9 / 39
ぬらりひょんの憂鬱
ぬらりひょんの憂鬱 九
しおりを挟む
「ばび?」
「にく……ですか?」
「……なるほど、人間の割に考えたにゃ」
お褒めにあずかりまして。
ちょっと感心した様子のたまにゃんに比べ、小梅とぬら氏のリアクションが薄い。まあ、知らんだろうしな。
「バ美肉というのは“バーチャル美少女受肉”、つまりCGの美少女キャラクターなどで代役を立て、本人は顔を出さないスタイルです」
「はぁ」
「……グロいやつ?」
「グロではないな」
中の人の嗜好によってはあるだろうけど。
ぬら氏は全くピンときてないな。ま、そりゃそうだわな。いきなりこんなこと言われたら。
「ぬらりひょんさんの存在は人に気付かれない。それがあやかしとしての特徴でもあり、また欠点でもあるわけですが」
「は、はい」
「それでもほんの一部、視える人たちはいたわけで、さらに文章やら絵巻物やらで紹介されたりしている」
「そうですね」
ここまで言ってもその感じかー、だいぶぼんやりしてるなぁ。
ていうか考えることを放棄してる顔だなこれ。
「現在、いわゆる視える人の数は非常に少ない。調べた限り、百鬼夜行絵図の類いが描かれたのは、幕末~明治あたりが最後です。その後もあやかしを紹介したり、題材にした小説や漫画などは後をたちませんが、それらのほとんどは史料を研究したり、想像したりで描かれています。戦後においては、“実際に見て伝えている”のはおそらく、昭和期に大活躍した、妖怪ものの大巨匠くらいでしょう」
あの人は見ている。絶対見ている。
よくわかんないけど確信している。
「ふぅむ……」
「そこで、さっきも言ったセルフプロデュースです。他人が伝えてくれないなら、自分でアピールするんですよ!」
そこで俺は、ぬら氏の目をじっと見た。
だからおどおどしなさんなって。
あんたたちの願いを現実にしてみせるのが、俺の仕事だ。
「――つまり、ネット動画というバーチャルな空間に、バーチャルの自分を用意する。それは、かつての絵師たちがあなたの姿を伝えたのと変わらない。仮想の自分を使って、現実の“存在感のなさ”を消してしまえば、あなたの“ぬらりんちゃんねる”は成功に大きく近づきます!」
「おお!」
「怜ちゃんすごい! かっこいい! 元無職!!」
「うるせえよっ! 元無職は関係ねえだろっ! さらにその前はちゃんと会社員やってたわっ!」
「……盛り上がってるとこ悪いんだけどにゃ」
そう言って遮ったのはたまにゃんだ。助かった、小梅の悪ノリが始まるところだった。
「どうしました?」
「アバターはどうするにゃ。そんなの作れる知り合いはいないし、多分あやかし界全部探してもいないにゃ」
「……たしかに」
「ネットの妖精さんとか探してみる?」
「時間がかかりすぎる。バーチャル空間の広さ知ってるか? ビルド系ゲームなんか、地球の全土より全然広いんだぞ、1本だけで」
「そっか……」
「ま、そこは正攻法でいきますよ。ぬらりひょんさん、ちょっとお聞きしますが」
「あ、はい」
「あなた、いくら持ってます?」
「はい!?」
別にカツアゲしようってわけじゃない。
普通にお金を払って、その道のプロに依頼するってだけだ。
金がなければフリーソフトでっていう手もあるが、出来れば金を掛けてハッタリを利かせたい。
問題は、ぬら氏に資産があるかどうか、である。
「ぬらっちがお金持ってるとでも思ってるにゃ?」
「そうだよ、ラーメン代にも困ってるんだよ?」
「い、いや、お金に困ってる訳ではないんですが」
「いや、今の金じゃなくていい。むしろ昔の金の方がいいんだ。……それを売れば、当時の価値より全然高く売れるからな」
「古銭か、なるほどね」
「てことで、持ってます?」
「手持ちにはありませんが、とある場所にしまってあります」
「分量的にはどれくらいあります?」
そういうと、ぬら氏は申し訳なさそうに指を一本、挙げてみせた。
「……一枚?」
「一箱です。……千両箱で」
「せんりょおばこぉ!?」
おいマジかおい。
そんな金どうやって……はもう、この際構わない。
中身が全て小判だった場合、これは大変な資産になる。
「怜ちゃん、千両箱っておいくらまんえん?」
「いや、箱自体は特別な価値はないだろうが……当時の貨幣価値で一両が大体、10万より上ってとこだ」
「……ちなみに今は?」
「ちょっと待て、その前に。……ぬらりひょんさん、箱の中身は?」
「見てません。いただきものですが、特に必要なものではなかったので……。なんなら、今の今まで忘れていました」
「……なるほど」
てことは、保存状況によっては無くなっている可能性もあるな。
「で、今だといくらくらいになるの?怜ちゃん」
「ん、ああ、細かいところはよく分からないけどな。相場としては、小判一枚で30万弱ってところらしい」
「小判一枚って一両だよね……てことは、もしかしたら30万円がいっせんまい……!」
「さんおくえんにゃ……」
マジか。
いやマジか。
