あの場所で待っている

ながれ

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生命維持

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これは僕がこうなった理由の話だ。

5歳の頃。
バッタを殺した。
後ろ足をちぎり、飛べなくした。
僕らは笑っていた。
その後、ゴムでそれの頭と体のちょうど離れてるところを
バチン!とやった。
簡単にまっぷたつになった。
それが楽しくて、何匹も何匹も、もしかしたら僕らが遊んでたところにはもうバッタはいなくなったんじゃないかと思うくらい殺した。
他のみんなは少しおぞましくなって、身を引いて、5時のチャイムを理由に帰っていった。
僕は、夕日がお月様に代わるまでそれを黙々と笑みを浮かべながら続けた。
気付くと周りは真っ暗でコオロギが鳴いていた。
コオロギはぶにゅぶにゅしていて気持ち悪いのでそんなことはする気にはなれなかった。
お母さんの呼ぶ声が聴こえたから今日は帰ることにした。
誰も居ない公園に「バイバイ」と言って手を振る。
次の日の朝のラジオ体操で女子達が、いや、男子も含め僕以外がその光景を見て狂乱し吐いたのは正常だった僕だけが見ていた。

いつもの朝を迎えた。
今日も生きましょう。
今日も死にましょう。そんな声が聴こえる。
声の主は僕で、朝を無事迎えれたらそう言う事にしている。
6歳の朝を迎えた時に僕は何かをしようとしたけど、それが何かわからなくて直ぐに諦めた。
取り敢えず、虫を取りに行こう。そう思って虫かごと使いもしない虫あみをもって外に出た。
春だった。1人で自転車に乗る。そう僕は5歳の時に補助輪を卒業したのだ。それに乗る。僕の中では新幹線より早く進んでいる気になる。
いつもの公園へと自転車を飛ばす。
着くともうあのバッタの死骸は無くなっている。
何しろそれは1年も前のこと。
既にあるわけがない。あの後すぐに大人達が片付けたからだ。
誰がしたか。なんて野暮なことは聞かれなかった。犯人は僕以外居なかったし、それを周りの大人は分かっていた。僕の親も何も言わなかった。いや、言えなかった。
せめて正常だと、普通だと、思いたかったのだろう。
未だに僕がなぜあそこ迄生命を絶つことに執着していたかはわからない。
しかし、6歳の僕は5歳の頃の僕よりもっと、生き物がどう死ぬのか、苦しみはあるのか。そういうことを考えて、色々な生命を奪っていった。(といっても昆虫がほとんどなのだが)
バッタをテープで地面に張りつけいつになったら死ぬか。
お腹に針を刺し、内容物がどれだけでたら死ぬのか。
蟷螂同士を喰わせあい、どちらが強いのか。死ぬまで戦わせた。首がもげるまで、僕は笑いながら死への結末を望んでいた。
ある時子供を孕んだ蟷螂を捕まえた。
それをとても大切に育てた。餌を食べやすいように、足のおったバッタを入れてあげた。生きていた方がいいと思って殺しはしなかった。
彼女は元気に過ごして行った。そして虫かごの中に変な卵みたいなそれを産み付けた。
宇宙人が入ってるような繭のようなそれは僕の興奮のボルテージを最高潮にした。
赤ちゃんが出てくるのを待った。どのくらいで生まれたかは覚えてないけど、毎日毎日、虫かごを覗き、それのシーンを見ようとした。
でもある日、1週間くらいそれを忘れていた。
すると、繭の中から赤ちゃんの死骸が連なって、下に垂れてきていた。恐らく10匹?そのくらいだろうか、外に出てきて死んでいた。
とても嬉しかった。
何故かと言うと、その日は雨で蟷螂の餌となるバッタが捕まえれなかったからだ。
僕はその死骸を、蟷螂の今晩の餌に出来たことにとてつもなく喜びと達成感を感じた。
彼女はそれをとても大切そうに食べていた。
僕の中に少し存在していた普通という感情がその時どこかから吹いた風で飛んでしまったように思えた。

