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刀の主人は美少女剣士
十一 ガチでやるのも悪くない
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「多分ひでえ目にあった気がする……」
「すみません、つい……」
昼。
とりあえず目を覚ました俺だったが、まだ頭がクラクラしている。
多分ボッコボコにされたんだろう、ってことは分かる。分かるけど、何がどうなっての部分がスッポリ抜けてしまっていた。
「文河岸さん、どこかで修業なされたんですか?」
「え? ああ、子供の頃に少し。そんなに真面目にはやってませんでしたが」
「それだけであんな動きを……」
「怜ちゃんの場合は、実戦で鍛えたのが大きいねー。あやかし相手の立ち回りは10や20じゃきかないくらい場数踏んでるから……」
「それでも、あいつらは力技がほとんどだからな。あれほど洗練された無駄のない動きに対応するのはキツすぎる」
小梅の入れてくれたお茶をすすり、ため息を一つ。それからゆっくりと空を仰ぎ見ながら、考えをまとめてみた。
――実際、如月さんは強い。力にも技にも無駄に頼ることなく、常に最短の距離を突いてくる。
スピードで言えば、これまでに出会ったあやかしにはもっと速いやつはいた。先日の鎌鼬なんかもそうだ。
だが、彼女の速さはそういうものとはまた違う。鍛錬と読み、極限まで上げた効率。そういうものを総合的に扱って、あの速度を出しているのだ。
もう二度とタイマンなんかやりたくない。
「大丈夫? 午後からはサバゲだけど……」
「大丈夫だ。次は小梅と組める」
俺と如月さん、人間だけでは勝負にならなかった。
そして、小梅と正宗氏を比べても、恐らくそう差はないだろう。
だが、俺と小梅、如月さんと正宗氏のコンビ同士ならどうだろう。
俺は正直、負ける気がしなかった。
「如月さん、サバゲはどこでやるんです? この辺だと遮蔽物もないですし、あまり観てても楽しくな……いや、その」
無理もない話ではあるが、猩々さんは完全に観戦モードだ。まあ他にやることないしね。
「2対2だし、あんまりフィールドが広くても成立しづらいですよね。どこか手頃な場所があればいいんだが」
「それなら問題ありません。この空き地の奥にちょっとした森があります。歩いて行けるところなので、そこでやりましょう」
「それはいいですが……。ちょっと気になることがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「ここもですけど、誰かの私有地だったりしません?」
「あ、それも問題ありません」
そう言って如月さんはにっこりと笑った。こう見ると清楚なびじんなんだけどなぁ。
「ここ一帯は、私の師匠が代々持っている土地ですから。使用許可ももらってますから、存分に暴れ倒していただいて」
「暴れ倒すて。まぁ、そういうことならいいんですが……。てことはこのあたりに工房があったりするんですか」
「ええ。なので、地の利は正直、私にあります。勝手知ったる、というやつですね」
なので、と如月さんは続けた。
「先ずは文河岸さんたちが自由に行動する、5分後に私たちが動き始める、という形にしたいと思ってます。如何でしょう?」
「分かりました。それでいきましょう」
そんな訳で、午後からのサバゲはゲリラ戦の様相を呈してきたのだった。
――――
「じゃ、始めますか! スタートは14時丁度、あと3分ほどです! 制限時間は1時間、その間にどちらかが参ったすればそこで終了です! あくまでも本番に向けての訓練なので、そこんとこはお忘れなく!」
自称大会委員長の猩々さんが高らかにルールを説明している。いや大会ってなによ。
「ねーねー怜ちゃん」
「ん?」
俺の横にいる小梅が、俺を見上げてニッコニコしている。
「あたし、ちょっと楽しくなって来ちゃった」
「呑気さんめ」
「そんなこと言って、怜ちゃんも笑ってるじゃん」
そういえばいつの間にか緊張も疲れも取れて、寧ろ程よい高揚感が湧いてきていた。いつの間にそんなバトルジャンキーに。
「まぁ、気持ちは分かるけどさ」
「ね、とりあえずどうする?」
「そうだな。とりあえずこのまま森に入る。後追いで如月さん達が来たところで、出方を決めよう」
「おっけー」
負ける気はしないとは言ったものの、今回初めて、俺と小梅の合体スタイルを試すことになる。
慣れている分もあり、技術的には間違いなく向こうがかなり上だ。
ただ、サバゲスタイルという条件もあり、単純に技勝負というわけでもない。
二人の呼吸をどこまで合わせていけるか。
俺たちに勝機があるとしたらそこだ。
そして、その一点において、俺と小梅が負ける事はまずあり得ないと思っている。
「さあ、カウントダウンです! 10、9、8……」
いよいよか。
俺と小梅は打ち合わせ通り、二人で森に足を向けた。
如月チームをちらっと見ると、向こうも少し緊張した面持ちで森を見つめている。
相手はあの森に精通してる。下手な小細工をするより、こちらで決めた場所に誘い出す方がいいかもしれないな。
