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第1章:魔物

悲しいドラゴン(6)

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 私たちは老人の家に戻りました。
 ルークは言いました。
 ドラゴンを倒すことはできなかったと・・・
 でも、もう逃げて行ったからこの村を襲うことはないだろうと・・・

 そう言うと彼は、老人から受け取ったお金を返してしまったのです。
「これからお金が必要なのはあなた方ですから・・・」

 ・・・え? もったいない・・・一応、もらっておけばいいのに・・・
 ・・・だって、ドラゴンは倒さなかったけど、追い払ったんだから・・・もらう権利あるんじゃないの?・・・

 私たちは村を去りました。
 去っていく私たちにも、村人は罵声を浴びせ、石を投げつけ・・・
 私たちは、彼らが恐れていたドラゴンを追い払ってあげたのに・・・それなのに・・・
 でも、私たちは何も気になりませんでした。
 このままでもいいような気がしたんです。

 ルークは私の蘇生魔法にとても驚いているようでした。
 彼は歩きながら元気な声で言いました。
「ソフィアさんが蘇生させてくれるのなら、俺、いつ死んでも大丈夫ですね・・・だって、いつでも生き返れるんでしょう・・・」

 でもそれは違いました。
 人間を蘇生させるのは簡単なことではないのです。あるいはほとんど不可能なのです。
 魔法で何かを作り出すためには、それを完全にイメージする必要があります。
 だから、死んだ人間を蘇生させるためには、その人間が生きている姿を詳細にイメージしなければなりません。
 でも、人間の姿をイメージすることはできても、その人が何を考えているかとか、その人がどんなことを感じているかとか、そういう人の内部のことまで想像することはできません。
 だから、多くの場合、蘇生させても、心のない人間になってしまうんです。
 心があったとしても、別人になってしまうんです。
 だから、蘇生魔法はとても危険な魔法なのです。
 今回、ヒナを蘇生させることができたのは、あの母鳥が協力してくれたからなのです。

 私はルークに言いました。
「死んじゃだめだよ。絶対に・・・。だって体を蘇生させることはできても、心を元に戻すことはできないから・・・」
「でも・・・」
 彼は不思議そうな表情で私を見ていました。
 何か納得できないようでした。
 彼が何を言おうとしたのかはわかりませんが・・・しかし、私には、まだ自分では気がついていない事実があるのでしょう・・・
 呪文・・・呪いの呪文。
 もしかすると、私はルークに対して、何かの呪文をかけているのかもしれません。彼の剣の魔力を封印しているのと同じように、彼の力を何か封印しているのかも・・・
 それが何か、今の私にはわかりません。
 心の中の以前のソフィアの魂も何も教えてくれません。
 きっと、今はまだ知るべきことではないのでしょう。

 私は村から出ると、ルークに話しかけました。
「ねえ。私、ドラゴンから、とってもいい魔法をもらったの。飛行魔法・・・空を飛べるの・・・」
 私はいきなり彼の手を握りました。
 そして、呪文を唱えると、私たちは空に浮かび上がり、・・・そこには広大な景色が広がっていました。
 たくさんの山々が・・・そして、山間にはたくさんの村や街が・・・
 それが、私たちが歩いてきた場所・・・
 遠くには高い山も見えました。山の頂上の方は雪が積もって真っ白でした。
 きっと、あの高い山を越えれば、隣国クルドークなのでしょう。これから、私たちが行く国・・・

「ねえ、素晴らしい景色でしょう・・・」
 私はうっとりとした気分でルークに言いました。
 ずっと遠くの方を見ると海が見えました。
 陸が大きく海に突き出ていて、そこが光っていました。
 それはとても美しい光でした。
「ねえ、ルーク・・・あの先の方で光っているのは何?」
「え? 先が光っている?」

 ふと、ルークを見ると、彼は遠くの景色など見ずに、私の胸を見ているのです。
 私の胸をじっと・・・間近で・・・

 ・・・この変態!・・・

 私は思わず手を離してしまい・・・すると、彼はいとも簡単に落ちていきました。
 しまった、と思いましたが仕方ありません。

 私も地上に降りると、足の骨が折れたルークが苦しんでいました。
 でも、それはものすごいことでした。
 あんな上空から落ちたのに、骨折ぐらいで助かるなんて信じられないことなのです。
 さすがは戦士。
 仕方なく、私は治癒魔法を・・・

 その夜、私はとても不思議な気分でした。
 よくわからないのですが、何かとても不安なのです。
 まるであの村人の恐怖が私の体の中に入り込んできたような気分でした。
 もしかすると、あのドラゴンの膨大な魔力が私の体内に入り込んだことによる副作用なのかもしれません。
 あるいは・・・

 原因はわかりませんが、とても不安でした。
 ルークは火のそばにしゃがんでいる私のところに来ました。
 彼は足をひきずっていました。
 今日空から落ちて骨折した彼の左足は、まだ完全には治っていないのです。
 いえ、正確に言うと、私が完全に治してあげなかったのです。
 それは単なる私の意地悪でした。

 でも、足を引きずっている彼を見ると、私はちょっと情けない気分になって、彼の足を治してあげました。
 私は彼に言いました。
「よく、わかんないけど・・・何か、不安なの・・・何かが、怖いの・・・でも、何が怖いのかわからない・・・それでも、ものすごく怖くて・・・不安で・・・
 ・・・お願い・・・少しの間でいいから・・・少しの間、私を抱きしめていて・・・」

 なぜかわからないのですが、私の体は震えていました。
 彼はやさしく私の体を抱いてくれました。

 彼は言いました。
「大丈夫だよ・・・俺がついているから・・・
 ・・・次の街についたら、美味しいものでも食べよう・・・」
「でも、お金が・・・」
「お金はあるよ・・・金貨が・・・さっき、老人に金を返す時に、何枚か抜き取っておいたんだ」

 ・・・ずるがしこい・・・意外に抜け目のないやつ・・・変態なのに抜け目のない戦士・・・でも、時々やさしい人・・・
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