その日から僕は虫を捕まえるのをやめた。
そういう残虐な行為をするのをやめた。
何故だかはわからない。いや、幼いながらわかっていた。
きっとこれ以上進むと僕は将来人さえも何も思わず殺すだろう。そう思った幼い僕は自らにストッパーを掛けた。そうすることが重要でそうしないといけない気がしたからだった。
今思えばこれは正しい判断だった。
飼っていた猫がその出来事のあとすぐくらいに老衰で死んだ。
僕はとても泣いたのを覚えている。生き物が死ぬことに悲しみを覚えた自分に何故か安堵を覚えた。

小学生に入ると、虫取りなんかよりも、友達とサッカーをしたり秘密基地を作ったり、家の中でDSをやることにハマっていった。虫を殺すよりも魅力的で素敵で簡単で皆から受け入れられた。楽しかったしずっとそれを続けた。
だけど心の中に何故か少しだけ引っ掛かっているものもあった。その引っ掛かっているものを探し出して引っ掛かりを取ってしまうのはまたあとの話だ。

小学三年生になるとカブトムシなんかにハマった。
商店街のおじちゃんが景品でくれたアトラスオオカブトを大切に育てた。1年は生きるよと言われたが、3ヶ月で死んでしまった。僕は兄弟に内緒で庭に埋めた。
兄弟にはお空に飛んで言ってしまったと嘘をついた。そうしないと兄弟が傷つくと思ったからだ。その判断は正しかった。僕は兄達から殴る蹴るの暴行にあって親からも問いただされ正座させら酔っ払って何故怒ってるのか分からない父親に蹴られはしたが、皆が怒りだけで悲しみに合わなくてよかったと思った。

小三の冬に、犬が2匹来た。
まぁそれはどうでもいい話なのだが。

小四になると何かを殺したいと思う欲がよく出てくるようになった。そのせいで僕は友達を殺しかけた。
車が来ている車道に歩道で前に歩いていた親友とも呼べる友達を押したのだった。車が運良く避けてくれた。僕はため息をついた。友達は泣いていて、運転手は車から降りてきた。僕と親友は叱られた。たったそれだけだった。
殺しかけてもそれだけで済んでしまった。もう何も怖くなかった。この時、引っ掛かりを取ってしまったのだと思う。人の命や人の気持ちがどうでも良くなり、自分の意のままに殺せることを知ってしまった。それが僕自身の快楽になることを知った。

その友達と仲間たちとは一時期疎遠になった。僕のことを怖がり、学校でも避けて行った。それの雪解けは結構すぐ来るのだがそれはいい。
僕は友達が居なくなった時期にまた昆虫を殺して行った。
自分が傷つかないと意味が無い気がして、無謀にもオオスズメバチの巣に近づき1匹だけを虫取り網で捕まえ、急いで逃げてそれが殺してきた人間の分だけ叩いた。地面に彼(彼女だったかもしれない)のシミが出来上がるくらいまで叩きつけた。僕はいいことをした気になってまた繰り返した。危険を犯すことで正しいことをしている気になった。
ある日、大人達にオオスズメバチの巣が見つかって駆除された。僕は遊び相手が居なくなってとても悲しくなってその夜大泣きした。親は何故泣いているのか優しく問いただした。それでも理由を言わずに泣き続ける僕にイラつき、僕を殴った。その後、窓の外に僕を追いやって鍵を閉めてしまった。
僕は庭に行くとコオロギを探した。前に恐れていたコオロギを捕まえて、素手でちぎった。何匹も何匹も、ちぎってはバケツの中に入れた。バケツの中は全く埋まらなくて僕の心を表しているみたいだった。
そのまま朝を迎えた。一睡もせずただ手の中でぐちゃぐちゃになった1匹のコオロギを見つめていた。中の液が僕の手の中で踊っていた。
起きてきた母親は叫びすぐさま離せと叫んだ。
バケツの中を見て2度驚いた。僕は笑った。
喜んでくれたのかと思った。違った。昨晩の5倍はあるかくらいの強さでビンタをされ、父親からは蹴られた。それは正しい行いだった。
でも何が悪いのかわからなくて取り敢えず、その手の中のものをバケツの中に入れてバケツを倉庫に直そうとした。
また殴られた。