「……4、3、2、1、スタートっ!!」
「っし!」
猩々さんの合図で、俺と小梅は弾けるように走り出した。
「すみません、つい……」
昼。
とりあえず目を覚ました俺だったが、まだ頭がクラクラしている。
多分ボッコボコにされたんだろう、ってことは分かる。分かるけど、何がどうなっての部分がスッポリ抜けてしまっていた。
「文河岸さん、どこかで修業なされたんですか?」
「え? ああ、子供の頃に少し。そんなに真面目にはやってませんでしたが」
「それだけであんな動きを……」
「怜ちゃんの場合は、実戦で鍛えたのが大きいねー。あやかし相手の立ち回りは10や20じゃきかないくらい場数踏んでるから……」
「それでも、あいつらは力技がほとんどだからな。あれほど洗練された無駄のない動きに対応するのはキツすぎる」
小梅の入れてくれたお茶をすすり、ため息を一つ。それからゆっくりと空を仰ぎ見ながら、考えをまとめてみた。
――実際、如月さんは強い。力にも技にも無駄に頼ることなく、常に最短の距離を突いてくる。
スピードで言えば、これまでに出会ったあやかしにはもっと速いやつはいた。先日の鎌鼬なんかもそうだ。
だが、彼女の速さはそういうものとはまた違う。鍛錬と読み、極限まで上げた効率。そういうものを総合的に扱って、あの速度を出しているのだ。
もう二度とタイマンなんかやりたくない。
「大丈夫? 午後からはサバゲだけど……」
「大丈夫だ。次は小梅と組める」
俺と如月さん、人間だけでは勝負にならなかった。
そして、小梅と正宗氏を比べても、恐らくそう差はないだろう。
だが、俺と小梅、如月さんと正宗氏のコンビ同士ならどうだろう。
俺は正直、負ける気がしなかった。
「如月さん、サバゲはどこでやるんです? この辺だと遮蔽物もないですし、あまり観てても楽しくな……いや、その」
無理もない話ではあるが、猩々さんは完全に観戦モードだ。まあ他にやることないしね。
「2対2だし、あんまりフィールドが広くても成立しづらいですよね。どこか手頃な場所があればいいんだが」
「それなら問題ありません。この空き地の奥にちょっとした森があります。歩いて行けるところなので、そこでやりましょう」
「それはいいですが……。ちょっと気になることがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「ここもですけど、誰かの私有地だったりしません?」
「あ、それも問題ありません」
そう言って如月さんはにっこりと笑った。こう見ると清楚なびじんなんだけどなぁ。
「ここ一帯は、私の師匠が代々持っている土地ですから。使用許可ももらってますから、存分に暴れ倒していただいて」
「暴れ倒すて。まぁ、そういうことならいいんですが……。てことはこのあたりに工房があったりするんですか」
「ええ。なので、地の利は正直、私にあります。勝手知ったる、というやつですね」
なので、と如月さんは続けた。
「先ずは文河岸さんたちが自由に行動する、5分後に私たちが動き始める、という形にしたいと思ってます。如何でしょう?」
「分かりました。それでいきましょう」
そんな訳で、午後からのサバゲはゲリラ戦の様相を呈してきたのだった。
――――
「じゃ、始めますか! スタートは14時丁度、あと3分ほどです! 制限時間は1時間、その間にどちらかが参ったすればそこで終了です! あくまでも本番に向けての訓練なので、そこんとこはお忘れなく!」
自称大会委員長の猩々さんが高らかにルールを説明している。いや大会ってなによ。
「ねーねー怜ちゃん」
「ん?」
俺の横にいる小梅が、俺を見上げてニッコニコしている。
「あたし、ちょっと楽しくなって来ちゃった」
「呑気さんめ」
「そんなこと言って、怜ちゃんも笑ってるじゃん」
そういえばいつの間にか緊張も疲れも取れて、寧ろ程よい高揚感が湧いてきていた。いつの間にそんなバトルジャンキーに。
「まぁ、気持ちは分かるけどさ」
「ね、とりあえずどうする?」
「そうだな。とりあえずこのまま森に入る。後追いで如月さん達が来たところで、出方を決めよう」
「おっけー」
負ける気はしないとは言ったものの、今回初めて、俺と小梅の合体スタイルを試すことになる。
慣れている分もあり、技術的には間違いなく向こうがかなり上だ。
ただ、サバゲスタイルという条件もあり、単純に技勝負というわけでもない。
二人の呼吸をどこまで合わせていけるか。
俺たちに勝機があるとしたらそこだ。
そして、その一点において、俺と小梅が負ける事はまずあり得ないと思っている。
「さあ、カウントダウンです! 10、9、8……」
いよいよか。
俺と小梅は打ち合わせ通り、二人で森に足を向けた。
如月チームをちらっと見ると、向こうも少し緊張した面持ちで森を見つめている。
相手はあの森に精通してる。下手な小細工をするより、こちらで決めた場所に誘い出す方がいいかもしれないな。
「……4、3、2、1、スタートっ!!」
「っし!」
猩々さんの合図で、俺と小梅は弾けるように走り出した。
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