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最終章:魔界

じゃあ、二人で一緒に・・・(3)

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 私たちが遺跡の近くまで来たのは昼頃でした。

 遺跡は小高い丘の上にあるようでした。
 遺跡自体は・・・つまり巨大な魔道はその丘の地下にあるのでしょう。
 でも、入り口は丘の上にあり・・・
 しかも、丘のまわりには、たくさんの魔人の軍の施設が・・・
 とても容易には近づけない状況でした。

 ただ、それでも幸運だったのは、例のビドラカの街で起きている戦いのせいで、状況が相当混乱していることでした。
 さっき軍用の装甲列車が走って行ったのですが、まだ、他の装甲列車の準備もしているようでした。
 飛行機械も、すでに街から戻ってきたものが滑走路に着陸したり、新しい飛行機械が飛び立ったり・・・とても慌ただしく魔人たちが走り回っていました。
 空き地のような場所に、歩兵が集まっていました。
 地上部隊なのでしょう。小隊ごとに分かれて整列していました。
 装甲列車などで運び切れない兵隊は、これから歩いて街まで向かうようでした。
 おそろしいほどの大部隊でした。

 もしかすると、互いの軍のほとんど全兵力がビドラカの街に集結しつつあるのかもしれません。
 これまでになかったほどの大規模な戦いが・・・。
 どちらが勝ったとしても、膨大な犠牲者が出ることは間違いありません。
 もしかすると、勝者のない戦いになるかもしれません。
 双方の部隊が全滅するという最悪の事態に・・・

 何とか、この混乱に乗じて、軍の敷地内に入り込み、あの丘の中心部まで行かなければなりません。
 私たちは少々安易に考えていました。
 本来なら夜まで待つべきなのでしょうが、時間もないし、これだけ騒然としているのだから、人目につかない場所を歩いていけば大丈夫だろうと・・・
 しかし、仮にもここは軍の施設なのです。
 いたるところに監視兵がいて・・・私たちはすぐに捉えられ、倉庫のような場所に放り込まれてしまいました。
 
 もう少し用心深く侵入するべきでした。
 おそらく、魔人を誰か捕まえて服を取り上げ、兵隊に変装するなど、何か工夫をすべきだったのでしょう。
 私たちは油断しすぎていて・・・後悔先に立たず・・・

 しかし、魔人たちも、状況が緊迫しているせいか、私たちを怪しい人物として捉えたものの、単に縛り上げて倉庫に放り込んだだけで、尋問しようなどとはしませんでした。
 そんなことをしている余裕などないのでしょう。これから大きな戦いが始まろうとしているのですから・・・
 私たちが何のためにここへ来たのか、基地へ不当に侵入した理由を問われることもなく、倉庫のはしの方の薄暗い地面に転がされていました。

 *

 しばらくすると暗さに目が慣れてきました。
 ルークは私のそばに横たわっていました。
 怪我をしているようではありませんが、私と同じように縛られて動けないようでした。
 メティスは壊れていると思って誰も気にしなかったのか、そのままの状態で、ルークの足元に放置されていました。
 
 私は自分が捉えられてしまったことよりも、空腹だということが気になっていました。
 なぜなのかわかりませんが、逃げ出すことよりも、何か食べたいという気持ちで頭がいっぱいになっていたのです。
 どうしても、お腹が空いて仕方がないのです。
 私は食べ物を探していました。
 もちろん、魔人の倉庫の中を探して食料があったとしても、それは人間が食べられるものではありません。
 ここにはお腹を満たせるようなものがありません。
 いえ、あります。少しだけ・・・
 ルークが昨夜、残ったおにぎりを袋につめて持っているはず・・・

 私はルークに言いました。
「ねえ、お腹すかない?」
「俺も・・・何か食べたいです・・・でも、もう昼ですからね・・・ここから逃げられたら何か考えましょう・・・」
「ねえ、おにぎり持ってるでしょう」
「ええ・・・でも、今は手を縛られているから・・・後で・・・」

 申し訳ないとは思いましたが、私は我慢できずに・・・
 ルークが袋に入れて持っているおにぎりを、勝手に少しだけ、自分の口の中へ・・・移動の魔法です・・・近い場所のものなら移動させることができるのです・・・
 さっき使った瞬間移動の魔法と違って、小さなものにしか効果がないのですが、その代わりに、特定の場所へ正確に動かすことができるのです。
 ただし、これはあまり良くない魔法なのです。
 なぜなら、この魔法を使えば、何でもできてしまうんです・・・悪いことが何でも・・・
 例えば、他人の財布の中のお金を自分の財布の中に移動させたり・・・つまり、他人のものを簡単に盗むことができるのです・・・お金でも宝石でも何でも・・・
 こういうことをやっていると、他人に信用してもらえなくなるので、道徳上あまり使ってはいけない魔法なのです・・・
 魔術師として、ほぼ禁じられた魔法なのです。
 でも仕方がありません。
 だって、お腹が空いたんだもん・・・

 おにぎりを一度に一個全部移動させると、口がいっぱいになってしまいます。
 だから、おにぎりのひとかけらを、ルークの腰の袋の中から、私の口の中へそっと移動させて・・・そして、それをゆっくりと噛むのです・・・だって、食べているということをルークに気づかれるとまずいから・・・
 少しずつ口に移動し、ゆっくりと咀嚼し、そっと喉の奥へと・・・
 こういう行為を繰り返していました。

 美味しいのです。ものすごく美味しいのです。こっそり食べるおにぎりの味は格別です・・・
 お米の甘さが口の中で広がり、もうとても幸せな気分で・・・
 でも、少し食べると、空腹というものは次第にはげしくなるのですね。
 前よりももっと食べたくなって・・・そうすると、さっきよりも、もっと大きな米粒のかたまりを口に移動させようとして・・・そして、さっきよりも大胆に口を動かして咀嚼するようになり・・・もっと・・・もっと、もっと・・・

 はい、ついに見つかってしまいました。
「あぁ!、ソフィアさん、何か食べていますね・・・」
「?」
「今、慌てて飲み込もうとしたでしょう・・・どういうこと?・・・どこに食べ物があるんですか・・・あ!、おにぎり食べたんですね・・・どうやって食べたんですか・・・両手縛られてるのに・・・」
「いや、よくわかんない・・・」
「また、とぼけないでください・・・食べたんでしょう!・・・俺も食べたい・・・俺にも食べさせてくださいよ・・・ソフィアさん・・・どうやって、手を使わずに・・・」
「あのね、よくわかんないけど、魔法を使ったの・・・よくわかんないけど、ごめんね・・・
 えっと、魔法を使って、こっそり、ルークのおにぎりを私の口の中に移動させたの・・・移動の魔法・・・禁秘の魔法なんだけど・・・」
「じゃあ、その魔法を使って、俺の口の中にも・・・」
「あのね、この魔法を使うには、イメージが大切なの・・・だから、私の口の中におにぎりが移動した状態をちゃんとイメージしないといけないの・・・」
「じゃあ、俺の口の中におにぎりが移動した状態をイメージしてくださいよ・・・そうしたら、おにぎりを移動できるんでしょう・・・おにぎりを・・・」
「嫌なの・・・だって、ルークの口の中って汚いじゃん・・・ルークの奥歯、虫歯になりかけてるし・・・クルドークの街でチョコパフェ食べたあと、ちゃんと歯を磨かなかったんでしょう・・・そんな汚い口の中はイメージしたくないの・・・」
「ケチ!」
「虫歯変態!」
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