中学生になるとそんなことはしなかった。
でも何かが足りなくて、万引きをした。1度してしまうと止まらなかった。見つからないと思った。けど、万引きをした夜は必ず決まって、蟷螂の赤ちゃんの夢を見た。僕に苦しいと叫んで泣いていた。僕はそれを食べる母親だった。助けてと叫ぶ彼らを彼女らを無視して僕は美味しく食べた。
僕は万引きを辞めなかった。
僕はその夢が見たかった。
後輩が捕まっても。同輩が捕まっても辞めなかった。
捕まって泣いて帰ってきた彼らを僕は笑った。心の底から笑った。多分僕のなかの何か憂いとかそういう感情は元々なかったんだと思う。そう思えるくらいに、彼らが不幸なのを僕の幸福とした。
中三の冬に万引きをやめた。進路の関係もあったし、それは辞めるべきだってわかった。だから辞めた。

高校になると昆虫には一切何も執着が無くなっていた。そりゃ当たり前だ。だけど何か足りなくて、愛に執着した。
好きな人が出来て、その人が彼女になった。デートにもいって、キスもした。その後はしなかった。そんな勇気はなかったから、僕らは僕の勝手な都合でたったの1ヶ月半で別れ、僕はその後1年間彼女と喧嘩することになる。
彼女と別れて三日後僕はほかの女の子と付き合った。
軽いというのだろうが、それは仕方の無いことだった。
僕は愛に執着をしていたから、そうあるしかなかった。
その子とは何もしなかった。
一週間半くらいで別れた。
なんで別れたかは僕達もわからないし誰もわからない。けど僕の愛の総量に耐えきれなかった彼女が別れを告げた。
僕の白は黒に染った。
その年の冬にまた違う人と付き合ったが3ヶ月で別れた。
これは普通の3ヶ月である意味初めての恋愛だったと思う。

その子と別れてからまた、1番初めの彼女を好きになった。
いつも会っていた神社で待ち合わせをして無理やりキスをした。そして。そのあとは言えない。だけど一言で言うなら、「最低」なことをしたのだ。

ただ彼女はそのあとも僕と関わってくれた。
それに甘えたが、同時に苦しくあった。その子が発する全ての言葉が僕を責めているような気がした。いつからか、人の感情が見えるようになった気がした。
全てが上辺に見えて、全ての言葉が嘘に聞こえた。
その後も告白されたりもしたが、僕には全部嘘に思えて、やんわりと断った。そういう理の中で生きていた方が楽だと思えた。
僕は死のうと思った。
リストカットなんてする気はしなかったから、首を吊るためのロープを買ってみた。家にはかける場所がなかった。
首吊りを諦めた。練炭なんて手に入らないし、飛び降りるにも田舎だからそこまで高いところはない。
電車に飛び込もうにも家族に迷惑が、、なんて考えると死のうにも死ねなかった。

いつ死のうかと、そんなことを考えると、初めて家でゴキブリを見た。
とても愛しく思えた。
忌み嫌われる。きっと僕より、日本中から嫌われている。
そう思うと愛しく思えた。
僕はそっとゴキブリを捕まえた。
手の中ではバタバタ動いていた。
横向きにちぎってみた。変な白い液体が出てきて、それを5分くらい眺めていた。昔に戻った気分になれた。純粋無垢なただ単に興味本位の殺害。
それが僕をまた奮い立たせた。その気持ちが蘇った。
外へ飛び出した。バッタを捕まえた。脚を取った。ゴムを持ち出し、首をはねた。僕は泣いた。
満たされなかったから泣いた。満たされるはずだった行動が満たされたなかったから僕は庭でバッタを捕まえては殺しながらそして泣いた。

満たされたかった。
満たされなかった心を埋める何かが欲しかった。
おぞましい何かが僕の脳内に過った。

そうだ。好きな人を殺そう。と

僕はそう誓った。


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