先立って声が出ない。
私は思考をぐるぐるとさせながら、天命を待つ人のように目をぎゅっと瞑った。
「――おい、何してるんだ?」
プルプルと震える私と男の間に、そんな声が割り込む。恐る恐る目を開くと、人相の悪い男と私の間に一人の青年が立っていた。
歳の頃は私と変わらないくらいで、出で立ちは商人には見えない。青年も腰から剣を吊り下げているところを見ると剣士か商人が雇った傭兵だろうか。
何よりその青年は目を見張るような美貌をしていた。眩い金髪に、水晶のような青い瞳。
そのあまりの綺麗さに、私は惹き込まれそうになる。
「おい?」
「あ、はい! ごめんなさい!」
青い瞳に視線が向いていた私は不機嫌そうな青年の声に思わず頭を下げた。
今度は青年が訝しみの表情を浮かべる。
この状態どうしよう。
私はさらにこんがらがった状況に頭を抱えたくなった。
もうどうしようも無くなって、道の真ん中で私はお手上げ状態になっていた。
何度メモ紙と照らし合わせて確認しても現在地と紙に記された場所が噛み合わない。
「仕方ない。ここは誰かに道を聞くしかないわ」
そう決意し、グッとメモ紙を握りしめる。
生まれてこの方十七年。あまり屋敷の外に出る生活をしてこなかった私には土地勘というものが養われなかったようだ。
ましてやここは故郷のロアン王国ではなく、商人の国アゼルシャン。人との繋がりが縁を産む国というのなら、これもまた修行の一貫なのかもしれない。
ラティシアと常に比べられていたがために頼れるものもなく、家庭教師で勉学は事足りていたがために人と話す機会が極端に少なかった私は、いわゆる人見知りする人間だった。
「落ち着いてレティアナ。道を聞くだけよ、ただ人に声をかけて、ここがどこか、そしてどこへ向かえばいいかを聞くだけよ」
落ち着いて深呼吸する。
目を閉じて気を落ち着け、自分を叱咤する。
――よし、目を開いて一番最初に視界に入った人に声をかけるの。できるわね、行くわよレティアナ!
気合いと共に目を開けた私は一番最初に目に飛び込んできた外套を深く被った男に声をかけた。
「あの、すみません!」
「ああん?」
振り返った男に道を聞こうとして――私はその場で固まる。振り返った男は明らかにこう……人相が悪い男だったのだ。
よくよく見れば顔には傷があり、外套で覆われた身体は普通の人より一回り大きい。振り返ると同時に外套から見えた腕は鍛え上げたもので、腰から下げた無骨なナイフが意味深に光る。
「なんだ嬢ちゃん。今、俺に声をかけたかい?」
ドスの効いた低い声。
迫力のある三白眼から放たれた眼光に、口元が笑みを作る。
ニタァ、と効果音をつけたくなるようなその笑みは私の全身を竦ませる程度には迫力を含んでいて、私はプルプルと震えが止まらなくなった。
しまった。間違えた。これは声をかけてはならない部類の人間だ。
反射的にそう思ったが、後の祭りである。
「嬢ちゃん、何用かと聞いてんだが?」
「ひっ!」
私が返事をしないことを不審に思った男が私を覗き込んでくる。私は思わず小さく声を漏らした。
声をかけた手前、何も聞かない訳にもいかないのだが、何も思いつかない。
どうしようとあせる間にも男が私に近づいてくる。
やばい、と思うのに恐ろしさが先立って声が出ない。
私は思考をぐるぐるとさせながら、天命を待つ人のように目をぎゅっと瞑った。
「――おい、何してるんだ?」
プルプルと震える私と男の間に、そんな声が割り込む。恐る恐る目を開くと、人相の悪い男と私の間に一人の青年が立っていた。
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そのあまりの綺麗さに、私は惹き込まれそうになる。
「おい?」
「あ、はい! ごめんなさい!」
青い瞳に視線が向いていた私は不機嫌そうな青年の声に思わず頭を下げた。
今度は青年が訝しみの表情を浮かべる。
この状態どうしよう。
私はさらにこんがらがった状況に頭を抱えたくなった。
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