人間なら遊んで暮らせるな。そうでなくてもあやかしは結構遊んで暮らしてるが。
とにかく、金のメドは立った。換金業者は口の固い、物の出どころを気にしないやつにしよう。
「仮に全てが小判だったとして、そういう金額になります。それだけあれば困ることはそうそうない。どうします?」
「忘れてたくらいにゃ、別に思い出もないんにゃ?」
「……思い出」
そう呟いたぬら氏は、目をつぶって考え込んだ。
やがて目を開け、たまにゃんを見ると、きっぱりとした口調で言った。
「思い出しました。あの千両箱はたまさん、元々はあなたのものです」
「――は?」
「にく……ですか?」
「……なるほど、人間の割に考えたにゃ」
お褒めにあずかりまして。
ちょっと感心した様子のたまにゃんに比べ、小梅とぬら氏のリアクションが薄い。まあ、知らんだろうしな。
「バ美肉というのは“バーチャル美少女受肉”、つまりCGの美少女キャラクターなどで代役を立て、本人は顔を出さないスタイルです」
「はぁ」
「……グロいやつ?」
「グロではないな」
中の人の嗜好によってはあるだろうけど。
ぬら氏は全くピンときてないな。ま、そりゃそうだわな。いきなりこんなこと言われたら。
「ぬらりひょんさんの存在は人に気付かれない。それがあやかしとしての特徴でもあり、また欠点でもあるわけですが」
「は、はい」
「それでもほんの一部、視える人たちはいたわけで、さらに文章やら絵巻物やらで紹介されたりしている」
「そうですね」
ここまで言ってもその感じかー、だいぶぼんやりしてるなぁ。
ていうか考えることを放棄してる顔だなこれ。
「現在、いわゆる視える人の数は非常に少ない。調べた限り、百鬼夜行絵図の類いが描かれたのは、幕末~明治あたりが最後です。その後もあやかしを紹介したり、題材にした小説や漫画などは後をたちませんが、それらのほとんどは史料を研究したり、想像したりで描かれています。戦後においては、“実際に見て伝えている”のはおそらく、昭和期に大活躍した、妖怪ものの大巨匠くらいでしょう」
あの人は見ている。絶対見ている。
よくわかんないけど確信している。
「ふぅむ……」
「そこで、さっきも言ったセルフプロデュースです。他人が伝えてくれないなら、自分でアピールするんですよ!」
そこで俺は、ぬら氏の目をじっと見た。
だからおどおどしなさんなって。
あんたたちの願いを現実にしてみせるのが、俺の仕事だ。
「――つまり、ネット動画というバーチャルな空間に、バーチャルの自分を用意する。それは、かつての絵師たちがあなたの姿を伝えたのと変わらない。仮想の自分を使って、現実の“存在感のなさ”を消してしまえば、あなたの“ぬらりんちゃんねる”は成功に大きく近づきます!」
「おお!」
「怜ちゃんすごい! かっこいい! 元無職!!」
「うるせえよっ! 元無職は関係ねえだろっ! さらにその前はちゃんと会社員やってたわっ!」
「……盛り上がってるとこ悪いんだけどにゃ」
そう言って遮ったのはたまにゃんだ。助かった、小梅の悪ノリが始まるところだった。
「どうしました?」
「アバターはどうするにゃ。そんなの作れる知り合いはいないし、多分あやかし界全部探してもいないにゃ」
「……たしかに」
「ネットの妖精さんとか探してみる?」
「時間がかかりすぎる。バーチャル空間の広さ知ってるか? ビルド系ゲームなんか、地球の全土より全然広いんだぞ、1本だけで」
「そっか……」
「ま、そこは正攻法でいきますよ。ぬらりひょんさん、ちょっとお聞きしますが」
「あ、はい」
「あなた、いくら持ってます?」
「はい!?」
別にカツアゲしようってわけじゃない。
普通にお金を払って、その道のプロに依頼するってだけだ。
金がなければフリーソフトでっていう手もあるが、出来れば金を掛けてハッタリを利かせたい。
問題は、ぬら氏に資産があるかどうか、である。
「ぬらっちがお金持ってるとでも思ってるにゃ?」
「そうだよ、ラーメン代にも困ってるんだよ?」
「い、いや、お金に困ってる訳ではないんですが」
「いや、今の金じゃなくていい。むしろ昔の金の方がいいんだ。……それを売れば、当時の価値より全然高く売れるからな」
「古銭か、なるほどね」
「てことで、持ってます?」
「手持ちにはありませんが、とある場所にしまってあります」
「分量的にはどれくらいあります?」
そういうと、ぬら氏は申し訳なさそうに指を一本、挙げてみせた。
「……一枚?」
「一箱です。……千両箱で」
「せんりょおばこぉ!?」
おいマジかおい。
そんな金どうやって……はもう、この際構わない。
中身が全て小判だった場合、これは大変な資産になる。
「怜ちゃん、千両箱っておいくらまんえん?」
「いや、箱自体は特別な価値はないだろうが……当時の貨幣価値で一両が大体、10万より上ってとこだ」
「……ちなみに今は?」
「ちょっと待て、その前に。……ぬらりひょんさん、箱の中身は?」
