上 下
51 / 94
第3章:魔人

魔人と人間の戦争(5)

しおりを挟む
 その夜、恐ろしいことが起きました。
 魔人たちの軍が街に攻め込んできたのです。
 ここはまだ港のそばです。海の近くなのです。
 たくさんの魔物が人間界に侵入してきている大陸の中央部からは、かなり距離があるのです。
 だから、ここは人間の勢力の方が強いはずなのです。
 それなのに、こんな場所にまで、魔人たちの軍が大勢押し寄せてきたのです。

 私たちは異常に気が付き、すぐに荷物をまとめて、倉庫の一番奥に隠してから、港の様子を見に行きました。
 
 魔人の軍勢が大勢、街の中に入ってきていました。
 彼らはいつのまにか港の中心部にまで入り込んできていて・・・

 ・・・もうこんなところにまで・・・

 軍の警戒はどうなっていたのでしょうか。
 この街には防衛ラインというものはないのでしょうか。
 それとも、そういうものは全て、魔人の軍隊に力で打ち負かされてしまったのでしょうか。
 もはや、こんな巨大な軍の拠点ですら、無防備な状態なのでしょうか。

 いたるところで、人間と魔人が剣を交えていました。
 あらゆる場所で、互いの軍勢が入り乱れ、殺し合っているのです。
 もはや、戦略も戦術もない争い・・・
 それは、単なる混乱・・・無秩序な乱闘・・・
 兵隊の多い軍が勝つという原始的な戦争・・・

 人間の軍隊は、思ったよりも状況が不利なようでした。
 明らかに人間側が劣勢なのです。
 こんな軍隊の本拠地ですら、数で負けているのです。・・・力で負けているのです。
 これでは戦争に勝てるはずがありません。
 魔人と人間の戦いは、長い間、こう着状態が続いていると思っていたのですが、もしかしたら違うのでしょうか。

 魔物の軍は、街の中だけではなく、街の外側も完全に包囲しているようです。
 魔人の軍が、光の矢のようなものを無数に、城壁の外側から街の内部に向けて放っていました。
 でも、それはルークの魔剣から出る光の矢とは違い、先端に大きな炎のようなものがついているのです。
 それは、建物に突き刺さると、爆発が起きるのです。
 魔力を使った一種の爆弾なのでしょう。
 炎の矢は、街の建物を次々に破壊し、倒壊させ・・・

 魔物の軍隊は、魔人だけで構成されているわけではないようでした。
 いろいろな種類の魔物がいました。
 ゴブリンのような小さな魔物から、人間よりも何倍も大きな巨大な怪物まで・・・
 いえ、それだけではありません。
 人間もいました。
 魔の軍隊の中には、人間もいるのです。
 どういうことなのでしょうか。

「あれは、死んだ人間なんです」
 ルークが言いました。
「死んだ人間を魔力で動かしているんです。
 つまり、死体を武器として使っているんです」

 それは恐ろしい光景でした。
 死人が剣を持ち、生きた人間と戦っているのです。
 もはや心臓が止まった肉体の腕や足が動いているのです。
 しかし、彼らがどれほど生きた人間と同じような振る舞いをしていても・・・彼らがまるで意識があるかのように手足を動かしていても・・・それは魔力によって操られているだけなのです。
 その証拠に、腕を剣で切り落とされても、何の痛みも感じないようなのです。
 平然と残った一本の手で戦っているのです。
 足を失って立てなくなっても、地面を這いながら剣を振り回しているのです。
 それどころか、首がなくなっても・・・
 それはもはや人間ではなく・・・そこには人間の意志や思考や心などなく・・・それどころか人間の形をした何かですらなく・・・

 街のあちこちから巨大な炎が上がっていました。
 たくさんの建物が燃えているのです。
 私たちが乗ってきた船も燃えているようでした。
 木造の船、木でできた建築物、それらはあっという間に火に包まれ、燃え上がり・・・

 でも、兵器工場のあたりは、まだ燃えていないようでした。
 軍がはげしく応戦しているようです。
 おそらく、戦略的に大事な拠点に戦力を集中して、重点的に守ろうとしているのでしょう。
 そうだとしても、人間側が劣勢であることに間違いはないようでした。
 ここまで人間が苦戦しているとは、私は思ってもいませんでした。
 
 私は・・・
 きっとルークも同じことを・・・

 ・・・この戦いに勝ち目などない・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

処理中です...