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刀の主人は美少女剣士
九 デート気分はここまでだ
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「おはようございます」
「やー、おはようございます! あいすみません、お待たせしてしまいましたか!」
「いえ、私も早く来すぎてしまったので」
翌日。
約束通り、昨日立ち寄った公園に集合したのは、俺と小梅、如月さんに、猩々さんだった。
正宗氏は、既に元の姿で、如月さんの持つ刀袋に収まっている。
「さて、どうしましょう。どこか広い場所があるといいんですが」
「あ、はい、大丈夫です。少し車で移動することになりますが、ちょうどいい場所があるので」
「あー、申し訳ないんですが、俺の車は2人乗りなんですが……」
「はい、私はバイクで移動しますのでご心配なく。……あ、でも猩々さんがあぶれてしまいますね」
考え込む如月さん。顎に手を当てているのが様になっている。
「小梅、いいか?」
「はぁい、まぁここに来るまで楽しんだしね」
「え?」
「小梅が元の姿になれば、猩々さんは俺が乗せていけるので問題ありませんよ」
「あ、なるほど」
「怜ちゃんの胸ポケも悪くないしね。じゃ、早速行っちゃう?」
「そうだな」
「はい、今日はよろしくお願いします」
そんなわけで俺たちはそれぞれ用意した乗り物で移動することになった。
俺は前を走る如月さんのバイクを眺めながら、のんびりと車を走らせている。
ほほー、如月さんはSRV250か。高校生くらいなのに渋いな。いいバイクだ。俺のロードスターと同年代くらいだっけか。きれいに乗ってるなあ。
「……10代の女性の尻を眺めてニヤニヤですか、お盛んですなー所長」
「小梅が誤解するからやめてくださいよ。いや、あのバイクがね」
「あー……あれももしかしたら魂が宿るかもしれませんなぁ。大切に扱われている感じがします」
ああ、何となく気になったのはそこだったか。
ちょっと普通のバイクと違うなぁ、なんて思ってたんだ。
やがて如月さんがこちらにハンドサインを送り、コンビニに入る。
どうやらここで昼飯を調達していこうという算段らしい。俺も彼女の後に従い、車をコンビニの駐車場に乗り入れた。
————
車を走らせて小一時間。
俺たちが着いたのは、“毛無山”と呼ばれる山のふもとだった。
毛無山自体はスキー場などがあり、それなりに人の出入りがあるのだが、ふもとはただの山道でしかないため、ちょっと道から外れると、誰にも知られていないような空き地が結構あったりする。
……とはいえ、今は初冬である。
「さっむ……」
「このあたりでよく稽古をしてるんです」
「なるほど、慣れてるわけですね。……しかし寒いなこれは」
これは入念に準備運動しておかないとやばい。こちとら10代の張りのある素敵ボディとはだいぶ前に決別しているのだ。
ということで、俺たちはストレッチで身体をほぐしながら、今日のメニューを確認することにした。
「午前中は身体をほぐしつつ、軽くスパーリングをしようかと思います」
「了解しました」
「ねえねえ、あたしたちはどうするの?」
「そうですね……。私たちの普段の練習と一緒でいいですか?」
「ええ、もちろん」
「であれば、最初は人の姿で。4人になるので、相手を変えながらというのもいいかもしれません。で、スパーの後半では、小梅さんと正宗には元の姿になってもらって、本来のスタイルで戦ってみましょう」
なるほど、鍛錬としては理にかなっている。気がする。
「そのあたりでお昼って感じですかね。とすると、午後はどうするんです?」
「より実戦的な訓練になります。今回の依頼は父との戦いに勝つことを目的としていますから、それを想定してという形に」
「なるほど。具体的には何をするんです?」
俺が尋ねると、如月さんはちょっと微妙な笑顔を浮かべる。え、それどういう感情?
その表情の理由はすぐに分かった。
「サバゲーです」
「は?」
え、剣術の師範との対戦が、サバゲー?
呆けている俺に、如月さんが半笑いのまま答えた。
「まあ、そうなりますよね」
「いや、すいません、ちょっと意外すぎて」
「これにはちゃんと訳があるんです」
「……近接戦闘、いわゆるCQBですよね」
「! ……おっしゃる通りです」
「怜ちゃん、どゆこと?」
つまり。
如月流ってのは、剣術というより、兵法なのだ。
道場や試合場などの限られた空間で、お互いに決めたルールで勝ち負けを決める類のものではなく。
その場にあるものは全て利用して、最終的に自分が生き残って立っていることを目的とした、純粋な戦闘技術。さらにはその運用法。
現代の日本にそんなもんが必要かどうかは、論じたところで意味はない。
少なくとも、今回の依頼に関しては、避けて通れないものだってことだ。
だが、そういうことならむしろこっちには好都合だったりもする。
「なるほど……」
俺の説明をふんふんと聴いていた小梅は、合点がいったように頷いた。
「だったら、お手伝い出来そうだね、怜ちゃん」
「だな。まあ午前中の訓練はお手柔らかに、ってところだが」
「そっちだって」
そういって小梅は、俺の目を見つめながら不敵に笑う。
「ワンチャン、あるかもよ?」
「あ、ええと……」
「ああ、すいません、置いてけぼりにしちまった。……如月さん、午前のスパーリングはともかく、午後のCQBはある程度身のあるものに出来そうです」
「……どういうことですか?」
「小梅は本来、種子鋏の付喪神ですが、その力はどうやらかなり強いらしく、鋏の形であれば、大きさは自由に変えられます。……そして、俺は」
今度は俺が不敵に笑う番だ。上手く出来てるかしら。