「見てません。いただきものですが、特に必要なものではなかったので……。なんなら、今の今まで忘れていました」
「……なるほど」
てことは、保存状況によっては無くなっている可能性もあるな。
「で、今だといくらくらいになるの?怜ちゃん」
「ん、ああ、細かいところはよく分からないけどな。相場としては、小判一枚で30万弱ってところらしい」
「小判一枚って一両だよね……てことは、もしかしたら30万円がいっせんまい……!」
「さんおくえんにゃ……」
マジか。
いやマジか。
人間なら遊んで暮らせるな。そうでなくてもあやかしは結構遊んで暮らしてるが。
とにかく、金のメドは立った。換金業者は口の固い、物の出どころを気にしないやつにしよう。
「仮に全てが小判だったとして、そういう金額になります。それだけあれば困ることはそうそうない。どうします?」
「忘れてたくらいにゃ、別に思い出もないんにゃ?」
「……思い出」
そう呟いたぬら氏は、目をつぶって考え込んだ。
やがて目を開け、たまにゃんを見ると、きっぱりとした口調で言った。
「思い出しました。あの千両箱はたまさん、元々はあなたのものです」
「――は?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
猫又の恩返し~猫屋敷の料理番~
三園 七詩
キャラ文芸
子猫が轢かれそうになっているところを助けた充(みつる)、そのせいでバイトの面接に遅刻してしまった。
頼みの綱のバイトの目処がたたずに途方にくれていると助けた子猫がアパートに通うようになる。
そのうちにアパートも追い出され途方にくれていると子猫の飼い主らしきおじいさんに家で働かないかと声をかけられた。
もう家も仕事もない充は二つ返事で了承するが……屋敷に行ってみると何か様子がおかしな事に……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】犬神さまの子を産むには~犬神さまの子を産むことになった私。旦那様はもふもふ甘々の寂しがり屋でした~
四片霞彩
キャラ文芸
長年付き合っていた彼氏に振られて人生どん底の華蓮。土砂降りの中、びしょ濡れの華蓮に傘を差し出してくれたのは犬神の春雷だった。
あやかしの中でも嫌われ者として爪弾きにされている犬神。その中でも春雷はとある罪を犯したことで、他の犬神たちからも恐れられていた。
華蓮を屋敷に連れ帰った春雷は、風邪を引かないように暖を取らせるが、その時に身体が交じり合ったことで、華蓮は身籠もってしまう。
犬神の春雷を恐れ、早く子供を産んで元の世界に帰りたいと願う華蓮だったが、春雷の不器用な優しさに触れたことで、次第に惹かれるようになる。
しかし犬神と結ばれた人間は「犬神憑き」となり、不幸せになると言われているため、子供が産まれた後、春雷は華蓮の記憶を消して、元の世界に帰そうとする。
華蓮と春雷、それぞれが選んだ結末とはーー。
人生どん底な人間×訳あって周囲と距離を置く犬神
身ごもりから始まる和風恋愛ファンタジー。
※ノベマにも投稿しています。こちらは加筆修正版になります。
諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~
七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。
冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??
『元』魔法少女デガラシ
SoftCareer
キャラ文芸
ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。
そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか?
卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。
時守家の秘密
景綱
キャラ文芸
時守家には代々伝わる秘密があるらしい。
その秘密を知ることができるのは後継者ただひとり。
必ずしも親から子へ引き継がれるわけではない。能力ある者に引き継がれていく。
その引き継がれていく秘密とは、いったいなんなのか。
『時歪(ときひずみ)の時計』というものにどうやら時守家の秘密が隠されているらしいが……。
そこには物の怪の影もあるとかないとか。
謎多き時守家の行く末はいかに。
引き継ぐ者の名は、時守彰俊。霊感の強い者。
毒舌付喪神と二重人格の座敷童子猫も。
*エブリスタで書いたいくつかの短編を改稿して連作短編としたものです。
(座敷童子猫が登場するのですが、このキャラをエブリスタで投稿した時と変えています。基本的な内容は変わりありませんが結構加筆修正していますのでよろしくお願いします)
お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる