あの場所で待っている

ながれ

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嘘から真になる日まで

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「嘘からでた真」とはよく言ったもので、彼が小学生の時に僕に掛けた「お前のお母さんは犯罪者だ」と言う言葉は次の年には現実になってしまった。例の清純派国民的アイドルに恋人が。というニュースだってそうであった。でたらめを書いたのにその記事のせいで追い込まれた彼女は昔ながらの異性の友人と恋に落ち、それは真実として扱われるようになってしまった。
そして、僕が貴女への救いの言葉としての本当でない「愛してる」という言葉でさえも君は君の中で真実にして、それはいつか真実になってしまうようであった。

「おはよー。」
その声で目が覚める。目を開けると、かつて「清純派国民的アイドル」と呼ばれたそれが僕の隣には居た。それは、僕の嘘で始まった恋で、愛とは言い難かった。しかし、その、嘘ということを露呈することで彼女においても僕においても今現在それが救いだということにはならなかった。

「今日は朝ごはんなににしよっか」
そういうなんともない会話から毎日が始める。目覚めのコーヒー、は僕には少し苦すぎる。カフェオレ(またはミルクのみ)が僕にはお似合いだ。必要以上に背伸びはしないし、身の丈にあった生活で生きてきた。今までもこれからもそのはずだった。けど、今はこんな現状。救いようがないくらいに普通でないし異常という言葉が最も当てはまるものだった。

取り敢えず、返答をするが、朝から声が出ない。
ついで貰ったカフェオレを1口のみ、
「トーストにするよ」
それだけを口にして洗面所に向かう。手伝うことは無い。そういう契約でそういう過去でそういう今だからだ。
どうやら彼女はほんとに僕の言葉を信じていて、僕のことが好きらしい。僕はもちろん彼女の美貌はわかってはいるが、幼なじみということもあり異性としてあまり見れなかった。もちろん夜も過ごした。恋人としてやるべき行為はほとんど(ノーマルなことについては)やったと思う。
そりゃ僕も男だ。できないことは無い。でもそこに僕からの愛が介在することは不必要で不純で僕自身も愛をもてなかった。愛のないそれはとんでもないほど卑しく、そして、これほどの背徳感に見舞われるものはこの世にないと思うほどに、する度僕はきみを抱きしめた。そうしないといけないような気がしたし、そうすべきだった。

顔を洗い終えるとパンはトーストになっていて、テーブルにはジャムとバターが置いてあった。僕は少し迷ったがバターを手に取り、それをトーストに塗り5分弱くらいでそれを食べた。彼女はもう食べ終えていたらしく、僕の容器と彼女の容器を一緒に洗い始めた。僕はふと、「このまま、彼女の気持ちも洗い流されないかな」と思ったが直ぐに辞めた。それは、許されないことのように感じた。

僕は仕事をしている。彼女はアイドルをやめて芸能界もやめた。事情が事情だったので違約金等は0に近い額だったらしい。
僕が紐でも普通の生活をしていれば生きていけるくらいには蓄えはあるらしいが、それは何故か怖くて、できなかった。僕の男としてのプライドだろうか。いや、そんなものは持ち合わせてはいないだろう。

僕は仕事に出かける。仕事といっても正社員ではない。
安月給、アルバイトよりは少し高いくらいでとてもでは無いが、僕と彼女2人を養うほどの金はなかった。
たまに考える。「これはヒモなのだろうか」と。しかしながらそのように考えたところで結論が出るはずもなく私はそのモヤモヤしたものを宙に浮かばせ空へと飛ばす。
だがそれは、紐付の風船のように少し上がると留まり空気が無くなると降りてきて僕のことをまた邪魔する。
仕事から帰ると彼女家で迎えてくれる。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも…」と聞いては来るが、僕は「そ」の部分に行く手前で「ご飯がいいな」と言う。
そうすべきだしそうがいい。どうせ彼女は夜になると求めてくる。
自己の不安を快楽に染めて、いつ見つかるかもわからない正解に影を指すのだ。

ある時彼女が寝言で「ごめんなさい。。と言っていた。
僕はそれにイラついてしまった。
何に対してなのかはわからないがイラついてしまったのだ。
何に対して謝っているのか。僕に対して謝っているのか。果たして僕以外に謝っているのか。
聞いたところで意味もないのだろうが、気になってしまう。しかし僕は聞かずに目を閉じる。そうすれば明日には忘れるからだ。

夢を見た。
内容は朧気だが、僕は母親に刺されている。
耳元で「嘘つき」という声がする。
何重にも何重にもも重複するその声に僕は嫌気がさす。
僕は彼女の持つナイフで自分の耳を削ぎ落とす。そこで目が覚める。
汗で濡れた朝だ。彼女はまだ起きていなかったので、着替えて洗濯機にシャツを入れた。
回していると彼女が起きてきて、欠伸をする。
「今日は早いね」そう言うといつもの様に「朝ごはんなんにしよっか」と聞いてくる。
僕は少し食べる気分じゃなかったが、「目玉焼き」という。
彼女は「少し待っててね」と言い冷蔵庫を確認する。
僕は心の温度と同じようなそれに近づくのを嫌う。
卵を見つけ寝ぼけて玉子焼きを作り始める。
そんな彼女は少し愛おしくなる。愛してはいないが。
いつの日かバレる嘘に僕は脅えている。
だけど、嘘から誠になる日を僕は信じている。
彼女を愛することが僕にはできるのだろうか。そんなふうなことを考えて彼女を後ろから抱きしめる。
きっといつかを夢見て。
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