「子供の頃から怪異やらなんやらに悩まされたおかげで、身を護る術は一通り修めています。……人間相手なら、それなりにやれると思いますよ」
「やー、おはようございます! あいすみません、お待たせしてしまいましたか!」
「いえ、私も早く来すぎてしまったので」
翌日。
約束通り、昨日立ち寄った公園に集合したのは、俺と小梅、如月さんに、猩々さんだった。
正宗氏は、既に元の姿で、如月さんの持つ刀袋に収まっている。
「さて、どうしましょう。どこか広い場所があるといいんですが」
「あ、はい、大丈夫です。少し車で移動することになりますが、ちょうどいい場所があるので」
「あー、申し訳ないんですが、俺の車は2人乗りなんですが……」
「はい、私はバイクで移動しますのでご心配なく。……あ、でも猩々さんがあぶれてしまいますね」
考え込む如月さん。顎に手を当てているのが様になっている。
「小梅、いいか?」
「はぁい、まぁここに来るまで楽しんだしね」
「え?」
「小梅が元の姿になれば、猩々さんは俺が乗せていけるので問題ありませんよ」
「あ、なるほど」
「怜ちゃんの胸ポケも悪くないしね。じゃ、早速行っちゃう?」
「そうだな」
「はい、今日はよろしくお願いします」
そんなわけで俺たちはそれぞれ用意した乗り物で移動することになった。
俺は前を走る如月さんのバイクを眺めながら、のんびりと車を走らせている。
ほほー、如月さんはSRV250か。高校生くらいなのに渋いな。いいバイクだ。俺のロードスターと同年代くらいだっけか。きれいに乗ってるなあ。
「……10代の女性の尻を眺めてニヤニヤですか、お盛んですなー所長」
「小梅が誤解するからやめてくださいよ。いや、あのバイクがね」
「あー……あれももしかしたら魂が宿るかもしれませんなぁ。大切に扱われている感じがします」
ああ、何となく気になったのはそこだったか。
ちょっと普通のバイクと違うなぁ、なんて思ってたんだ。
やがて如月さんがこちらにハンドサインを送り、コンビニに入る。
どうやらここで昼飯を調達していこうという算段らしい。俺も彼女の後に従い、車をコンビニの駐車場に乗り入れた。
————
車を走らせて小一時間。
俺たちが着いたのは、“毛無山”と呼ばれる山のふもとだった。
毛無山自体はスキー場などがあり、それなりに人の出入りがあるのだが、ふもとはただの山道でしかないため、ちょっと道から外れると、誰にも知られていないような空き地が結構あったりする。
……とはいえ、今は初冬である。
「さっむ……」
「このあたりでよく稽古をしてるんです」
「なるほど、慣れてるわけですね。……しかし寒いなこれは」
これは入念に準備運動しておかないとやばい。こちとら10代の張りのある素敵ボディとはだいぶ前に決別しているのだ。
ということで、俺たちはストレッチで身体をほぐしながら、今日のメニューを確認することにした。
「午前中は身体をほぐしつつ、軽くスパーリングをしようかと思います」
「了解しました」
「ねえねえ、あたしたちはどうするの?」
「そうですね……。私たちの普段の練習と一緒でいいですか?」
「ええ、もちろん」
「であれば、最初は人の姿で。4人になるので、相手を変えながらというのもいいかもしれません。で、スパーの後半では、小梅さんと正宗には元の姿になってもらって、本来のスタイルで戦ってみましょう」
なるほど、鍛錬としては理にかなっている。気がする。
「そのあたりでお昼って感じですかね。とすると、午後はどうするんです?」
「より実戦的な訓練になります。今回の依頼は父との戦いに勝つことを目的としていますから、それを想定してという形に」
「なるほど。具体的には何をするんです?」
俺が尋ねると、如月さんはちょっと微妙な笑顔を浮かべる。え、それどういう感情?
その表情の理由はすぐに分かった。
「サバゲーです」
「は?」
え、剣術の師範との対戦が、サバゲー?
呆けている俺に、如月さんが半笑いのまま答えた。
「まあ、そうなりますよね」
「いや、すいません、ちょっと意外すぎて」
「これにはちゃんと訳があるんです」
「……近接戦闘、いわゆるCQBですよね」
「! ……おっしゃる通りです」
「怜ちゃん、どゆこと?」
つまり。
如月流ってのは、剣術というより、兵法なのだ。
道場や試合場などの限られた空間で、お互いに決めたルールで勝ち負けを決める類のものではなく。
その場にあるものは全て利用して、最終的に自分が生き残って立っていることを目的とした、純粋な戦闘技術。さらにはその運用法。
現代の日本にそんなもんが必要かどうかは、論じたところで意味はない。
少なくとも、今回の依頼に関しては、避けて通れないものだってことだ。
だが、そういうことならむしろこっちには好都合だったりもする。
「なるほど……」
俺の説明をふんふんと聴いていた小梅は、合点がいったように頷いた。
「だったら、お手伝い出来そうだね、怜ちゃん」
「だな。まあ午前中の訓練はお手柔らかに、ってところだが」
「そっちだって」
そういって小梅は、俺の目を見つめながら不敵に笑う。
「ワンチャン、あるかもよ?」
「あ、ええと……」
「ああ、すいません、置いてけぼりにしちまった。……如月さん、午前のスパーリングはともかく、午後のCQBはある程度身のあるものに出来そうです」
「……どういうことですか?」
「小梅は本来、種子鋏の付喪神ですが、その力はどうやらかなり強いらしく、鋏の形であれば、大きさは自由に変えられます。……そして、俺は」
今度は俺が不敵に笑う番だ。上手く出来てるかしら。
「子供の頃から怪異やらなんやらに悩まされたおかげで、身を護る術は一通り修めています。……人間相手なら、それなりにやれると思いますよ」
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